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#恋愛小説
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑦「好意破れてなお続く」
前回↓
はじめから↓
二〇二二年二月二八日。
今日は吹奏楽団の定期演奏会だ。コンクールに参加しない我々にとって、この演奏会は一年の集大成を示す場でもある。
先程、最終確認を終えたため、後は三〇分後に迫る本番を残すのみだ。始めはホールの控室で待機していたが、緊張ゆえに逆に開き直ってしゃべり倒す面々についていけず、一人舞台袖で楽器と時間を過ごしている。
奏者も観客もいないステージは、輝
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑥「誰かを好きになることって凄く尊いこと」
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はじめから↓
十二月。乾いた冬の冷気が肌に刺さる。
十一月では毎週のように会っていたコノミとも、サークルがテスト期間の日は活動を行っていなかったため、しばらく顔を合わせていなかった。
それがよくなかった。
「恋愛結構苦手かも」という彼女の言葉を何度も反芻しては不安に駆られ、彼女の笑顔を思い出しては「好きだ」とひとりごつ日々。どうにもならない葛藤を吸い込んでは吐き出す。
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章⑤「この慕情を鎮める術を」
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はじめから↓
それから数日後。
『この前のアフタヌーンティーのお返しで連れていきたい所あるんだけど』
そのメッセージと共に、ある喫茶店のウェブサイトのリンクをLINEでコノミに送信した。
高円寺にあるその喫茶店は、店員が旅先で手に入れた食材を用いて、クリームソーダとカレーを提供するという他に類を見ないコンセプトを掲げている。喫茶店のツイッター公式アカウントから毎月限定のクリ
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章④「でしゃばりで身勝手な胸騒ぎ」
前回↓
はじめから↓
大学のイチョウ並木が少しずつ色付きはじめた十一月。
学園祭を間近に控えた学内は、少しだけ浮足立っていた。観客を呼ばずに、動画配信のみのオンライン開催とはいえ、コロナで失われていた日常が徐々に取り戻されていくような気がして、少しだけ嬉しかった。
吹奏楽団は学園祭のステージに向け、設けられた準備期間の中で練習に励んでいた。感染対策のために設けられたルール上、ステージ
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸1章③「タナトスに見つめられている」
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はじめから↓
気づけば十月になり、残暑を感じる日もほとんどなくなった。大学からの帰宅途中、季節に振り回されて相変わらず温度調節が下手くそな電車に揺られながら、ツイッターのタイムラインを眺めている。四月に大学垢をはじめて以降、ほとんど日課のようになってしまった。受動的に流れてくる多様な情報を、画面をスクロールしながら流し見るのは時間つぶしにちょうどいい。
フォローしている大学の知人の
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 1章①「ビイドロのように」
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はじめから↓
据え置きのゲーム機の独特な駆動音とコントローラーのスティックを動かす音が深夜の自室にこだましている。最近熱中しているこのゲームは、チームバトル形式のバトルロイヤルシューティングだ。いわゆるFPSというジャンルになる。一人称視点でキャラクターを操作するために、没入感がすごく、時間も忘れて夢中になってしまう。
画面に表示された「GAME OVER」の文字が、あと一歩でそ
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章②「その姿を見るだけで満足すべきだった」
前回↓
デート当日。ユウキとは駅の改札で待ち合わせた。駅からしばらく北へ歩き続けて、少し前時代的な商店街を抜けると、小江戸の町並みが視界いっぱいに広がった。流石は川越が観光地として誇る景色だ。伝統的な蔵造りの家屋が道の両脇に立ち並び、行き交う人々をレトロな風情に誘う。背の低い建物の中で一際目立つのは「時の鐘」と呼ばれる鐘楼。雲ひとつない晴天に向かって突き出されたシンボルがあまりにも様になってい
【恋愛私小説】恋する青の鎖鋸 0章①「何回ごめんなさいと書いてあるんだろう」
プロローグ
「恋愛に夢見てない人がいい」
躊躇いなく、彼女が言い放つ。
自分にとって好きな人であり、好きだった人であり、鮮烈で唯一だった貴女。
今はもう貴女に向ける感情が何なのか、何であるべきか分からず、ただ「かけがえのない」としか形容できなくなってしまった。
彼女と別れたあとの帰路で身勝手にこぼす。
「じゃあ俺は違うね」
恋愛に夢しか抱けないのだから。
※この作品は現大