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眠れないならまだ眠らなくていいよ、そんなコンセプトのホテルがあった。

部屋のこのとっちらかった場所ではなくて。

ホテルに行きたい。ホテルで思う存分眠りたい。近頃そんなふうに衝動的に思ってしまう。

ホテルに行けば眠れるのか?

眠る、ぜったい眠ってみる。

眠れば眠れよ眠れって、呪文のように唱えながら。

寝付けなかった夜、ふと枕元に置いてあった文庫本のページを開く。

「インド夜想曲」。

アントニオ・タブッキの作品を須賀敦子さんが訳していらしゃって、眠れない夜には開いてしまう。眠れそうな気がするから。

<夜、熟睡しない人間は多かれ少なかれ罪を犯している。彼らは何をするのか。夜を現存させているのだ>

という、もうすでにわたしたち読者の中ではなにかが、はじまっているような、微かな予感がそこには、満ちていて。
 
イタリア人の主人公は、インドでいなくなってしまった友人を探すためにタクシーに乗る。その主人公とタクシーのちょっとあやしい運転手の会話を聞いていると、同じタクシーの窓から、湿度の高そうな熱をはらんだ風がここまで吹いてくるようだった。

失踪した友人探しという目的がもともとわたしの使命であったかのように、読者をぐいぐいとひきこんでゆく。

それで、そこまで読んでいた時に、わたしこういうふうに、本を読むためだけに生まれてきたかのようなホテルのことを知っている。

知ってる、すごく知ってるって思った。

これって、デジャヴュ?

ググったら、やっぱりあった。

siriに聞けばよかったのかな。どっちでもいいけど。声出しが恥ずかしいからググる。

ほら、あるじゃんって。

そういえばこのホテルの社長さんのメッセージをいつか読んだ気がして。

ふたたびググる。

ググらせてもらったら、ホテルの1Fスペースを大切にしているんですって、お話をされていて。

ホテルの1Fって、もうどこも似てたりするし、フロアにはチェックインアウトする人達がいるばかりで。スーベニールショップがあって。コンシェルジュがいたり。

でもソラーレホテルズアンドリゾーツって、ここエントランスが勝負でっせみたいなところ、すごく好き。

ホテルも考えてみりゃ、コンテンツだよね。

このホテルはなんていうか、1Fが、見た感じまるで図書館のよう。

部屋で無理して眠らなくていいんだって。

眠れなきゃ眠れないで、ちょっと本で旅してみたらってそういうテーマが感じられて、よろめきそうだ。

あたらしいホテルを創造したいって、コロナ前のインタビュー記事で、社長さんがおっしゃっていた。

単なる宿泊施設ではなく複合文化施設として、機能してゆきたいと。

そしたら、いろいろなコンセプト、わたし好みがあった。


雨をたのしむためのホテル。晴れの日はもちろんのこと、雨の日も楽しんでほしいって。

「弁当忘れても傘忘れるな」って、地元では言うらしく。

インパクトあるな。

金沢ってそれだけ雨が降るんだってあらためて知った。

雨を抒情として捉えているホテルって、ちょっといいなって思う。

だとしたら、たとえばこんなホテルってどうだろう。

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          <ホテル・真夜中の庭>

扉を開けた途端、足元がふわっと浮いたような感覚に陥った。そしてふわりと鼻腔をくすぐる草の匂い。フロアをよくみると、そこは芝生が一面に敷き詰められていて、目に飛び込んできたのは一面の緑だった。

ぺたんと座れるフロア。

そんなエントランス。

そこのオーナー百合子さんは昔どこかのデパートの屋上で、グリーンショップを経営していて、その店を畳んだ後、<ホテル・真夜中の庭>をいま運営している。そんな設定。

百合子さんは、「植物は、いちど目をかけたらずっと永遠にその関係性が続くのかもね。最近よくそんなこと思うの」
って、そのホテルをおとずれたひとたちに話しだす。

百合子さんはグリーンサムだった。

グリーンサム、緑色の指を持つ人、つまり植物をこよなく愛する人の敬称で。

そんな経歴を持つ百合子さんは言う。

「植物って惜しみないでしょ。虫や鳥たちににただ与えるのよ。どこにもあるいてゆくことなく、生まれた場所だけでいきゆくしかない植物。植物はただ植物であって。あの太陽を存分に吸い込む行為も、それはただほかの生き物に手渡すだけ。けっして自分自身のためではないところがとても、うつくしいじゃない?」

とかっていう人。そして。

「かっこつけてるんじゃなくて、みんな今は傷ついているひとばかりだから、そういう存在の人が心の底からくつろげる、そういう場所にしたいと思ったのよここを。このホテルを。世の中にそんなホテルが一つぐらいあってもいいじゃないって」

壁際にはいろいろな観葉植物が並んでいて。

「カラジウム、クロトン、ドラセナ、コンシンナ、モンステラ。おやすみ」

って百合子さんはかならず、フロアの植物たちに眠る前に声をかける。
 
今日起きたことが、どんなにたいへんなことであろうとも、

<たったそれだけの話>と思える瞬間があれば、いいって、誰かが書いていたわよ、わたしのことばじゃないからね、ってちょっとだけ笑ったりする。

そんな百合子さんのいる<ホテル・真夜中の庭>ってどうだろう。

とかって、夢想してしまった。早く寝ないといけない日に限ってこんなことをしてしまう、インソムニアなわたしですが。

そういえば、あのソラーレホテルの中に、こんなコンセプトのホテルもありました。


ひとり企画

#聞きながら書いてみた

今日のBGMです.





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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊