【ショートショート】父の日
今日は父の日。実家に住む娘たちから荷物が届いた。
単身赴任は寂しい。もう五年も経ってしまった。
あの時小学生だった娘たちは、すでに大学受験の話をしている。
高校一年生で、大学の心配をするなんて、早すぎないか。何のための高校だ、高校は大学受験のために行くところじゃないぞ。
そんな言葉をやっても、こんな距離からでは妻も娘も耳を貸さない。
家では妻と娘たちが毎日楽しくやっているようだ。
時々ビデオ電話を繋いでくれるのだが、かけてきたにも関わらず、すぐにこちらのことは忘れて、三人で最近のテレビの話や同じクラスの何々君とやらの話で盛り上がるので、ついていけない。
だから私は、ああだこうだと楽しそうに話している女三人の様子を、テレビドラマを見るようにして眺めながら、焼酎を飲んでいる。
娘からの荷物を開けてみると、それは次女からのようだった。
封筒に「お父さんへ」と書かれた字があまりの癖字で、すぐに分かった。丁寧な文字を書く妻や長女と違い、あの子はその文字のように破天荒ないたずらっ子で、いつも何をしでかすかわからない。
こちらが困惑している様子を見せるとさらに調子に乗って笑うので、あまり何をされても反応しないようにしている。しかし最近はそれすらも彼女の思うツボになっているようだ。地頭は良いはずなのに、彼女は使う方向をずっと間違えている。
一体誰に似たのか、とため息をついた。
何が出てきても動じないぞ。私はお父さんだ。
そう思いながら、淡いピンク色の包みを剥がしてみると、中にはパンダの着ぐるみが入っていた。何なんだ、これは。
ぶらりとついたままになっているタグを見ると、『大人用着ぐるみナイトウェア(2,459円)』と書いてある。ナイトウェア?寝巻きか。
手紙を見てみると、例の癖字で一言、「それ着て寝てね」と書いてあった。
お父さん、いつもありがとう、ともあった。
彼女のニヤりと笑う顔を想像すると癪だったが、とりあえず袖を通してみた。つなぎというものを着たことがなかったので、どんなものか単純に気になったのだ。
着てみると、なんだかよくわからない気持ちになった。生地は薄いが、少し暑い。だが全身を一枚の布に包まれているというのは、不思議な安心感があった。
私は、なんだかよくわからない気持ちのまま、ぼうっと袖口を見つめていた。安物のようで、糸が一本ぴろりと突き出ているのを見つけた。
ふと洗濯物を干している途中だったことを思い出し、洗面所に向かおうとすると、視界の端で、白くてでかいものが横切った。
——何だ?
驚いて咄嗟に振り向いた。その反動で眼鏡がずれ、いや、動体視力の低下かもしれないが、視界がぼやけた。
だが、徐々に頭が追い付いた。
振り向いた先には、姿見の中からパンダの着ぐるみを着たおじさんがこちらを見ていた。娘はこれを見せたかったのだ。