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絶滅危惧の「船場言葉」

「まいど、おおきに。儲かりまっか?」
「まいど!ボチボチでんな。」

私がこどもの頃、商店だけでなく中小企業の社長なども、このやり取りが定番だったように思います。

いわゆる「でんがな。まんがな。」の船場言葉は最近ではめっきり聞かなくなりました。

もしかしたら、大阪人であっても20代以下の若い世代にはすでに通じない言葉となっていることでしょう。
周りに船場言葉を使う大人がいないので仕方のないことかもしれません。

親の世代はまだまだ普通に使っていた言葉でしたが、私の世代には使わないのが現状なのです。

このまま「船場言葉」は廃れていくのでしょうか。


藤山寛美で学んだかも

私の小学校時代は、土曜日でも午前中のみ授業があり、土曜のみ給食はなく、昼食は自宅に帰ってからでした。

そんな昼食中に、必ず観ていたテレビが「松竹新喜劇」で、そこに登場する藤山寛美ふじやまかんびの芝居に釘付けになっていたものです。

当時の彼は松竹新喜劇の看板スターで、舞台、映画、テレビなどで毎日必ず見かけるぐらいの人気役者でした。

そのアホに徹した演技は笑いを誘いながらも、物事の道理を貫き正義を語る役柄で、人情味あふれる演技に笑い泣き、最後は感動を誘うものでした。


画像出典:Wikipedia

彼が演じる丁稚や若旦那のアホっぷりが面白くてハマっていたのですが、子供心にも明らかに、普段自分が喋る言葉との違いを感じ、ところどころ解らない表現があると、その場で母に質問したものでした。

ひとつひとつの言葉の意味が解るたびに、大阪弁にも歴史があるものだとおぼろげにも感じ取り、不思議な奥深さを感じていたのです。



船場言葉とは

大阪市の中心業務地区である船場の商家で用いられた言葉。昭和中期まで、折り目正しい大阪弁の代表格として意識されていた。

Wikipedia


大阪商人たちの標準語

大阪の船場といえば、今でも有名企業のビルが立ち並ぶオフィス街です。
特に江戸時代以降、商業の発展が目覚ましく、あらゆる商家が軒を連ねていました。

そんな中で、顧客に対してへりくだった対応と、上品な言い回しの丁寧な言葉遣いが必要とされて生まれたのが「船場言葉」なのです。

やがて大阪商人たちの船場言葉こそが、大阪の標準語として定着しました。

ちょっと前の朝ドラ「おちょやん」では、大阪に奉公にきた千代の返事が「はい」だったのを「へぇ」に強制的に直されていました。

正直なところ、私も「そーなん??」と驚き、逆ではないかと思ったほどで、大阪船場での標準語の返事は「へぇ」なのだと認識したのです。


京ことばのニュアンス

船場言葉は、いわゆる一般的な大阪弁に比べるとはんなりゆったりしていて、京都弁のニュアンスに近いのかもしません。

しかし実は京都よりも船場の方が、生粋の公家言葉が受け継がれたという説もあり、元々は都だった京都は客層に武家が多く、旗本や大名の言葉遣いも多かったといいます。

例えば。
船場では雇われている主人の奥さんを「ごりょんさん」と呼びますが、
京都の商家では「奥様」と呼ぶことも多いらしいのです。



今は使わない船場言葉

絶滅した言葉

商家の奥さん事を「御寮人」から訛った「ごりょんさん」といいますが、「お家さん」から訛った「おえはん」ともいい、その夫の事は「旦那さん」から「だんさん」となります。

そして、そのお嬢さんの事は「いとはん」
愛おしい人が語源で、家にとって大切な人という意味からきていて、「こいさん」は、小さい「いとはん」で「こいとさん」から進化した言葉です。

その姉妹の間は?というと「なかいとはん」から「なかんちゃん」となり、やがて最後の「ん」を発音しなくなり、「なかんちゃ」となるところもあります。

整理すると、
・長女ーいとはん
・次女ーなかんちゃ
・三女ーこいさん

男兄弟なら
・長男ーあにぼんさん
・次男ーなかぼんさん
・三男ーこぼんさん
成人したら、「わかだんさん」となる。


通じるが使わない言葉

その他、最近はあまり聞かなくなった言葉として次のような言葉があります。
・「勉強させてもらいまっさ」ー値引きさせていただきます
・「いてさんじます」ーいってきます
・「ええし」ー金持ちの人
・「がしんたれ」ー頼りない貧弱な人
・「サッパリわやや」ーどうにもならない、元の木阿弥
・「せわしない」ー落ち着きがない、忙しい
・「自分は?」ーあなたは?


大阪版慣用句?

今回、記事を書くに当って調べようとWikipediaを覗いてみると、ちょっとしたシャレの効いた言い回しを見つけました。

さすがに私も知らないものも多く、まさしくお笑いの大阪だなと唸ってしまうような慣用句的な文言がありました。
今や、これらはだれにも通じないないでしょう。

・白犬のおいどお尻ー面白い(尾も白い)
(⇔黒犬のおいどお尻ー面白くない(尾も白くない))
・牛のおいどお尻:物知り(モーの尻)
・うどん屋の釜ー言うばかり(湯ぅばかり)
・夜明けの行灯あんどんー薄ぼんやり
・春の夕暮れーケチ(くれそうでくれん)
・赤子の行水ー金足らいで泣いている(金たらいで泣いている)
・狐のやいとお灸:困窮している(コン灸)
・ちびた鋸ー切っても切れない(仲)
・無地の羽織ー一文なし(一紋なし)



大切に守りたい大阪の言語

船場言葉は商売上必要な丁寧で上品な表現が求められ、京言葉にも影響されながら穏やかな言葉へと独自に発達しました。

本来は戦国から江戸時代からの近世に使われていた土地の方言として歴史を持つ言葉でありながら、今の大阪では、「ごりょんさん」や「いとはん」も存在せず、さらに進化を遂げて、テンポの早い会話に変化し、「はんなり」さも「ゆったり」さも失われています。

今や落語などの限られたものでしか残っていないのです。

最近の若者は何でも言葉を短縮して、2単語を一つにまとめたり、新語を作ったりと、従来の日本語もだんだん形が変わりつつあるのかもしれません。

時代とともに言葉は変わっていくものだとしても、長年培ってきた土地の言葉や言い回しを忘れてしまっては、本来の文化は忘れ去られてしまいます。

普段は口語として使わなくなった言葉も、時々は掘り起こして、日本語というものの本質を知る上で、忘れてはいけないのではないかと思います。

私は一人の大阪人として、その原語ともいえる船場言葉を大切に思い、その変化形である大阪弁に誇りを持ち続けたいと思っています。


これは大阪に限らず日本全国のどこにでも言えることで、その土地々々の背景文化に伴って、独自の言語が少しでも後世に残る事を願ってやみません。



【参考文献】
LIFULL HOME'S PRESS
Wikipedia
キュリエスト
Yahooニュース

・トップ画像:photoAC


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