ゲーム翻訳の現場で学ぶ中国語翻訳#1
【勝利の女神:NIKKE】夏の特別ASMR - ダーリンは海辺と膝の上【バイパー】
今回は人気ゲームNIKKEより、こちらのASMRボイスで勉強させていただきました。
Youtube動画を開き、概要欄のTranscriptで中国語を選択すると中国語スクリプトを見ることができます。
ボイスの日本語と照らし合わせると、ゲーム翻訳のテキストがどのような日本語に翻訳されたのか学べます。
(ASMRボイスの原文言語は分からないため、逆に日本語から中国語に翻訳されている可能性もありますが、それでも勉強になります)
少なくとも日本語として出ているセリフは校正を経て商品としてのクオリティになったものなので、プロの仕事のレベルが分かると思います。
それでは、私が「うまいなぁ」と思った訳を抜粋して解説していきます。
※ゲームの内容的に、ちょっぴりえっちです。
セリフ翻訳解説
①好久都没有像现在这样,和亲爱的一起约会了呢。
本当、ダーリンとのデートなんて久しぶり。
✅ポイント:直訳すると「かなり長い間、今みたいにダーリンと一緒にデートに行っていなかった」ですが、これだとくどすぎて違和感がありますよね。像现在这样(今のように)は状況から明らかなので、日本語のセリフでは省略されています。ボイス付きのセリフなので、「本当、」で強調して区切ることでテンポがよくなっています。
真讨厌,这粒小沙子竟然比我更靠近亲爱的……
ダーリンにくっつくなんて、悪い子だね~?
✅ポイント:直訳すると「本当に嫌だ、この砂は私よりもダーリンに近付いている……」です。竟然は「何と、まさか」という話者の驚きを表す言葉なのですが、日本語に訳出すると「何とまぁ○○なことよ」のようにかなり取ってつけた感が出てしまうので、省略することが多いです。セリフであれば声のトーンや表情で驚きや不満を表現できるため、わざわざ文字にする必要はないと思います。
大家都说透过眼睛能看到一个人的内心世界。
目は心を映し出す鏡って言うじゃない?
✅ポイント:直訳すると「みんな、目を通して人の内面世界が見えるって言うの」です。直訳でも別におかしくはなく、私もこのような直訳調の訳文を提出してしまうこともあるのですが、これを「目は心を映し出す鏡」に言い換えているのは本当にうまいと思いました。こんな訳をパッと思いつける翻訳者になりたいものです。
帮我看看,我的眼里、我的心里,究竟是被什么被占满了?
私の目を見て、心を覗いてみてくれない?
✅ポイント:直訳すると「見てくれない、私の目の中が、私の心の中が、一体何でいっぱいになっているのか?」です。まず帮我の訳について、これは「~してくれない?」と訳すことが多いですが、日本語よりももっと気軽&頻繁に使う言葉なのでニュアンスが微妙に異なり、訳に悩むこともあります。○○里は「~の中」という意味なのですが、我的包里(バッグに)、在学校里(学校で)など、日本語では「~の中」とは言わないところにも頻繁に使われるため、「~の中」と訳すと不自然になります。私が校正で担当するテキストでは○○里が「~の中」になっていることが多く、必ず修正するようにしています。
このセリフの直前に「胸が張り裂けそう」という旨のセリフがあるため、究竟是被什么被占满了は省略されています。
唉,真是让人伤心。某人都不懂我的心情。
あ~あ~、ショックだなぁ。誰かさんは私の気も知らないで~
✅ポイント:直訳すると「ああ、本当に傷付くなぁ。誰かさんは私の気持ちが分からない」です。傷付く→ショックの言い換えは簡単ですが、私の気持ちが分からない→私の気も知らないでと言い換えたのがとても自然だと思いました。
可是实在是抱歉呢,我就喜欢看亲爱的花脸猫的样子,呼呼~
あはっ♡だって、ダーリンのだらしない姿を見るのも大好きなんだも~ん。
✅ポイント:花脸猫は模様のあるネコ(三毛猫など)という意味のようですが、スラングとしての意味は正確には分かりませんでした(分かる方がいたらぜひ教えてください!)。のんびりしたネコから発想を広げて「だらしない姿」と翻訳しています。
また、可是实在是抱歉呢(本当にごめんね)は「なんだも~ん」に吸収される形で省略されています。全体的にこのキャラクターは戸惑うリスナーを翻弄するような口調なので、突然「ごめんね」を持ってくるのは違和感があります。
まとめ
全体的に直訳からかなり離れた、非常に練られたセリフだと感じました。
日本語はどうしても中国語より文字数が多くなるため、アニメーションにボイスを付ける場合は情報量を削る必要が出てきます。
ボイスを付けないテキストの場合、あまり省略すると「訳漏れ」と言われてしまうので、もう少し原文に寄せた訳にすると思います。
ただ、原文そのままに訳すと不自然さが残ることは往々にしてあるため、言い換え方法を学ぶことはとても意義があります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考になればうれしいです!