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大阪のこと嫌いだった、青すぎた思い出ばかりで、きらいだったのに。

大阪の街を離れたのはずいぶんむかしだけど。

わたし大阪って好きだったっけ?

4歳の頃から大人になるまで住んでいて。

あの街では、思春期も青い春もみんなそんな季節を

あの街と共にすごしてしまったから。

愛も憎もあって。

大きな地震も経験した。

わたしは北摂が住まいだったので幸い大きな被害

には、あわなかったけど。

あれからもう26年経つんだなって。

あの年の前の年のクリスマスに祖母が、亡くなった。

まだ、わたしと母は告別式の会葬礼状の用意を

しなきゃいけないような時だった。

そして母は離婚したばかりだったし。

家の裁判もごたごたしていて、決着もついていない

状態だった。

そんな街から、早くずらかりたかったし。

不思議だけど、そんなネガティブな想いに

まみれていて、もうどうでもいいよって思っていた

時に、あの地震がきた。

その日は、近所のお花屋さんのお姉さん、淳ぺーちゃん

お花を持ってきてくれる日で。

地震があったあの日、玄関で淳ぺーちゃんの顔を

見た途端に、ふいに近づいてハグを一瞬した。

そして。

お互い無事でよかったってふたりで涙ぐんだ。

淳ぺーちゃんは新婚さんだったのだけど、

旦那さんが地震でゆらされている部屋の真ん中で

淳ぺーちゃんの背中をかばう様にして守ってくれた

らしい。淳ぺーお姉さんは、祖母の仏前に飾るための

きれいなカトレアやクレマチスをみつくろって

持ってきてくれた。

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5年後ぐらいしてから大阪を離れることだけは

わかっていた。

でも、大阪が好きでしたか? って聞かれたら

好きでしたって答える自信がなくて。

いつだったか大阪を離れますって言うと

大阪のこと忘れたらしばくでぇ、って店の人に言われて、

この大阪弁をもう耳にすることもないんだろうなって

思いながらその人といっしょに笑った。

そして、神奈川に越してきたある日。

大阪のことはすっかり忘れていて。

ある日、柴崎友香の小説『きょうのできごと』

映画を観ていた。


いわゆる青春群像劇で。

油断してみていたら、胸騒ぎがした。

どちらかというと、彼らは京都よりの言葉を喋っていた。

思いのほか耳に心地よくて、その声を耳に入れて

おきたいぐらい、わたしは大阪の言葉のニュアンスを

欲していることにその時気づいて、

真夜中ちょっと愕然とした。

そして、

あのイントネーションを、もう会えない誰かを想うように

聞いていた。

大阪すきやったんやん、って、勝手に宙につぶやいて、

ちょっと泣いたかもしれない。

別れてみたら、好きだったって気づくみたいでべただ。

どうかしてるって思いながらも。

そして、神奈川の湘南地方で暮していたある日、

バスの車窓から街をみていたら、空き地だった場所に

新しいビルが建とうとしていて。

その場所は、わたしがこの街に最初に来たときに

見たビルだったことを想い出した。

まだ住む家も決まっていなかったけど、神奈川のとある

街に住むことだけは、母とふたりで決めていた。

その日、クリスマス忘年会の帰りにわたしは大好きに

なってしまった人とふたりで、道に迷っていた。

大阪から上京したその日の昼と景色が変わっていて。

彼がわたしの帰りたい場所まで送ってくれようとして

いるのに、わたしはどの道をいけばいいのか

わからなくて。

わたしは、覚えている景色を探そうと、その場を

ぐるぐるとまわって、ビルに昼の名残を探そうとしていた。

まじまじと見たビルがあの車窓から見た空き地になる

前の元の姿のビルだった。

その日、ふたりで帰りたい場所を探すために、冬の夜の道を

手をつないで歩いていた。

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十分、迷っていいよってそのひとが笑いながら

言ってくれた時。

どないしょう。道がわからへんようになってしもた。って

わたしは言ったらしい。

言った覚えはないのに言っていたらしい。

恐ろしいことに会った時や、ピンチに出会うと私は大阪弁で

乗り切ろうとするところがあるらしくこれが何度目かだった。

迷い道に付き合ってくれたその人は、青信号を待ちながら、

一握りの言葉をゆっくりと冷たい空気の中にこぼして、

いっしょに緩やかな歩調で歩いてくれた。

その時、わたしは迷いながらも、まだ住んでもいない

この街のことを好きだと思った。

こんなにふあんにならずに迷える街って好きだって。

一目ぼれする街ってあるんだなって。

ずっと迷ってくれていいよって言ったその人の声の

せいもあるかもしれないけれど。

帰りたい場所はみつからなくて、クリスマスの夜が

明けてしまうまで、迷い続けてもいいような気持ちに

なっていた。

この街好きですって、隣にいる人に言ったら彼は隣町の

K市に住んでいる人だったけど、

俺も、好きだよってゆっくりと答えてくれた。

つま先の 方向だけは 嘘をつかない
冬の君 ふたりしずかに あるいてゆきたい


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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊

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