労働は社会貢献できるダイエットであってくれよ記
「あつ、え、暑すぎない?」
10月も終盤に差し掛かるというのに、ショッピングモール内にはモワッとした空気が漂っている。
ほんの数分歩いただけで、じんわりと背中が汗ばむ。
そういや、ここ最近のモールって一年中暑いか寒いかで、ちょうどいい〜ってのは無いんだった。
半年間無職をやったのち、半年間ライターとして自宅でモサモサと仕事をしていた私にとって、そんな“外の世界”で働くことはかなり新鮮で刺激的なものになっていた。
久しぶりの接客、人との会話、館内のBGM、休憩室の匂い。
この一年でかなり世間から離れてしまった自覚はあったが、こんなにも愛しく感じられるのなら離れた甲斐もあったってもんだ。
それはさておき、アパレルは想像以上に身体を使う仕事である。
この日も「おはようございまーす」とストックに入った瞬間、目に飛び込んできたのはデカいダンボール、ダンボール、ダンボール、ひとつ飛ばしてもまだダンボール。
大量納品である。
「ヤバいですね…」
「ヤバいですもうどこにも入りません普通に」
限界そうだ…
年末にかけてイベントが増えるこの時期は、忙しさに比例するように納品量が増えるが、当の店舗スタッフたちは忙しさゆえに業務を満足に進められないという、イヤな相対性理論みたいな状態となるのだ。
人数がいて比較的落ち着いている日が片付けるチャンス、つまり今日である。
出戻ったばかりでメーカーもアイテムも曖昧だから把握したいし、昔からストックのしまう場所を空けるのだけは得意だ。
「私、やります」
そう言って、裏の作業を買ってでた。
アパレルの検品・しまい作業がどんなものか簡単にお伝えすると、サイズはまちまちだがおおよそ1メートル四方の段ボール箱で洋服が納品される。
まず届いた箱を開け、中に入っているメーカーからの「納品書」と実際の納品数が合っているか検品作業をする。
その後、問題なく納品されていることが確認できればそのままPC入力、そして、洋服をお店のストックにしまうという流れだ。
この最後の「しまい」という作業が、納品量が多いことが続いたりストックがパンパンだとかなーーーり手こずる。
この僅かなスペースにどうにかあと一枚がしまえないか試行錯誤し、裏のありとあらゆるスペースを駆使して商品をストックする場所を確保する。
ときに天井高く力の限り腕をのばし、震える身体で段ボール箱を持ち上げてみたり、ソーラン節のようなモーションで引き出しを開けたりしめたり、立ったり座ったり、脚立を登ったり降りたりを繰り返す。
そして、この日はこの段ボール箱が、約15〜20箱ほど納品されていた。
そういや、先ほどの裏の作業を引き受けるときの回想で、ひとつ抜けていたことがある。
私は「極度の運動不足」だ。
それも、ただの運動不足ではない。
「極度の」運動不足である。
極度の運動不足がこれをやるとどうなるか。
ここまで読んでくれた方はお気づきかもしれないが、私は著しく疲弊していた。そりゃもうはっきりと「ハァ…ハァ…」と口に出していた。ふてぶてしい新人である。
そのうえ「なんか今のわたし、猛暑日の犬みたいですね」とか、ふざけたことを口にしだす始末。笑ってくれる人がいることだけが救いだった。
(こんな…!!こんなキツかったっけ?!)
私の記憶が改ざんされているのか、文字通り運動不足を極めているのかは定かではないが、どちらにせよ浮ついた足がようやく地についたようだった。
滝のように汗が流れる。
お願いがあります、誰も私の背後に回らないでください。汗臭さがカンストしています。
ハウルの動く城で観た「階段を必死に昇る荒地の魔女」を頭に思い浮かべ「痩せる…これで痩せる…」と一人ブツブツ呟きながら、なんとかしまい作業を終えたのだった。
「今日ね、久しぶりに裏の作業したらさ、めっーちゃ身体バキバキ。絶対痩せたわ」
「そうなの?よかったじゃん」
家に帰るなり、夫にドヤ顔で今日の偉業を語りながら体重計にのる。
画面に映るは、いつもよりデカめの数値。
「いや、なんの重さ?」
達成感、とかでしょうか。