【読書】MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か その0
出版情報
タイトル:MMT講義ノート:貨幣の起源、主権国家の原点とは何か
著者:島倉 原
出版社 : 白水社
発売日 : 2022/6/1
単行本(ソフトカバー) : 268ページ
話題のMMTだよ!
MMTは左翼の理論?
知っている人は知っているMMT。現代貨幣理論。Modern Monetary Theory。だから今さらMMTかよ?という人も多いだろう。だけど私には今さらだけどMMT学ぶ必要がある。ある保守系の集まりで「MMTは左翼の理論です。なぜ保守のみなさんがMMTを推すのかわからない」と発言した人がいて、その人に何も言えなかったので。薄らぼんやりと、表面的にしか、MMTを理解していなかったので。なぜMMTなのか。MMTの何がよいのか、MMTの何に希望が持てるのか。改めて知りたい、と思ったのだ。
本書を読んでなぜ「左翼の理論だよ」という人がいるか、すぐにわかった。MMTの特徴的な言説の一つに、「自国通過建て国債を発行する政府は財政破綻しない」がある。これを論拠として、米民主党下院議員で極左のオカシオ=コルテスはばら撒き政策をぶち上げ、あるいは、日本でも左派寄りの人々はベーシック・インカムなどを提案している。だから、一部の人は「MMTは左翼の理論」のように見えるのだろう。
だが、MMTは左派の理論でも右派の理論でもなく、経済の理論の中に、貨幣と国家を組み込んだ、ただの健全な経済理論である。バランスシートが読めて常識的な感覚がある人であれば、誰でも理解できる。主流派経済学を信奉する人々がMMTを攻撃したり、MMTだからこそ提唱できる経済対策を実行しようとしないのは(緊縮財政から離れられないのは)、そこに既得権益や自身の出世が絡んでいるからだと思う(ザイム真理教ね)。
MMTがただの健全な経済理論(貨幣論)であればこそ、インフラ投資や次世代産業・人材育成投資を心置きなく行える論拠となる。いずれも緊縮財政下では十分に行えていないものだ。真の少子化対策もMMTを論拠にすれば可能になるのではないだろうか?
本記事はプレ記事
本記事は、MMT講義ノートの詳細に入っていく前のプレ記事という位置づけである。MMT講義ノートへの理解が進むように、MMTの特徴を、MMTが採用している経済モデルとその結果から導かれる特徴的な言説としてまとめた。まとめた特徴は、本書を読んだり、『負債論』(文化人類学から貨幣を眺めた良書だ)を読んだり、三橋TVやムギタローchそのほかを見たりして得られたものだ。だから、MMTをよく知っている方にとっては、「そんなことも知らなかったの!?」ということばかりだろう(MMT講義ノートそのものがMMTをよく知っている人から見れば「そんなことも知らなかったの!?」なのかもしれないが💦)(それは流石に著者 島倉に失礼か)。
さらに日本が失われた30年を取り戻し、再び経済成長するためには、財政赤字は気にせず、積極的な財政出動が必要であることを説明する。
MMT講義ノートそのものの紹介は、次回以降にゆずる。
MMTの特徴1:経済における国家の役割を明確にした
現代貨幣理論をググると、GoogleのAIは2024年12月現在下記のように回答する。
AIの回答:現代貨幣理論
引用元は衆議院の質問主意書だ。
本書MMT講義ノートを読むと、MMTは上記よりもっと豊かに経済を説明してくれるツールであることがわかる(AIも何やらもう少し説明している)。
MMTは国家の役割を明確にした:ムギタロー氏の図
私はMMTの特徴は貨幣を実態に即して説明している点にあると思う。通貨発行における国家の役割が主流派経済学と比べて天と地ほど違う。これを明確に示しているのが下図だ。
ムギタロー氏は東大の博士課程を修了し、MMTに関する本を経済学者監修で出版している。だからこの図もそう的外れなものではない。いや、かなりうまく、いや端的に説明している。「立法権や徴税権、通貨発行権がある国が、企業(や国民)などと同じプレーヤーの一人なわけないだろ、だってゲームのルールを決められる側なんだから」と。日銀など中央銀行を通して金利も通貨発行量もコントロールできるのだから(政府と中央銀行を合わせた統合政府は金融政策を決定できる)。
別の言い方をすると、MMTと主流派経済学での国家の役割の違いは、(1)貨幣観の違い(商品貨幣論と国定貨幣論(債権貨幣論))と(2)中央銀行を国家から独立したものとして扱うか、中央銀行は国家の子会社として統合政府として扱うか、という2つの違いに由来している。商品貨幣論は簡単に言ってしまえば貨幣は金や石油など有限の商品と同じように扱われるというもの。国定貨幣論(債券貨幣論)は貨幣は国家の税金として支払われることで信用が裏打ちされている、というもの。詳しい話は次回以降にゆずる。
改めてMMTの特徴
私は自分のためにMMTの特徴を下記の4つにまとめた。これらはすべてMMTが国定貨幣論(債券貨幣論)に基づいていることから生じる言説である。
(1) 自国通過建て国債を発行する政府は財政破綻しない。
(2)税は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない。
(3)政府の赤字は、みんなの黒字。
(4)通貨発行量には供給能力からくる限界がある。
MMTは貨幣に関する言説と、そこから導かれる財政政策への具体的な提案(就業保証プログラム)からなる。上記はすべてMMTの貨幣に関する言説とのみ関わりがある。MMTの特徴を上記のように定めたのは、MMTの特徴を活かした財政政策は、就業保証プログラムの他にも無限にとりうるからだ。
MMTの特徴2:主流派経済学やリフレ派との違い
経済学の素養のない私が、何を書けるわけでもない。だが財務省による緊縮財政にNOをいうためには、ざっとでいいので違いを知っておく方がいいように感じている。
経済政策の2本柱:金融政策と財政政策
MMTと主流派経済学やリフレ派との違いを述べる前に、経済政策について述べておこう。
経済政策には日銀など中央銀行による金融政策と国家=政府による財政政策がある。両方とも物価や雇用などを安定させ、国民に安定した(経済)生活を送ってもらうための政策だ。GoogleのAIは下記のように答えてくれた。
金融政策には、日銀による通貨供給量(マネタリーベース)と政策金利の決定がある。
財政政策の手段には、下記のような歳入と歳出に関わるものがある。
また、財政政策の目的も適切に答えてくれていたので引用する。
まとめると
経済政策
金融政策
通貨供給量の管理
政策金利の管理
財政政策
歳入に関する政策(税制など)
歳出に関する政策(公共事業など)
となる。
島倉による経済学の分類
MMT講義ノートの著者 島倉は下記のように経済学の流派をまとめている。
島倉によると、『国家の存在を否定的に捉える傾向が強い系統』の経済学派は「経済や市場の振る舞いをあたかも物理学のように記述し解明したい」哲学(アダム・スミス)が根底にあり、『国家の役割を重視する系統』はそもそも経済学から出発していない、という違いがあるという。
三橋によると、戦後間も無くから1970年代後半まで先進国の発展はケインズ経済学によるものだという(YouTube番組 結局、リフレ派って何だったの?[三橋TV第104回]三橋貴明・saya 2'12"ごろ)。
ムギタロー氏によるMMTと主流派経済学の違い
MMTの概要が知りたいのであれば、【15分で全体がわかる】東大生が教える現代貨幣理論(MMT)入門 後編はかなり秀逸である。いやむしろ本記事を読むより、ムギタロー氏の動画を見る方が早いしわかりやすい。下記は動画内でムギタロー氏がまとめているMMTと主流派経済学の違いである。各項目などは次回以降で見ていく予定である。本記事では、下図を説明は抜きで掲載する(不親切で申し訳ないが、適切にまとめている!と感じたので)。
市場に任せておけばうまくいく??:新自由主義の終焉??
アダム・スミスは18世紀の経済学者。経済学の父である。若い頃、物理学のニュートンに惹かれ『文学の歴史により例証された哲学的論究を指導し方向づける諸原理』という論文を執筆した。「自然科学と道徳哲学の間の類推」を行なっているという。
ここに経済学の数学モデル化の淵源があるのかもしれない。神様が精巧に作りたもうて美しい数式で記述される自然世界(物理世界)。同じように経済学や人文学でも何某かを数式で美しく記述可能なのではないか?と(アダム・スミス自身の国富論には数式は登場しないのではあるが)。
アダム・スミスといえば、「神の見えざる手」という言説が有名だ。現在の経済学では「市場における自由競争が最適な資源配分をもたらす」「需給関係を通じた価格変動の自動的な調整機能」を指す言葉なのだそうだ。
要するに「市場に任せておけばうまくいくのだから、国家が下手に介入しようとしないこと」という文脈で使われる、ということだ。これまた新自由主義の規制をなくして国家による統制をなくして、国境を跨いで、利潤を最大化しようとするグローバル企業や各種グローバリスト(国内企業に入り込んだ社外取締役や政府中枢で日本を破壊しようとする勢力たち)が大好きな文言だ。
リフレ派経済学者 高橋洋一氏によると、「MMTは数式がないから分かりづらい」という。彼は「ワルラス式」という言い方をしているが、ワルラスの一般均衡論を用いて、金利上限などを計算している、ということなのでは、と推測する。ワルラスの一般均衡論は、ざっくりいえば、
消費者はできるだけいっぱい安く買おうとするし、生産者はできるだけいっぱい高く売ろうとする(効用関数と呼ばれる関数を使う)。
需要と供給は一致している。
という条件を満たすように市場の価格が決定される、というものである。つまり、市場価格の予想を立てようというものだ。
偏った見方かもしれないが、私は効用関数の立て方次第で、どんなふうな市場価格でも予想値にできてしまうのではないかと思う。つまり、胡散臭さの塊だ(経済学の人、ごめんなさい💦)。こういうある種のミクロ経済学の理論をマクロ経済にも応用していいものなのだろうか?いいものなのだろうから、高橋洋一氏は、リフレ派を名乗っているのだろう。
ある一定の条件や数学モデルを使って理想の状態から最適解を導き出す…。もう、そういうのって、クリエイティブから遠くなっているんじゃないのかな?(ごめんなさい、経済学の人💦)
こういう感想は私だけかと思っていたら、負債論にも、同様のことが書かれていた。
『負債論』の著者 グレーバー氏はもっと複雑なことを伝えようとしているのだろうが、骨子としては「複雑な人間の行動を単純な仮定と数式に還元してしまう危うさ」を訴えていることには違いないだろう。
私の言いたい極論は下記のことだ。
日本経済は数学モデルと市場の自由化だけじゃどうにもならなかった30年じゃないのかな?
理想的な状況を無理に作り出そうとしたり、当てはめようとしたり。もうそういうの、流行らないんじゃないのかな?(もちろん数学モデルが有用な場面もいっぱいあると思う。数学モデルが全部だめ、と言っているわけじゃない)。
他のリフレ派の人は、高圧経済などという、新しい経済政策も提案している。高圧経済は、金融、財政両方から、需要過多状態を作り出し、日本経済の復活を狙う経済政策だそうなので、MMTが提案する財政政策とも齟齬がなさそうだ。需要の創出は金融政策だけではできない(お金をいくら供給し金利を下げても、それだけでは人は何かを欲しいとは思わないし、投資をしようとも思わない)。
失われた30年を取り戻すために:財政支出と経済成長
自国通貨建て国債を発行する政府は財政破綻せず、通貨発行量の上限は実体経済の供給量による。MMTの特徴的な言説だ。
日本が失われた30年を取り戻すには、どうすれば良いのか?
みながすでに言っていることではあるが、積極財政だ。政府支出によって潜在的な供給能力を活用することができ、それが経済成長へとつながる。
いくつかのグラフによって、説明しよう。
経済評論家の三橋貴明は、下図をよく使う。日本は本来の供給能力に対して総需要が足りない。つまりそれがデフレである。需要が足りずに、本来の供給能力が使われずに、経済成長できていない。
では、どのように需要を増やすのか?
それは財政出動、つまり政府支出によって、である。
日本は他の先進国に比べて、政府支出を行っていない。それが経済成長の低さに直結している。
さらに詳しく分析している学者がいる。
下記は環境経済学の朴勝俊氏による政府支出と経済成長のグラフ。政府支出の伸び率が高いほど、経済成長率も高い。
さらに日本の場合は、政府支出が増えると総需要(GDP)も増える(その逆ではない)。
つまり、デフレで需要が足りないために経済成長していない日本においては、政府支出が経済成長のカギとなる。財政赤字は気にせずに、積極的な財政出動をすることで、使われていなかった潜在的な供給能力を呼び覚まし再び経済成長できる日本にする。MMTを論理基盤とすることで、そのことは容易に可能なのである。
今までのことは、今までのこと。専門家に任せっぱなしだった私たち国民にも責任がある。専門家は頭の切り替えが遅い時もある。だって、それが彼らのメシの種なのだから。
国民のマインドが変化すると専門家や官僚、政治家もマインドを変えざるを得なくなる時が来る。
だから…私たち自身が頭を切り替えていく必要がある…と私は信じている。
引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。
また、文言の間違い、表現のわかりやすさなど、随時訂正しています。ご了承ください
おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために
ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。
島倉原の著作
ランダル・レイ
MMT研究の第一人者だそうです。本書の著者 島倉原が監訳している。
ビル・ミッチェル
有料記事ですが…。
藤井聡氏との共著。
ステファニー・ケルトン
有料記事ですが…。
三橋TV
1分50秒ごろから
高橋洋一
リフレ派の論客。
ワルラスの一般均衡理論
リフレ派の提案する高圧経済
負債論
貨幣理解の文化人類学的アプローチ。文化人類学から見てもMMTが主流派経済学よりまともである、と言っているように見えるのだが…。
企業家としての国家
積極財政の方向性へのヒントとして。
ザイム真理教
オカシオ=コルテス下院議員
若くて美人。ニューヨークの若者の心を鷲掴み??そして極左。
安藤裕 元衆議院議員
ムギタロー
石橋湛山とリフレ派経済学
朴勝俊
森永康平のビズアップchで知った学者さん。環境経済学=左派の経済学の研究者。もちろん『れいわ推し』の方です。右左関係なく、貨幣観が一致している。ただし、それによる財政政策が右派と左派で異なる。異なっていいのだ。まず、正しい貨幣観を普及させる必要がある。
一般均衡理論
現在もっとも標準的なモデル。アロー=ドブリュー・モデル。
MMTでハイパーインフレにならない理由
いつか読みたい本
ポランニー:大転換
中野剛志:富国と強兵
原丈二:国富論
これは近々に読みたいかも。