「概日リズム障害」の完治に5年を要したという話
▼平素より、介護福祉士がどうだの、養成課程がどうだの、メンタルヘルスはどうだのと、高所からもっともらしいことを申している私ですが、かつて「概日リズム障害」なるものに心身をやられてしまい、治るのに5年ほどかかってしまいました・・・というお話をさせていただきます。夜勤/日勤を繰り返しておられる介護従事者さんに、適切な対処法を逆にお聞きしたいくらいです❗❗
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▼新天地の専修学校に移籍して、1か月ほど経った頃の話です。ほとんどの教員は、学校で授業の予習や資料づくりをしますが、私は予習や資料づくりは自宅でないと集中してできないという悪い癖を持っています。前任校では、教務事務をしたり、敷地内外に落ちているたばこの吸い殻を拾ったり(福祉士養成課程では喫煙学生さんが非常に多い❗)、授業をサボる学生さんの相手をしたり(これで中退を予防できることが結構あるんです)と、やるべき雑務がたくさんありました。
▼いっぽう、新任校では、教務事務は事務方がやってくれる、吸い殻拾いは清掃業者さんがやってくれる、などなど、職務分掌がはっきりしており、教員は授業と学生さん対応、学生さん募集のオープンキャンパスだけをやってろというわけです。教員にとって、これほど業務環境が整った学校はないといえるでしょう。
▼新任校では、校舎の構造上、学生さんのサボりがそれほどみられず、完全にヒマを持て余してしまった私は、ある日事務方から、正確なところはほとんど忘れてしまいましたが「先生、ヒマそうでいいですね」みたいな厭味を言われたのです。
▼ホント、取るに足りない、ささいな厭味です(しかも、その事務方とはべつに仲が悪いわけではありません)。ところが、「学校は雑務をするところだ」という妙なプライドを持っていた私は、その日の夜、やたらその厭味が気になって一睡もできませんでした。翌日、翌々日と不眠のまま仕事をし、休日になると昼間寝るようになり、いわゆる「昼夜逆転」から元に戻らなくなってしまったのです。
▼そのうち、勤務中に起きていられないほどの眠気に襲われるようになって、昼休みに保健室で寝させてもらうことになりました。同僚・上司によると、いびきをかきながら寝ていたそうです。そして数週間後、昼休みに寝たまま起きられず、昼休み明けの3限授業に教員たる私が遅刻するという、あるまじきミスをおかしてしまいました。この時点でようやく、病気であるかもしれないと思うようになり、しばらく休職させてもらうことになりました。
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▼福祉士養成課程や看護師・准看護師養成課程の教員は、精神科や心療内科を受診することにそれほど抵抗を持っていない傾向があります。こころの病気のある学生さんと接していること、精神科薬を服用しながら勤務している実践者の知り合いや卒業生さんが比較的多いこと、さらに精神科領域の実践者の知り合いが多いこと、などの理由で、学生さんに対して何ができるかという点は別としても、対人援助専門職系の教員はこころの病気というジャンルとの親近性が比較的高いといえます。
▼私も、もれなく心療内科を受診し、「かくかくしかじかのストレスで眠れなくなっているようだ」と伝え、抗不安薬と睡眠導入剤を処方してもらいました。あとになって考えると、この伝え方がよくなかったようです。その後も昼夜逆転はまったく元に戻らず、お薬の量が増えて泥沼にハマってしまいました。
▼休職中に、運動しなければとあせった私は毎日、真夜中(3~4時頃)に近所の大きな緑地をウォーキングしていました。このこともまた、よくない結果をもたらしてしまいました。地域の老人会から「あそこの部屋に住んでいる奴ヤバいよ」と危険人物扱いを受け、それが地域の小・中学校に見事に❓❗報告、連絡され、私は地域で孤立してしまいました。この一件は、真夜中にウォーキングしていたことが誤解を招いたという点では私の責任です。しかし、なりにも初等中等教育の教員が、休職している人間の社会的孤立に加担していた(加担せざるを得なかった)ことが許しがたく、かといって学校に怒鳴り込むなどヤブヘビ行為なわけで・・・。その土地に来てわずか1年ほど、私は逃げるように引っ越したのでした。
▼このエピソードは、その後あちらこちらの初任者研修で「あなたが福祉従事者で、かつ小中学校に通う子どもを持つ親であるなら、アドボケートできますか❓」と、取り上げたことがあります。もうずいぶん昔のことですが、ホームヘルパーさんでこのネタに心当たりのある方、あのときの講師はこの私です。
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▼引っ越しに伴い、主治医が変わりました。昼夜逆転は依然として治らないまま何年か経ち、私自身の関心も不眠ではなく昼夜逆転のほうに向いていました。その旨を主治医に伝えたところ、「アメリカでは、紫外線のライトのようなものが処方されることがあるようです」という情報提供があり、さらに「まず、昼間寝てもいいので、布団に入らず、できるだけ日光の当たる場所で横になってみてください。これはたぶん、お薬の問題じゃないと思います」との指導を受けました。ここでようやく「概日リズム障害」と診断されました。最初の一週間ほどは変化はありませんでしたが、次第に夜眠ることができるようになり、少なくとも入眠に関しては治癒し、お薬を飲む必要はまったくなくなりました。なんだかんだと紆余曲折を経て、完治するまでに結局5年もかかってしまいました。
▼その後現在に至るまで、徹夜は一切していません。残りの人生も、徹夜は厳禁です。いまは、歳相応の中途覚醒や早朝覚醒(5時には起床)がありますが、「あのときの昼夜逆転の苦痛に比べればノープロブレム」などと、あまり深く考えず、05:10には熱いコーヒーを淹れてすするのが日課となっています。
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▼ひるがえって、夜勤のある実践現場で従事しておられる医療、介護、福祉専門職の方々や、仕事上いわゆる「時差ぼけ(ジェットラグ)」が避けられない国際線旅客機パイロットやCAの方々は、いったいどのようにしてリズムを整えたり、元に戻したりしているのかがすごく気になり、卒業生さんや実践者の友人から体験談を何十と聴きました。みなさん、一様に「胃腸の具合がおかしくなる」とおっしゃいます。お世辞ではなく、あらためて現場実践者の方々をリスペクトすることになりました。
▼さきに、「かくかくしかじかのストレスで眠れなくなっているようだ」という伝え方がよくなかったと申し上げました。結果として、ストレスによる睡眠障害ではなく、ストレスが起因でありながらも「概日リズム障害」だったわけです。それは、当時の主治医が悪いのではなく、こちらの伝え方や感じ方(不眠症だと思い込んでいた)が悪かったのです。
▼私はいま、ほかの身体疾患のモニタリングのため、月1回医療機関を受診しています。Excelに1行程度の日記を記録し、受診日には、その日記のうち医師に必ず伝えるべきこと、必ずしも伝えなくてもよいことを取捨選択した上で、ポストイットに殴り書きしたものを持っていくことにしています。診察場面で「ああいうこともしんどい、こういうこともしんどい」などと、時系列を無視してポンポン訴えると、そのぶん余計なお薬が増えてしまったからです。患者の側にも、コミュニケーションのリテラシー(ここでいうリテラシーとは倫理的なそれではなく、必要な情報を的確に伝えるという意味です)が求められるなあという事例です。
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▼私の場合は、環境に恵まれていたと思います。福祉士養成課程のうち、特に社会福祉士と精神保健福祉士の各養成課程では「人と環境の交互作用」という考え方を必ず、くどいほど教えられます(これを教えない、しつけない養成校はダメです)。概日リズム障害にドハマりしていたときは、同僚や上司、上層部がサポートしてくれましたし、再び使ってもくれました。だいいち、昼休みに保健室で寝る教員など、周りの先生方や事務方はよく我慢してくれたものです。
▼ある一定年齢になったら、無用な夜更かしはやめましょう・・・長々と失礼しました🙏🙏