【夢の話】アンモナイトの化石
その夢の中で、私は十歳くらいの少女になっていた。重みを含んだ暗さと、靴の下のふかふかとしたカーペットが、本当にここを歩いているのか、と心許な気になるが、それはいつかの現実の世界で感じていた感覚だった。
建物のどこか奥の方にある機械が発しているような埃っぽさと、それを電気の力で浄化しようとしているような臭いがする。
そこは博物館のような場所だった。展示物の場所だけが、黄色く、明るく灯っていた。近づいてみると、それはアンモナイトの化石の説明だった。
アンモナイトの化石。そう、私はアンモナイトの化石を探していた。
父へのプレゼントだった。私は父にプレゼントがしたくて、アンモナイトの化石を探しに来たのだ。
説明ではなく実物が欲しい。私はそう思って、展示場の奥へと進んでいった。昔の書物が、恭しく展示されている。標本や恐竜の模型などの展示は見当たらなかった。学術と理論の世界なのだ。それでも奥の方に進んでいくと、なにやら賑わっていて、子どもたちの声がする。
行ってみると、「触ってみよう」のコーナーだった。ここには、アンモナイトの化石もあるかもしれない。嬉しくなって探してみたが、生きたモルモットしかいなかった。モルモットは何かの実験に使われているのだろうか。
アンモナイトの化石は、ここにはないようだ。売店もない。父へのプレゼントを、買うことはできなかった。
出口に向かうにつれて、最初に見たアンモナイトの化石の説明パネルの、煌々とした光が大きくなっていった。パネルの前には上下黒のスーツを着た女性が、マイクを片手に説明をしている。
「恐竜の舌は時が経つにつれて乾いてゆき、乾いてゆくに従って端から焼いたタコの足のように丸まってゆきます。それが土の中でプレスされ、凝縮され、長い年月をかけて、アンモナイトの化石になるのです」
黄色く光っている説明パネルを見ると、恐竜の実物大の、形が少しずつ異なってる三つの舌の絵が映し出されていた。「恐竜の舌は、こんなに大きいのか」と思ったところで、目が覚めた。
ぼやけた頭でそうか、恐竜の舌は牛のタンとほとんど同じ形をしているんだな、と思って始まった日曜日。