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【ショートショート】玉ねぎとおじさん
ある日の夕方、肉じゃがを作ろうと思った。
駅前のスーパーの入り口に、じゃがいもと玉ねぎがたくさん、緑色のケースから溢れそうなほどたくさん積み上げられていて、一つ四十三円。どれもツヤツヤしていて良いものだったので、じゃがいも三つと玉ねぎを二つ買った。二百十五円。
つやっとまるい玉ねぎの皮をむき、半分に切ると、中から小さなおじさんが出てきた。玉ねぎの芯の部分に親指姫のように包まれていた。この前はテレビの配線で遊んでいたけど、そのおじさんとは別人のようだ。
おじさんは昼寝中だったようで、玉ねぎを勢いよく切ったので、前にぷらんと垂らしていた緑色の帽子の先端が切れてしまった。
おじさんは帽子が切れているのを見つけると、とても落ち込んでしまった。とてもお気に入りで、大切にしていた帽子だったようだ。
私は半分に切った玉ねぎの淵に座り、うなだれているおじさんになんて声をかけたらいいのか分からなくて、じっと見つめた。私は、何を言ってもおじさんの気持ちを晴らすのは難しいと思い、新しい帽子をプレゼントすることにした。
なにがいいかな?
えのきの傘?
うーん。
玉ねぎのとんがり?
うーん。
茄子のヘタ?
ありゃ、大きすぎるか。
試しに、台所に飾ってあった小さな白いお花をちょこんと乗せてみた。マンションの前のコンクリートの隙間から生えていたやつ、朝見つけて取ってきた。帽子っぽくはないけど……。
おじさんは頭に乗せられたお花を手に取ると、気に入ってくれたみたいで、そわそわと大切そうにまた頭に乗せた。少し削げたように見えた頬がふっくらと、桃色に染まっている。
おっことさないように慎重に動く様子がとても可愛かったけど、すぐに慣れたようだった。
しばらくすると、おじさんが走っても、ジャンプしても、はたまた急カーブしても、お花は一瞬おじさんの頭からふわりと離れ、すぐにまたぴたりと、おじさんのつるつるした頭に戻ってくる。仲良くなれたみたい。
私はその様子に安心して、眠りについた。肉じゃがは、また明日お腹が空いたら作ろう。おじさんがいつまでも遊べるように、物置の引き出しの奥にあった、小さな豆電球をキッチンに置いて。