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【読書】シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻)) 予告編

出版情報

  • タイトル:シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻))

  • 著者:岡田英弘

  • 出版社 ‏ : ‎ 藤原書店 (2014/5/24)

  • 単行本 ‏ : ‎ 569ページ

膨大な岡田史観の一部にすぎない

 一般の人(私を含む)にとって「岡田英弘?誰?」であるが、知る人ぞ知る、大歴史学者(=東洋史家)である。昭和6年(1931)生まれの岡田は、昭和32年(1957)に史上最年少(26歳)で日本学士院賞受賞。wikiによれば、「既存の中国正史に追従する中国史学の在り方に異を唱えたことで、日本の史学界では長年異端扱いされた」とのこと。それでも押しも押されもせぬ東京外語大の名誉教授で、モンゴル国で一番名誉ある賞である北極星勲章を平成20年(2008)に贈られている。平成29年(2017)に86歳で亡くなった。日本でも文化勲章くらい取らせてあげたかったなぁ。(本書を読んでの個人的な感想です)。

 岡田は圧倒的な漢文、満州語、モンゴル語などの読解力で東洋史家として出発し、モンゴル帝国が世界史を作ったという岡田史観に到達。ある時から中国を『中国』と呼ぶことをやめた。それが本書の題名シナ(チャイナ)とは何かにも表れている。研究を深める中で「中国4000年の歴史」と言う欺瞞に加担する行為であると気づいたためである。本書の中では、もう少し学術的に(柔らかく!?)、次のように述べている。

私は本著作集において、「中国」という名称を、十九世紀以前の隣の大陸にいっさい使用しない事に決めた。なぜなら、「中国」という国家が誕生したのは1912年であり、この言葉が今のような意味に使用されるようになったのも、十九世紀末が始まりだからである。言葉がないということは、概念もなかった、ということである。
 もともと、英語の「チャイナChina」に対応する日本語は「シナ(支那)」だった。ところが、第二次世界大戦後、日本を占領下に置いたGHQの命令と、日本人自身の過剰な自己規制により、すべて「中国」と言い換えてしまったために、その後、嘘が拡大して今日に至った。私もこれまで、紀元前221年の秦の始皇帝の統一によって誕生した政治形態と文明を、中国文明と呼んできたが、今後は、秦という王朝名を起源とするシナを使って、正しくこれをシナ文明と呼ぶことにする。

シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻))  p1

 一方、返す刀で、日本史については、応神天皇以前の天皇は実存しなかったと断言している。また魏志倭人伝の邪馬台国の位置については、当時中央アジアで存在感を放っていた「大月氏」とのバランスを取るためにチャイナ特有の誇大叙述で距離が記載されていると述べている。(瀬戸内海のどこかだろうとのこと)。

…あれれ?やっぱりトンデモ研究者かな?と思う向きもあるかもしれない。しかしながら、その本を出版しているのが文藝春秋であると言うことは編集者も一定の理があると、納得した上でのことだろう。研究者としての実力は東京外語大が担保してくれている(と素人としては判断する)。読者自身がどういうスタンスで読むのか問われる部分もあるのかもしれないし、あるいは、岡田の業績の真の評価は今後にかかってくるのかもしれない。

 でも、いずれにしろ岡田の、特にチャイナ、モンゴル、満州研究に関する業績は無視することはできないのでは、と思う。圧倒的な語学力。文献を縦横に読み、歴史観としてまとめ上げる力。中共元副主席の王岐山ですら、岡田の研究を褒めている
 研究の方向性や到達した歴史観は違うけれど、その、ツボを押さえながらの自由奔放さは、今だったら田中英道氏を思い起こさせる…。

本書は、岡田の歴史研究や岡田史観のほんの一部にすぎない。膨大な岡田史観を全8冊にまとめて読めるのは、見方を変えれば、きっとコンパクトでお手軽なことなのだろう。だがこちらは600ページ近い本書を読むのですら、ヒイコラいう歴史素人だ。いつの日か、全8冊読破する日が来るかもしれないが、今は、まず、本書の感想をまとめてみたいと思う。今のところ、次回以降、何回かに分けて感想記事を書く予定である。まずは「漢字について」。ちょっとさわりを見てみよう。

現在のチャイナ文明は日本文明のコピー

 岡田は「日清戦争に負けて以降のチャイナ文明は、日本文明のコピーである」と言う。
 その根拠の一つは、現代チャイナ語には約70%ほどの日本語(正確には日本経由の外来語)が含まれていることだ。中華人民共和国という国名。この中の『人民』も『共和国』も日本語だ。当時のシナ人は日本語ではない訳語も、もちろん考えた。だが、結局は根付かなかった。さらに岡田によると、文法までが、日清戦争に負けて以降日本語寄りになった、魯迅の白話小説(口語による小説)は、チャイナ語の日本語化の試みである、とp534。
 科挙に必要であった四書五経は、いわば、漢文を読み書きするための暗号表であり、それが現在では、毛沢東語録や習近平語録になったのだ、と。普通語プートンホワ(≒北京語)をしゃべるのはテレビのアナウンサーと学校の先生と外国人ばかりであり、北京語ですら、ネイティブのしゃべりの中には「漢字にできない単語がある」とのこと。
 そんなの、聞いたことない!という話ばかりだ。

 ぜひ、本書を読んでほしい、(あるいは、次回以降の記事に期待してほしい)。(自らハードルあげてどうする!汗)(都合で次回記事はアップが少し遅くなるかもしれません)。


以下に本書の目次を掲載する。

はじめに
第I部 シナ文明とは何か
 通史 漢族とシナ社会
 シナ文明を解析する
 シナから中国へ――シナに見る「国家」の変遷
 漢人とはどういう人々か
 シナの都市とはいかなるものか
 シナの官僚とは何か――私腹を肥やすシステム
第II部 歴史はこうしてつくられた――シナの歴史家たち
 はじめに――シナの歴史観はどう形づくられたか
 1 司馬遷の『史記』――歴史の創造
 2 班固の『漢書』――断代史の出現
 3 陳寿の『三国志』――「正統」の分裂
 4 司馬光の『資治通鑑』――負け惜しみの中華思想
 5 宋濂らの『元史』――真実を覆い隠す悪弊
 6 祁韻士の『欽定外藩蒙古回部王公表伝』――新しい歴史への挑戦
第III部 シナ史の諸相
 シナは始皇帝から始まった
 『三国志』の地政学的考察
 魏が三国時代を生き残った理由
 三国時代のシナと倭国
 “史上最悪の暴君”煬帝の実像
 モンゴルを追い出した明の永楽帝の母はモンゴル人?
 王陽明の苦悩――官僚の使命と現実のはざまで
 発言録
第IV部 漢字とは何か
 漢字の正体――マクルーハンの提起を受けて
 書き言葉と話し言葉の関係
 漢字の宿命
 漢字が生んだ漢人の精神世界
 日清戦争後の日本語の侵入
 現代中国における「和製漢語」の実態
 魯迅の悲劇
 「時文」と「白話文」
 中国の文字改革――表音化への志向と挫折
 漢字をめぐる発言録

 おわりに
 初出一覧
 図表一覧
 人名・神名索引
 事項索引

シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻))  目次




引用内、引用外に関わらず、太字、並字の区別は、本稿作者がつけました。
文中数字については、引用内、引用外に関わらず、漢数字、ローマ数字は、その時々で読みやすいと判断した方を本稿作者の判断で使用しています。

おまけ:さらに見識を広げたり知識を深めたい方のために

ちょっと検索して気持ちに引っかかったものを載せてみます。
私もまだ読んでいない本もありますが、もしお役に立つようであればご参考までに。

本書『シナ(チャイナ)とは何か (第4巻) (岡田英弘著作集(全8巻))』

『皇帝たちの中国 始皇帝から習近平まで』
お手頃価格で、お手頃サイズだが、私はあまり面白いと思わなかった。あまりにダイジェストすぎる。本書ですら、読んでみればダイジェストのように感じてしまう。どれだけ深いんだ、岡田史観…。


弟子で妻の宮脇淳子氏はモンゴル研究の専門家。結構YouTube番組に出演している。検索すれば、他にもたくさんある。面白く視聴できるものばかりである。オススメします。


noteにお祝いをいただきました。よかったら、読んでみてください。


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