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からっぽな心は、人を惹きつける求心力を持つ--『ティファニーで朝食を』カポーティ
奔放で魅力ある女性を描いたカポーティの出世作
「ティファニーで朝食を」を、村上春樹訳で読みました。
カポーティの出世作であり、オードリーヘップバーン出演の映画で有名な本作ですが、私は映画は観ていません。
そのため、映画のビジュアルに引っ張られず、本作の最大の魅力である際立った人物造形を楽しめました。
第二次世界大戦下のニューヨークで、居並ぶセレブの求愛をさらりとかわし、社交界を自在に泳ぐ新人女優ホリー・ゴライトリー。気まぐれで可憐、そして天真爛漫な階下の住人に近づきたい、駆け出しの小説家の僕の部屋の呼び鈴を、夜更けに鳴らしたのは他ならぬホリーだったー
台風の目のようなホリーと吹き飛ばされていく男たち
ホリーはとにかく奔放。あらゆる男を惹きつけて放しません。さながら台風のようです。
その奔放さがかけがえのない魅力となって映ってくる。
本作発表後、多数の女性が「私がモデルだ」と言い出たことが訳者あとがきに書いてあります。当時の魅力ある女性の”あるある”を詰め込んだキャラクターだとすると、当時のニューヨークは戦時下に関わらずに自由闊達な街だったんだな、と思います。
奔放なホリーに吹き飛ばされていく男たちの様も、魅力の1つです。
なんか気の毒にも思えるし、思い通りにならないホリーを楽しんでいるようにも見える。少し前にラノベ等で流行った「やれやれ系主人公」に通じるところもあるかも。実際にホリーがいたら、相当モテるだろうな。
からっぽな心は、人を惹きつける求心力を持つ。
本作中で明かされていますが、ホリーの過去は壮絶なものです。
ホリーの魅力は、そこからきた深い心の穴にあるのではないか。
「空を見上げている方が、空の上で暮らすよりずっといいのよ。空なんてただからっぽで、だだっ広いだけ。そこは雷鳴がとどろき、ものごとが消え失せていく場所なの」
マティーニを傾けながら、こんな台詞を言う。
台風であるホリーは、いろんな人を惹きつけながら、その真ん中はからっぽだったのではないだろうか。だからこそ、多くの人を惹きつける魅力を備えることができた。
時にはからっぽな心を抱えざるを得ない私たちにとって、確かに力と温かみと希望を与えてくれるストーリーでした。
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