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塔の魔導師 free

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「君には魔導師の才能がある。」 奴隷階級の少年リンは、旅の魔導師ユインからそう告げられる。 その日からリンの魔導師を目指す旅が始まった。リンはユインに連れられて魔導師の街グィンガ…
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#連載小説

第77話「艦隊の季節」

第77話「艦隊の季節」

前回、第76話「ラドスの4人組」

各話リスト

 リンは師匠のユインと月に一回の面会を行っていた。

 授業選択の相談と今後の進路について話し合うことが目的だ。

 まずユインが口を開いた。

「では早速面会を始めよう。まず聞きたいんだが、君はこの塔で何を目指しているんだい?」

「はい。師匠。僕は塔の頂上を目指しています」

「ほう。それはどうして?」

「えっと……立派な魔導師になるために…

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第76話「ラドスの4人組」

第76話「ラドスの4人組」

前回、第75話「移ろいゆくもの」

各話リスト

 リンはユヴェンとテリムに連れ立って貴族達のお茶会に参加していた。

 入学式を終えた貴族の新入生達が祝福されている。

 彼らは会場のステージに立って一人一人白銀の留め金を受け取っている。

 こうして彼らは貴族としての自覚を持ち、自分が特別であることを理解して、互いに強固な仲間意識で結びつくのだ。

 リンは会場の美々しさに息を飲んだ。

 テ

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第75話「移ろいゆくもの」

第75話「移ろいゆくもの」

前回、第74話「200階の魔女」

各話リスト

 リンとテオが廊下を歩いていると向こうからユヴェンとテリムがやってきた。

 二人とも中等クラスの魔導師のアイテムを装備している。

 この二人も無事中等クラスに進級していた。

「やあ、リン。テオ。新学期もよろしくね」

 テリムが上品な仕草で挨拶をしてくる。

「あら、裏切り者とおべっか野郎じゃない。どうしたの? こんなところで」

 ユヴェン

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第74話「200階の魔女」

第74話「200階の魔女」

前回、第73話「少年と春風」

各話リスト

 魔導師の塔の一角にもかかわらず太陽石の光が届かない薄暗い場所。

 ただろうそくの日による微かな明かりが揺れるのみで足元すら覚束ない。

 ここは塔内で罪を犯した魔導師達が収監される牢獄。

 堅固な岩石で囲まれ鉄柵で仕切られたそれぞれの部屋には手足に枷をはめられた囚人達が座り込んで俯いている。

 いくつもの牢屋が並べられ捕まった囚人達にできるのは

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第73話 少年と春風

第73話 少年と春風

前回、第72話「絶対零度の剣」

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「うっ、イテテ」

 リンはテオに助け起こしてもらいどうにか立ち上がる。

 魔力を失った反動で体の節々に痛みが走った。

「大丈夫か?」

 テオがリンを気遣うように言った。

「うん。なんとか大丈夫。君こそ大分痛めつけられてたんじゃないの」

「っ、そういえばさっきからあの女に踏みつけられた方の手が言うこと聞かねーや」

 テオは思い出したように

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第50話 王室茶会への招待状

第50話 王室茶会への招待状

前回、第49話「アトレアの魔法」

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「うー、さぶっ」

 リンはアトレアと別れた後、ずぶ濡れになりながら自室までの道を歩いていた。

(アトレアの魔法を見れたのは良かったけど。このままじゃ風邪ひいちゃうよ。)

 リンが震えながらアルフルド行きのエレベーターの前で待っていると別のエレベーターがたどり着いて一人の学院生が降りてきた。

 見知らぬ人だったのでそのまま通り過ぎていくとリン

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第46話「冷たくも甘い声」

第46話「冷たくも甘い声」

前回、第45話「訃報」

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 リンは90階層を走り回っていた。

 エリオスの友人や知り合いをしらみつぶしに当たって、彼の死の真相について何か知っていないか聞き出すためだ。

 リンは動揺していた。

 彼にはまだ信じられなかった。

 つい一ヶ月ほど前まで普通に会話していたエリオスが死んだなんて。

 リンは走りながらつい先ほどしたアグルとの会話を反芻する。

「エリオスさんが死んだ

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第45話「訃報」

第45話「訃報」

前回、第44話「テオ、新しい商売を始める」

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「あら、テオじゃない」

「ん? ユヴェンか」

 リンとテオが物質生成の授業に出ようとしていたところ、ユヴェンと廊下で鉢合わせしてしまった。

「聞いたわよ。あなた最近お金に困っているそうね」

 ユヴェンが愉快そうに言う。

「ダメじゃないの。身の程をわきまえて節約しないと。あなたって本当に甲斐性ないんだから」

 ユヴェンは彼女独特

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第41話「ティドロとイリーウィアの選択」

第41話「ティドロとイリーウィアの選択」

前回、第40話「秩序と才能」

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 リンは森探索の残り5日間も同様にマグリルヘイムのメンバーとペアを組んで行動した。とはいえ、ティドロ以外のメンバーはリンとイエローゾーンには行きたがらなかった。

「う〜ん。君と一緒にイエローゾーンに行くのはちょっと不安だな。すまないが、ブルーゾーンのみの探索でいいかい?」

「ええ、僕は問題ないですよ」

 リンは年上の魔導師達の言いつけを素直に守り

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第40話「秩序と才能」

第40話「秩序と才能」

前回、第39話「イエローゾーン」

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 リンの不安をよそにイエローゾーンの探索は淡々と進んでいった。

 50メートル程進むごとにティドロは木や石に魔法文字を刻んでマークする。指輪の光が強くなれば周囲を警戒し、索敵して魔獣が出てくればティドロがそれを倒す。

 リンはティドロの言いつけを守りつつ、ただただティドロから何かを学ぼうと彼のことを観察し続けた。

(やっぱり凄い人だな)

 

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第39話「イエローゾーン」

第39話「イエローゾーン」

前回、第38話「二日目の組み合わせ」

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 先遣隊二日目。

 各ギルドが出発の準備や支度を始めるが、早いところは朝食を食べ終わるや否や続々キャンプ地を出て森に入り始めた。

 リンはティドロの後についてキャンプ地を出た。ティドロはイリーウィアと違ってリンの歩幅に合わせてくれなかった。リンは自分より体格の大きいティドロについていくため早足にならざるをえなかった。

 ティドロはキャンプ

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第33話「組み合わせのくじ」

第33話「組み合わせのくじ」

前回、第32話「魔獣の森とお姫様」

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「いつも通りくじでペアを決めまーす。一人一つずつ取ってくださーい」

 マグリルヘイム学生部・副団長のヘイスールがくじ引きの箱を持ってメンバーの間を回り、くじを引かせていく。

 マグリルヘイムでは二人一組でパートナーを作って森を探索するのが慣例となっていた。

 リンもくじを引いた。引いたくじには流星のイラストが描かれていた。

「俺は太陽か」

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第32話「魔獣の森とお姫様」

第32話「魔獣の森とお姫様」

前回、第31話「理不尽な徴税」

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 リンは朝早くから起きて下層へ行くエレベーターに乗り込んだ。今日はいよいよマグリルヘイムの一員として魔獣の森の探索に参加する日だった。

 リンはエリオス達とレンリルの街で待ち合わせして、塔の外に出て魔獣の森へ行くためのトロッコに乗り込んだ。

 魔獣の森はちょうど塔の北側に茂っていた。

「どうだリン。自分だけ授業をサボった感想は?」アグルがニヤニ

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第31話「理不尽な徴税」

第31話「理不尽な徴税」

前回、第30話「失敗し続ける市場、終わらないデフレの中いかに生きるか」

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 リンは数日後に迫った『ヘディンの森』の探索に備えて必要なものを買い集めていた。

「非常食7日分、対魔獣用の狩衣、緊急時の医薬品、遭難時のために魔力で特殊加工された発煙筒、対魔獣用の指輪……。食糧品店、服屋、薬局と道具屋に寄ってと……、指輪はアルフルドでないと買えねーな。明日学院から帰る際に寄っていくか」

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