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ショートショートのような

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あったらいいな、と思う小さな世界たちです
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【夢の話】アンモナイトの化石

【夢の話】アンモナイトの化石

その夢の中で、私は十歳くらいの少女になっていた。重みを含んだ暗さと、靴の下のふかふかとしたカーペットが、本当にここを歩いているのか、と心許な気になるが、それはいつかの現実の世界で感じていた感覚だった。
建物のどこか奥の方にある機械が発しているような埃っぽさと、それを電気の力で浄化しようとしているような臭いがする。
そこは博物館のような場所だった。展示物の場所だけが、黄色く、明るく灯っていた。近づい

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【ショートショート】レモンとおじさん(2)〜はじまりの月夜に〜

暗い、暗い夜の海

一筋の光が、揺れている
その先に、浮かぶのは、月
まんまるく、黄色い光に
見惚れていると、吸い込まれるよ





一隻の、小さな船が海に出た
オールを握る、おじさんの手
ゆっくり、ゆっくり、漕ぎ始める

沢山のものと出会い、育み、慈しんできた
そうして蓄えたものたちに、ひとつずつ、さよならを告げる、そんな旅

潮が満ちて、引いてゆくように

悲しいことではない
進むこと

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【ショートショート】HOME

【ショートショート】HOME

 その時私が乗り込んだ電車はずっと昔から走り続けていたようで、長年の煤に覆われていた。

 発車時刻を一時間過ぎても予定の電車は一向に来る気配がなかった。日本の端っこに取り残されたようにぽつりと存在する海町なのだから、そんなことは日常茶飯事だろうとも思ったけれど流石に遅い。休日であれば一部の物好きな観光客で賑わうその小さな町も、週のど真ん中の平日では、他の乗客の姿は一人も見当たらなかった。簡素なホ

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【ショートショート】君の秘密

いつもは私が、待ち合わせ時間に少し遅れて行くから、気づかなかった。

その日はめずらしく、たまたま早めに着いた。
私の家から二つ角を曲がったところの、開けた場所。

待ち合わせ時間を少し過ぎたとき、彼から連絡が来た。

「もう着いてるよ」

彼が通ってくるはずの道で待っていたのに、私が気づかないうちに彼は通り過ぎていたのだろうか。

私の家の前に戻ってみると、彼は年季の入った車の隣で、いつもの色褪

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【ショートショート】レモンとおじさん〜連なり、生まれる〜

おじさんが連なっている。

よく見ると、おじさんとおじさんの間にレモンが浮いている。

おじさんが前にスッと腕を上げると、手に取れるくらいの位置に。

レモンとおじさんは、程よい距離を保っている。

おじさんの連なりは、住宅街の中をゆっくりと進んでいる。

車が前を横切ろうとすれば立ち止まり、ベビーカーを押した女性が前から歩いてきたら、少しずれて、全員で道を譲った。

どういう具合でレモンが発生す

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【エッセイ(のようなもの)】猫

【エッセイ(のようなもの)】猫

足の裏をそっと、猫の背中に当ててみた。

ふわふわふわふわふわふわ。

そのままちょっと撫でてから、足をもう少し奥に入れてみる。

あったかい。

あったかくて、皮膚の下の筋肉とか骨の感じがじんわりと伝わってきて、どきっとする。

そしたら猫が、もそもそって動いて、
ああ、生きてる、って思う。

それで尻尾をベッドにぺしんって下ろしたから、
あ、怒ってる、って思う。

私はそっと足を引っ込める。

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【ショートショート】玉ねぎとおじさん

【ショートショート】玉ねぎとおじさん

ある日の夕方、肉じゃがを作ろうと思った。

駅前のスーパーの入り口に、じゃがいもと玉ねぎがたくさん、緑色のケースから溢れそうなほどたくさん積み上げられていて、一つ四十三円。どれもツヤツヤしていて良いものだったので、じゃがいも三つと玉ねぎを二つ買った。二百十五円。

つやっとまるい玉ねぎの皮をむき、半分に切ると、中から小さなおじさんが出てきた。玉ねぎの芯の部分に親指姫のように包まれていた。この前はテ

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【ショートショート】土星にいる男

【ショートショート】土星にいる男

こんなことを続けてもう何年だ。

私は旅に出たつもりが、気がついたら土星の輪の上を走っている。なぜか地球で愛用していたフェラーリも隣で並走している。そして今気がついたのだが、裸足だ。

不思議なことに疲れを感じない、疲れを感じないので走り続けている。走るのをやめてもやることがなくなる気がするから、だからしょうがなくでもないが、とにかく今は走り続けている。

近くに時計がないので、時間がわからない。

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【ショートショートと思いきや】手相があるので

【ショートショートと思いきや】手相があるので

私の強みは、私の手相です。私の自慢でもあり、誇りでも、自信の源でもあります。
私がなぜこんなに日々溌剌と過ごせるか、なぜ毎日やってくる明日に希望を持てるのか。それは、この手相があるからです。

私の手相で気に入っているところは、まあいくつもありますが、やはり一番はこの薬指の下にスッと伸びる金運線です。語ってもいいですか?ええ、では遠慮なく。自然に伸びる枝のようにのびのびと生えているその溝はちょっと

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【ショートショート】カールおじさん

【ショートショート】カールおじさん

カールおじさんは、吉祥寺にいる。

吉祥寺サンロード商店街か、井の頭公園によく現れた。天気の良い日は決まって商店街に出没する。

服装はいつも同じ。

デニム生地のオーバーオールに、白い半袖のTシャツ。オールシーズンだ。

被り物は天気や季節によって変わる。冬はニット帽、雨の日は水泳帽になったりする。

そして手にはいつも「カール 6種のブレンドチーズあじ」を抱えるように持っていた。

人通りの多

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【ショートショート】父の日

【ショートショート】父の日

今日は父の日。実家に住む娘たちから荷物が届いた。

単身赴任は寂しい。もう五年も経ってしまった。
あの時小学生だった娘たちは、すでに大学受験の話をしている。
高校一年生で、大学の心配をするなんて、早すぎないか。何のための高校だ、高校は大学受験のために行くところじゃないぞ。
そんな言葉をやっても、こんな距離からでは妻も娘も耳を貸さない。

家では妻と娘たちが毎日楽しくやっているようだ。
時々ビデオ電

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