マガジンのカバー画像

133
これまでに発表した詩をまとめています。
運営しているクリエイター

2021年4月の記事一覧

映ってんのは

見えてるんは
人が言っとる単語の意味で

見てるんは
人の声とか動きとか
そういったもんに対する
自分の解釈

その人見るとか
その人自身に触れるとか
そんなん
どうやったってできひんし無理や

目にはなんも
映ったりせん

無への還り

明日が来ること信頼し
ご飯を食べて
勉強し
働き
サボったり
人と話して約束をして
多くを望んだり
やりたいことがあればやり
やらなきゃいけないことやって
お風呂に入って寝床にもぐる
お酒を飲んだりもする
人には言えないことだってそう

でも明日は
明日は来ないかもしれない
次の瞬間すべては消えて
崩壊するかもしれない

無への還りは一切が
一切がただ内包してる

こう胸の内を晒したら
だから一日

もっとみる

言語の刃先

したら立派というのなら
せぬまま未熟で構わない

するのが普通というのなら
せずに異常を選び取る

やるのが義務というのなら
しないで首を捧げよう

それが自然というのなら
不自然歌って微笑むことを

幼い子どもの戯言と
指差されるなら幼い子として

断ち切るための言語の刃先を
絶えず自分に向けている

繰り返される夢

ビー玉拾いの夢を見た
ビー玉拾いは手のなかで
ビー玉かちゃかちゃ言わせてた

おはじき集めの夢を見た
おはじき集めは陽にかざし
おはじきさらさら透かしてた

トランプめくりの夢を見た
トランプめくりは背を丸め
トランプひらひら合わせてた

ブロック遊びの夢を見た
ブロック遊びはくち広げ
ブロックぱくぱく含んでた

繰り返される夢のなか
どの人物もひとりきり
ひとりで黙々騒がしく
目の前ずっと触って

もっとみる

水を飲んだら
ごくっていうけど

言葉を飲んでも
なにもいわない

喉って不思議
喉は正直に嘘をつく

震えるし
ひゅうひゅう鳴るし
でも産み落とす言葉はどれも逆子で
未熟児で
なんなら
生まれないように
生まれないようにってさ

今にもあふれて
裂けそうなのにね
赤く荒れて
焼けてるのにね

喉って不思議
それでも気づけばこうやって
好き勝手いってる

音じゃないものを
ひとり出してる

君はほんとに

ねぇ君は
言葉を書いてるの
それとも書かされてるの

要請された表現
求められているもの

血と骨を抜かれて
防腐剤を注入されて
あるのはただ
生ぬるさだけ

透けた水に顔をつけても
言葉はごぽごぽ言うだけで
澄んだりしない
なのに

君が疑わないのなら
僕が代わりに疑うよ

君の言葉は本当に
ほんとに君のかけらなの

君はほんとに書いてるの
それともただ
書かされてるの

葉桜

強い風が吹いて
びゅうと町の声がする

窓の向こうの葉桜は
激しく揺れて
僕の足はまっすぐ立ってる

重たく波打つ分厚い雲を
じっと見たまま開いたら
風に前髪持ち上げられて

思わず目を閉じて
おっかなびっくり開いたら
前髪が
あの枝のこずえの
緑のように揺れていて

かかとが甘く
甘く上がった

時洗い

くる日もくる日も
時間をざぶざぶすすいでた

水でふやけた指の先が
お湯で泡で荒れた皮ふが
時間を洗った証拠だった

そうやって時を浸して
ごしごしこすればこするほど
瞳の水面に浮かぶのは
ただ手元ばかり

首の肩の
腰の痛みを噛みつぶしながら

そうしてあるとき
肩で浅く息をしながら
ふっと顔を上げれば鏡面に
知らない顔が映ってた
しぶきのあとが顔中に
びっしり白く浮かんでた

それは証だった

もっとみる

初見

役に立つ
この言葉の支配下におかれて久しいものたち

そう一切は
役立つかどうかという目で点検されて

役に立たなければ
役に立たなくなれば
たとえ検査を通ったとしても
次で殺される
その繰り返し

役に立つ
この言葉を振りほどいて
一切に目を向けたとき
あらゆるものは
瞳が見えなくなるほどまぶしく
そうして深い闇をまとっていた

豊かさもまた同じ
心を生活を
豊かにしてくれるかどうかという点検を

もっとみる

恵風

 凍っていた土がほどけ、雨は絡まるようになり、自然の体臭を、大気は風で絡げ始めた。
 においと一緒に運ばれていく意識は、どこまでも遠くへと流れていく。
 孤独は切符だ。
 あの、弱くて強い風に乗るための。
 肉体を阻むこの無限の距離でさえ、孤独を破ることはできない。
 踏みにじられては転がっていく、淡くて小さな花びらと共に。
 足では決して向かうことのできない、あの深い緑と大木の根元まで。
 大気

もっとみる