読み切り恋愛短編集【れれこい】 10.ストレングス 781
読み切り恋愛短編集【れれこい】
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第10話 ストレングス
亜弥になんか会わせるんじゃなかった。
そんな気がしないではなかったけれど、まさか本当になるなんてね。
進は、2才上の兄貴の軽音部友だち。
部活帰りにしょっちゅうウチに来ては一緒に夕飯を食べたりする仲。
私の大学受験が終わった頃から付き合いだした。
大学は別だし、進は軽音とバイトで忙しくしてるから以前ほどは会えないけれど、まぁまぁ上手く行っている。
亜弥とは、大学の新入生オリエンテーションで仲良くなった。
メイクもファッションも人当たりも可愛いらしくて、キャンパスで亜弥と過ごすのはちょっとした自慢。
亜弥は決して華があるというタイプではないけれど、つい振り返ってみたくなるような魅力があったし、現に男子学生から言い寄られることもあった。
進と付き合っている私からすれば、亜弥に彼氏がいないことが不思議なくらい。
大学内では、しっかり者の私が可愛い亜弥を護ってるように見られていた。
進と会っても亜弥の話ばかりする私に
「定期ライブに連れておいでよ」
って。
彼氏のいない亜弥も、私の彼に興味津々だったから、リップハウスでの定演の後に3人でご飯を食べることにした。
女子力ではとても亜弥には敵わないけれど、唯一勝ってるのは進と付き合ってるってこと。
そんな進を自慢できるなんて、私は嬉しくて仕方がない。
「進さんってヴォーカルなの?
かっこいいじゃん」
あれ、亜弥に言ってなかったっけ。
軽音部の中でも、他の大学の軽音からも結構モテてるんだよね、と私の鼻は高々。
亜弥を連れて来て、良かった。
亜弥に自慢できて、本当に良かった。
進はバイトを増やしたし、就活も始まって会える時間は益々少なくなった。
バイト中かな?就活中かな?ライブ中かな?疲れて寝てるかな?と思うと、私から連絡するのは控えた方がいいのかな?
兄貴は進と同じ大学だけど、学部も志望している業界も違うと会う機会は多くないらしく、進情報は入ってこない。
相変わらず学内では亜弥のボディガードのように一緒にいるけれど、大学が休みの日の別行動が増えた。
どちらかの授業が早く終わっても、以前は一コマくらいならお互いに待っていたけれど、亜弥は私を待ってくれなくなった。
ソロ活動ができない訳じゃないから、別にいいんだけど。
「おいオマエ、進と別れたんか?
進、亜弥ちゃんと一緒におったぞ?」
冗談キツイよ、兄貴ったら……
と思ったが、冗談ではなかった。
バイトと就活で忙しい筈の進は、私を置いて先に帰る亜弥と会っていたんだ。
リップハウスのライブ後に食事をしたお店で、私が化粧室に行ってる間に何かが起こっていたんだ。
私を嫌いになったんじゃないと進は言う。
狡いよ進、嫌いになったって言ってよ。
私より亜弥ちゃんの方が好きになったって言ってよ。
言ってくれないと諦められないじゃないの。
亜弥ちゃんは可愛い。
見かけも性格も可愛い。
私だって、一緒にいるのは自慢だよ。
だから私より好きになったって言ってよ。
どうして私のことを「しっかりしてるから大丈夫」だなんて言うの?
「もっといい彼がみつかる」なんて言うの?
私は進がいいんだよ。
もっといい彼と付き合いたい訳じゃないんだよ。
泣かないから強いと思ってる?
怒らないから面倒がないと思ってる?
甘えないから支えなくていいと思ってる?
意思が強いからひとりでも大丈夫だと思ってる?
ソロ活が平気だから別れてもいいと思ってる?
泣きたいときに泣かないのは、怒りたいときに怒らないのは、甘えたいときに甘えないのは、ふたりでいたいときにひとりで平気なふりをするのは、進むから見た私のストレングス。
泣けばよかったんだ、怒ればよかったんだ、甘えればよかったんだ、一緒にいたいって言えばよかったんだ。
何がストレングスなのよ。
どれもご立派なウィークポイントじゃないの。
私はただ、進の重荷になりたくなかっただけなのに。
杏里じゃん、私。
彼氏と親友を同時に失うかもじゃん。
歌詞の通りだなんて笑っちゃう。
それでも大学で亜弥に会ったら、平気な顔をして一緒に行動するかもしれない。
それは私が強いからじゃない。
親友まで失うことが怖いからなんだよ。
進から見て「友だちの妹」でなくなるのが怖いからなんだよ。
亜弥からは未だ何も聞かされてないんだよ、私。
もし亜弥が私を拒絶しないで一緒にいることを選ぶとしたら、本当に強いのは私じゃなくて亜弥だと思う。
どうしてそんなことが進には解らないんだろう?
#悲しみがとまらない #杏里 ⤵️
後日譚⤵️
(秋実れれ子)
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※創作です
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