ちょうどいい、っていいね
「クラス替え嫌だなあ」
「先生、◯◯ちゃんと同じクラスにしてね」
休み時間、クラスの子たちのおしゃべりに混ざっていた。
最近の子どもたちの関心ごとは、もっぱら新年度のこと。
「新しいクラスが発表されるときってさ、心臓がキューってなるんだよね」
分かる、分かる。私もそうだったよ。
仲の良い子とクラスが離れると、この一年間ずっと一人ぼっちかもしれない……と不安になっていたもんな。
同じ学年だし、隣の教室に行けばすぐに会えるのに、クラスが離れたというだけで、絶望的な気分になった。
大人でも、職場や部署の異動は心にも体にも負担がかかるのに、子どもは毎年クラス替えがあるんだから、結構大変だよね。
「あとさ、担任の先生もめっちゃ大事だよね」
この話題は、胸がドクンとする。
子どもの言葉は真っ直ぐすぎて、ぐさっと突き刺さることがあるから。
どんな先生がいいの、と尋ねると、「厳しい先生は嫌だ」としっかり者のAちゃん。
叱られるのが怖い。
誰かが叱られているのを見るのも怖い。
忘れ物をしたことを言いづらい。
ドリルが終わるまで、休み時間にさせてくれない。
周りの子達からもどんどん出てくる。
そうだよね、そりゃ誰だって優しい先生がいいよね。
「とっても優しい先生が担任になるといいねえ」というと、
「それはちょっと違う!」
???
「優しすぎもダメなんだよ〜」
聞いてみると、
宿題を忘れた時に、何も言われないのはよくないと思う。
うるさいとか、悪いことをした時は叱ってほしい。
なんでも、いいよいいよと許してくれちゃうのは困る。
なるほど。
「子どもは、本当はずっと優しい先生の方がいいんでしょ〜。でも先生はそんなわけにもいかないんだよ」と思っていた私が浅はかだった。
悪いことをしたら叱ってほしい、なんて言葉が出てくるとは思わなかった。
子どもって、私が思っているよりもずっと大人だ。
「私は厳しかった?優しかった?」と聞いてみた。
すると、
「先生は、厳しすぎず、優しすぎず“ちょうどいい”かな」
いい先生じゃなくて、“ちょうどいい”なの?!
それって褒め言葉〜?と聞くと「褒めてるよ〜!」とAちゃん。
「叱るときは叱るけど、たくさん話してくれて楽しいし、“ちょうどいい”先生だったよ」
うんうん、と周りの子も頷いている。
チャイムがなり、教室の井戸端会議は終わった。
帰り道。
Aちゃんから言われた言葉を思い出して、うれしくなっている自分がいた。
厳しすぎず、優しすぎず、ちょうどいい。
白黒どっちでもないけど、グレーくらいでもいいのかもしれないな。
子供のおかげで、好きな言葉がひとつ増えた。