「イチから説明」したくても、「イチ」の共有が一番難しい。
学生時代は家庭教師、卒業後はひと様にご説明することの多い仕事に就き、かれこれ15年以上、わかりやすく伝えることを模索してきました。
意思疎通って、相手と自分の同質性が高いほど簡単です。最たるは家族や親友との「アレ」で通じる阿吽の呼吸。一方、バックグラウンドの異なる人への説明は困難を極めますよね。twitterの不毛な論戦みたいになりかねません。でも、相互理解の深みを垣間見るとき、その面白さに興奮します。
いまだに模索中の私にHOW TOは書けません。ただ、最も難しく、面白いポイントは、相手の「イチ」だと痛感しています。
同じ学校の同級生に教えるのは簡単
バックグラウンドの共通項が多い。一定の地域出身の同じような学力の同年代の人間同士。しかも使っている教科書も教える教師も一緒なので、一次元上の現在地(教科書のどこからわからない?)を確認すれば、あとは一本道です。ゴール(次の中間テストで〇点とりたい)も明確。もちろんわかりやすく伝える工夫や相手に寄り添う姿勢は必要だと思いますが、最も伝えやすい相手と言って過言ではありません。そして勉強に限らず、あらゆる話題が通じやすい。
高校生のときからバイトで色んな方と出会っていたり、転校が多かったり、そもそも学校に多様な生徒がいたり、と個々人の人間関係がどれぐらい同質かは人によるでしょう。それでも、せいぜい2-3才差の同世代との付き合いが中心だったはず。
高校卒業後、大学進学や就職を機に、世代や地域を越えて人間関係が広がります。そのタイミングで伝えることの難しさに驚いた方は多いのではないでしょうか?私もまさにそのうちの一人でした。
方程式に悩む中学生にとっての「イチ」
大学時代の家庭教師のアルバイトではいろんな学生に会いました。例えば数学が苦手な中学二年生。彼女からのはじめての質問は「x(エックス)って何?」でした。そこからか!色々工夫して説明したのですが話しが嚙み合わず、そもそもお互いにどこまでを共通理解としていいか、ぐにゃりと世界が揺らぎました。目の前の子は、私が知覚している世界とは別の世界に住んでいる。
彼女の集中力にあわせてゆっくりすり合わせていったところ、「分数の足し算・引き算」あたりから理解できてないことがわかりました。小学校4年生で習う範囲ですが、本人も気づいておらず。彼女にとっての「イチ」は分数でした。
偉そうに中学生には数学を教えていましたが、もともと高校まで数学は苦手、数学の深淵なんて全く見えていません。理学部数学科の友人と「数とは、四則演算とは」について会話したときは、教わる側でのぐにゃりを体験しました。(後半は圏論の話しでした。いまだにわかりません。)
相手の「イチ」が見えた時が一番嬉しい
中二の彼女がそうだったように、教えてほしい側にとって未知の知識空間のなかで自分の座標を示すことはできません。「イチから教えてほしい」と言われたとき、真意は「私の現在置を客観的に把握してほしい。そこから適切な場所にゴールを設定して、間をつなぐ説明をしてほしい」になります。けっこう高度な内容。
本当に相手にわかるように説明するには、伝えたい相手のことをじっくり知っていく必要があります。相手の世界の輪郭が見えてきて、それと自分の差が明確になればなるほど、「なるほどそれでさっきの考え方に至ったのか」「ここがネックだったのか」とクリアになります。これがすごく楽しくて嬉しい。
数字にコミットできなくても「イチ」を大事にしたい
教科書の内容を教えるときでも十分にいろんな苦労がありましたが、現実課題に指標はありません。
例えば「デジタル化について教えて欲しい」と尋ねられたら。相手が求めているのは一般論?それとも自社の状況を踏まえたアドバイス?相手のIT用語の理解度は?これ何分ぐらい説明する時間がある?など諸々勘案して、専門性はこれぐらい、内容の具体性はこのぐらい、話すスピードはこのぐらい、と塩梅を調整し、さらにそこに大事なメッセージを盛り込みます…なんてほとんどの場合できてません。もしそれが器用にできる人間なら、SNSやめて砂漠で毛布売って豪邸で暮らしてます。
さらに恐ろしいことに、色々考えつつ相手の様子を伺って気合をいれて説明をはじめて驚くことがあります。3秒で関心を失うじゃん・・!何のボタンを掛け違ったのかと慌てますが、どうやらそもそも質問の回答に興味がない。自分の話への導線、社交辞令、もしくは何かの時間稼ぎ、みたいなケースが。難しいなぁ!
このあたりの対策は営業スキルの本に書いてあります。でも、コミュニケーションの醍醐味に触れるチャンスをHOW TOで枠にはめたくなくて、そういう本をあまり読まなくなりました。数字にコミットはできない気がしますが(すみません)、私は相手の「イチ」を探す旅を楽しみたい。
ちなみに・・)都内→静岡へ出たことで
なお、さらに世界がひろがったのは、静岡へ引っ越してから。東京でも仕事を通じて様々な人に出会ってきたつもりでしたが、とはいえほとんどオフィスで働くサラリーマンばかり、今思うととっても同質性が高かった・・!
静岡に来てからは、中小企業の経営者の方や個人で士業をされている方、製造業や建設現場を知る方々などほんとにいろんな人と会うことが増えました。
このあたりの驚きは、「中小企業のDX」を切り口に、別のnoteでまとめています。サムネの写真は鋳造の現場。とてもパワフルでかっこいいので、ぜひ写真だけでも見てください。