言葉なんてもういらないって、あの頃、思っていた。

今年も暮れてゆくって。

まだ言いたくないような言いたいような。

部屋にあるものたちをみまわしてみる。

ずっと昔からあるもの、ちょっと昔からあるもの

まだ新しいもの。入り混じってる。

ランプや、椅子とテーブル、マグカップ。

あなたは5歳ぐらい、あなたはもう10年選手、

きみは3ヶ月、そしてきみはようやっと1年目って。

青い表紙の手帳をみながらそう思う。

わたしのまわりにものがふえてゆく。

いつだったか、大好きな作家川上弘美さんのエッセイ

書いてあった。

<モノというもは、手をつくして集めるものではなくて、

どちらかといえば、寄ってくるもののような気がする>

今年買ったもの。

一番わたしに寄り添ってくれたのは、もしかしたらすごく

便利なグッズとかおしゃれな洋服とか使い勝手のいい調理道具

や家具とかじゃなくて、

これかもしれない。

大好きなモレスキン社の2020バージョンの手帳。

それも、今年は偶然のようにかけつけた書店兼文房具店有隣堂で

手に入った。

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そして、たった一冊しかなかった。

それもそのはず去年のうちに買う暇がなくて。

元旦にやっと間に合ったから、それも大好きな物語だったから

目の前にこれが現れたときは喜びもひとしおだった。

今は亡き彼が、これ読んどくといいよって小さい時に

教えてくれたのも星の王子さまだった。

例のうわばみ気まぐれな薔薇、羊の絵を描いてって言われた

時のなどの登場人物のシールも入っていたりして。

まだ大切にとってあって、もちろん使ってはいないけれど。

こんなふうに世界中が病と隣り合わせになるなんて

知らなかったから、ページをめくりながらちょっと

残念な気持ちになる白いスペースがある。

世界地図がうすく印刷されているページはあなたが

旅した場所を記せるようになっていて、もちろん

そこは空白だけれど。

旅のお供にちょうどいいサイズの手帳。

モレスキンのコンセプトにみあわないこんな1年に

なると思わないで、今わたしが手にしていることの

ふしぎを想う。

1年が終わってゆくその意味の輪郭みたいなものが、

年々形を変えて行っている気がする。

特に今年はその想いが強い。

さまざまな出来事に遭遇して、立ち止まらされて、過去をふいに

思い出す時。

よろこんだりたのしんだり、おこったり、かなしんだりする

たびごとに、どこかにしまわれていた記憶が、思いがけず顔を

出す。

小さなましかくの切り抜きや、折りたたまれた新聞記事など。

いろいろなものが、ぺーじの間にはさまれている。

<こんなことに関心がありました>

手帳は、そういう自分の心の記録なんだなって、いまさら

ながら思う。

そして。

わたしは、もう数年以上前から手帳に自分の気持ちを

記さないようになった。

自分の心のことまで書くのはもったいなくて。

そういうのはもういいよ、興味ないよって感じで。

それよりも誰かの言葉ばかりでページが埋まってゆく日々だ。

1月の初めころ。大好きなファッションデザイナーの皆川明さん

言葉が記されていた。

1月12日
<物が一緒に長く居ることで、記憶に変わる>。

そしてそれは皆川さんの企画展、

ミナ・ペルホネン<つづく>展を紹介されていた時の番組

からの言葉だった。

物ってなじむまでの時間は、ほんとうによそよそしくて

おそるおそるだったりするからその言葉すごく頷けた。

1月12日
詩が出てくる言葉の源は、言葉のないところ 谷川俊太郎

同じ番組からの言葉。

なにか、言葉に疲れていたころだった。言葉とかいらないよ

って思っていた頃。

4月25日
自分がだれかを知り、自分がなにをやっているかがわかって
いる画家はいない              デュシャン

悩んでいたし。デュシャンでもそうなら仕方ないねって、かなり

この言葉に救われた。救われたって言葉はあんまり不用意に使うの

よくないけれど、そんな感じだった。

そして6月。noteを不安な想いのまま始めた頃。毎日やめよう

って思っていた頃。はじめの継続希望日数は1週間だった。

楽しくなかったらやめようって。そこから少し過ぎた頃のページ。

6月17日

誰もが世界に何らかの跡を残したい。
”だが生きて数人に名を覚えられたら跡を残した証拠だ”
                 ドリアン・コリー

これは好きなドラマPOSEから。

今見ると、このドラマはかなり好きだったけど。

この言葉を記していることちょっと恥ずかしい。

誰かに名前を覚えてもらいたかったんだなって。

参ったなって感じだけど。こんな気分だったんだろう。

大好きだった人、数人が知ってくれていたらそれでいいよ

って気分は今も変わらない。

手帳売り場にゆくとわかる。

ひとはみんな未来のことをちゃんと思いながら、暮らして

ゆこうとしているんだなって。

次の年の手帳を選ぶっていうことは、もうそこに未来が

あるってことなのかなって。

最後に星の王子さまのすきな言葉。

砂漠が美しいのはどこかに井戸を隠しているからだ。

この言葉が好きだった彼のことを好きだった日々を

思い出しながら、また今年もあと2週間なんだってって

なんとなく天に向かって言ってみた。

星の砂 ひざをつくまで さがしつくして
さかさまの せかいのふたり 逃げほとばしる



いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊