時洗い

くる日もくる日も
時間をざぶざぶすすいでた

水でふやけた指の先が
お湯で泡で荒れた皮ふが
時間を洗った証拠だった

そうやって時を浸して
ごしごしこすればこするほど
瞳の水面に浮かぶのは
ただ手元ばかり

首の肩の
腰の痛みを噛みつぶしながら

そうしてあるとき
肩で浅く息をしながら
ふっと顔を上げれば鏡面に
知らない顔が映ってた
しぶきのあとが顔中に
びっしり白く浮かんでた

それは証だった
時洗いをやめられない存在の

まぶたを閉じて自分の血流を見ることも
指先に溜まった心臓の音を聞くことも
目の前を二重三重にすることも
気づけばもう

時を洗い続けた結果
時を洗うその音が
においが光景が

本当の音を
においを光景を
覆い隠してしまってる

時を洗わずにはもういられない
ただ息をすることは敵わない

時洗いは
死ぬまで時を洗い続ける
狂ったように強く早く
ごしごしと

飛び散る白で
顔をけがしながら

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