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塔の魔導師 free

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「君には魔導師の才能がある。」 奴隷階級の少年リンは、旅の魔導師ユインからそう告げられる。 その日からリンの魔導師を目指す旅が始まった。リンはユインに連れられて魔導師の街グィンガ…
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2017年2月の記事一覧

第50話 王室茶会への招待状

第50話 王室茶会への招待状

前回、第49話「アトレアの魔法」

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「うー、さぶっ」

 リンはアトレアと別れた後、ずぶ濡れになりながら自室までの道を歩いていた。

(アトレアの魔法を見れたのは良かったけど。このままじゃ風邪ひいちゃうよ。)

 リンが震えながらアルフルド行きのエレベーターの前で待っていると別のエレベーターがたどり着いて一人の学院生が降りてきた。

 見知らぬ人だったのでそのまま通り過ぎていくとリン

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第49話 アトレアの魔法

第49話 アトレアの魔法

前回、第48話「再会」

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「魔法で……ゲーム?」

 リンはアトレアの提案に戸惑っていた。

「ええ、そうね。何がいいかしら」

 アトレアが人差し指を口元に当てながら思案する。

「鬼ごっこなんてどう?」

「鬼ごっこ?」

「そう。私の体のどこでもタッチすることができたらあなたの勝ち。私が塔の入り口にある時計台まで逃げられたら私の勝ち。15時までに時計台までたどり着けなかった時も

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第48話「再会」

第48話「再会」

前回、第47話「学院の欺瞞」

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 エリオスの葬式にリンは立ち会うことができなかった。

 というより葬式がされたかどうかすら分からないと言うのが本当のところだ。

 100階層で死んだ魔導師の葬儀は100階層に所属する魔導師にしかできないというのが塔の慣わしだそうだ。

 塔において魔導師は自分の所属する階層以上の場所にいかなる理由があろうとも侵入することはできず、全てがこの原則に支

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第47話「学院の欺瞞」

第47話「学院の欺瞞」

前回、第46話「冷たくも甘い声」

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 ユヴェンに冷たくあしらわれた後、リンにある考えが浮かんだ。

 彼にも貴族階級で100階層以上にいる知り合いが一人だけいることを思い出したのだ。

(なんで思いつかなかったんだろう。貴族階級で100階層以上にいる人。師匠がまさしくそれにあたるじゃないか)

 とはいえユインに素直に聞いたとしても教えてもらえるとは思えない。

 リンは一計を案じた

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第46話「冷たくも甘い声」

第46話「冷たくも甘い声」

前回、第45話「訃報」

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 リンは90階層を走り回っていた。

 エリオスの友人や知り合いをしらみつぶしに当たって、彼の死の真相について何か知っていないか聞き出すためだ。

 リンは動揺していた。

 彼にはまだ信じられなかった。

 つい一ヶ月ほど前まで普通に会話していたエリオスが死んだなんて。

 リンは走りながらつい先ほどしたアグルとの会話を反芻する。

「エリオスさんが死んだ

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第45話「訃報」

第45話「訃報」

前回、第44話「テオ、新しい商売を始める」

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「あら、テオじゃない」

「ん? ユヴェンか」

 リンとテオが物質生成の授業に出ようとしていたところ、ユヴェンと廊下で鉢合わせしてしまった。

「聞いたわよ。あなた最近お金に困っているそうね」

 ユヴェンが愉快そうに言う。

「ダメじゃないの。身の程をわきまえて節約しないと。あなたって本当に甲斐性ないんだから」

 ユヴェンは彼女独特

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第44話「テオ、新しい商売を始める」

第44話「テオ、新しい商売を始める」

前回、第43話「テオの怪しい行動」

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 太陽石の光が弱まり、アルフルドの街に夜の帳が下りる。

 リンとテオは新しいルームメイトの二人が眠りについたのを確認した後、ひっそりと音を立てずに部屋を出た。

 二人はエレベーターに乗って90階層に向かった後、街の市街地から外れ外郭部の方へと向かっていく。

 夜のアルフルドは昼間の賑やかさが嘘のように静まり返っている。通りは真っ暗で月明かり

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第43話「テオの怪しい行動」

第43話「テオの怪しい行動」

前回、第42話「エリオスの卒業」

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 リンは学院からアルフルドの自室に帰るとロビーから持ってきた新聞を広げる。

(さーて今日はどんなニュースが載っているかな)

 リンは目当ての記事を探して新聞をめくっていく。

 リンが知りたいのは100階層『雛鳥の巣』で起こったこと、もっと言えばエリオスの消息に関してのことだった。

 アルフルドで発行されている新聞には学院都市における話題だけ

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第42話 エリオスの卒業

第42話 エリオスの卒業

前回、第41話「ティドロとイリーウィアの選択」

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 魔獣の森での合宿から戻ったリンはまた普段の生活サイクルに戻った。

 授業を受け、図書館で自習し、工場で働く。

 リンはマグリルヘイムの活動について聞きたがるクラスメイトの間でしばらく引っ張りだこになった。リンは魔獣の森やマグリルヘイムのメンバーの様子について聞かれる度に何度も同じ事を話した。

 一つ変わったのはリンに小さな相棒

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第41話「ティドロとイリーウィアの選択」

第41話「ティドロとイリーウィアの選択」

前回、第40話「秩序と才能」

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 リンは森探索の残り5日間も同様にマグリルヘイムのメンバーとペアを組んで行動した。とはいえ、ティドロ以外のメンバーはリンとイエローゾーンには行きたがらなかった。

「う〜ん。君と一緒にイエローゾーンに行くのはちょっと不安だな。すまないが、ブルーゾーンのみの探索でいいかい?」

「ええ、僕は問題ないですよ」

 リンは年上の魔導師達の言いつけを素直に守り

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第40話「秩序と才能」

第40話「秩序と才能」

前回、第39話「イエローゾーン」

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 リンの不安をよそにイエローゾーンの探索は淡々と進んでいった。

 50メートル程進むごとにティドロは木や石に魔法文字を刻んでマークする。指輪の光が強くなれば周囲を警戒し、索敵して魔獣が出てくればティドロがそれを倒す。

 リンはティドロの言いつけを守りつつ、ただただティドロから何かを学ぼうと彼のことを観察し続けた。

(やっぱり凄い人だな)

 

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第39話「イエローゾーン」

第39話「イエローゾーン」

前回、第38話「二日目の組み合わせ」

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 先遣隊二日目。

 各ギルドが出発の準備や支度を始めるが、早いところは朝食を食べ終わるや否や続々キャンプ地を出て森に入り始めた。

 リンはティドロの後についてキャンプ地を出た。ティドロはイリーウィアと違ってリンの歩幅に合わせてくれなかった。リンは自分より体格の大きいティドロについていくため早足にならざるをえなかった。

 ティドロはキャンプ

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第38話「2日目の組み合わせ」

第38話「2日目の組み合わせ」

前回、第37話「キマイラとの戦い」

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 キャンプ地にはテントやロッジがいくつも立ち並び焚き火がたかれ、そこここで野営の準備がされている。建物はいかにもとりあえずの寝床という感じで即席の魔法によって建てられたもののようだった。夜間の魔獣の侵入を防ぐためキャンプ地の周辺に結界を張り巡らせている者たちもいる。

 キャンプ地についたリンとイリーウィアはそれぞれマグリルヘイムの宿営地と協会出

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第37話「キマイラとの戦い」

第37話「キマイラとの戦い」

前回、第36話「魔獣との遭遇」

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 切り立った崖の端っこでペル・ラットが精一杯自分を食べようとしている魔獣を威嚇している。

 しかしその身の震えからキマイラにはペル・ラットになすすべがないことはお見通しだった。そもそも魔獣としての強さが違いすぎる。戦えば十中八九キマイラが勝つ。ペルラットは逃げる以外に生き残る方法はない。しかし彼は追い詰められていた。これ以上後ろに下がれば断崖絶壁か

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