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短歌エッセイ

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短歌を交えたエッセイ。自作短歌を深掘りしたり、日々の暮らしにおける思いに短歌を落とし込んだり等、様々。
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2021年4月の記事一覧

【短歌エッセイ】人付き合いが得意でない私の人付き合い

 「幸せの 形はきっと それぞれで 結んでみたり ほどいてみたり」  私は人付き合いが苦手だ。……という言い方は後ろ向きな感じなので、得意ではない、と言っておこうか。  機能不全家庭で育ち、親との間に上手く信頼関係が築けず、他者との関わり方がよくわからないままに、学校では長くいじめの対象となった。  自己肯定感は限りなく低く、孤独である寂しさと自分を愛せない痛みを、いつも抱えていた。  親との関係に躓いているので、そもそも他者を信じることが困難になっていた。他者と信頼関

【短歌エッセイ】苦労を共にして生まれる思い

苦労をば 楽しげにして 語り合う          診察待ちの 老女ら四人  上記の短歌は、17年程前に病院を受診した際に、待合室で数人の老年女性が、楽しそうに戦中・戦後の苦労話をし合っていた時の情景を詠んだものだ。苦労話なのに楽しそうなのが何となく不思議で、印象に残ったのだ。  それから約12年が過ぎたある日、熊本地震が起こった。  幸い、家族や友人知人、職場の同僚などに、死者や負傷者は出なかったものの、水・電気・ガスなどのライフラインが止まり、完全復旧までにかなりの

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【短歌エッセイ】熊本地震を経験して感じたこと

 5年前、熊本で大きな地震があった。「今までで経験したことのないような」と表現されたその地震の2日後に、それよりも更に大きな地震が起きることなど、誰も予想していなかっただろう。後に「前震」・「本震」と呼ばれる2つの地震を合わせて、「2016年熊本地震」と言う。  震源に近い益城町程ではないが、私の住む熊本市も大きな被害を受けた。前震では、私の住居への影響は全くなかったが、本震では、部屋中に荷物が散乱し、いくつかの食器は割れ、電気も水もガスも止まった。  翌日の日曜日、私と

【短歌エッセイ】不甲斐ない自分でも赦す

 今日職場で、気持ちが沈む出来事があった。  上部組織(親会社みたいなもの)のA氏からの電話に出た私が、呼び出しを求められた直属の上司B氏が今日は休みであるということを告げると、コピー紙やトナーの発注に関して、実際に指示を受けて現場で行っている者と代わってほしい、と言われた。  私が、その者はまだ入ってからの期間が短く数回しか担当していないので内容でわからないことがあるかもしれないがそれでも構わないか、と尋ねると、それでもいいから代わってくれと言われたので、現場歴4ヶ月の

【短歌エッセイ】新入社員教育について思うこと

 「まだ慣れぬ 不手際もまた ういういし 手ほどき受けたる 新入社員」  ある年の4月初旬、受診した病院の会計で、先輩職員と思しき人が窓口で応対する職員に、こういう時はこうする、というような指導をしていた。指導された方は全く慣れていない様子の若い人だったので、きっと入社したばかりなのだろう。冒頭の短歌は、その時の情景と心情を詠んだものだ。  仕事の手順というものは、実際の現場で状況に応じて変化する様々な事例を前にした方が覚えやすい、というものもあるだろう。事前のシュミレー

【短歌エッセイ】歩道の自転車は車道側走行

 「不安げに 歩道の内側 ペダルこぐ 初登校の 新入生は」  この短歌は4年前、2017年の4月に詠んだものだ。高校に入学し自転車通学を始めたばかりの、まだ高校にも自転車通学にも慣れていない感じの、女子高生の様子を歌にしたものだ。同じように、この春から自転車通学や自転車通勤を始める人もいると思う。  ところで、あなたが歩道の内側を歩いている時に、進行方向より自転車が、同じく歩道の内側、つまりあなたの進む直線状、真正面からこちらに向かって走行していた場合、あなたはどうするだ

【短歌エッセイ】引っ越しをして気づいたこと

 3・4月は引っ越しシーズンでもある。進学や就職、転勤など、新しい環境で過ごすために引っ越しをする人も多いだろう。  実家や自宅に荷物を置いたまま、単身で新たな生活を始める人はそれほどでもないかもしれないが、一家全員で生活の拠点を移す人にとっては、引っ越しに伴う作業は一大イベントと言ってもいい大変な作業だ。  私は今住んでいる住居へ、約2年4ヶ月前引っ越しして来た。引っ越しはパートナーの都合によるものだ。引っ越し元と引っ越し先は車で5分くらいの距離なので、すごく近いとも言

【短歌エッセイ】4月1日のボヤ騒ぎと消火活動

 それは3年前、2018年の4月1日のこと。  日が暮れて薄闇が広がる、夕方から夜にかけての時間帯、出かけようとして、当時住んでいたアパートを出た私とパートナーは、そこはかとない異変を感じた。  パートナーに、「なんか焦げ臭くない?」と尋ねられた私は、「そうかも」と答えて辺りを見回す。  私が住んでいたアパートは細い道に面しており、アパートと細い道の間に緩い下り傾斜の駐車スペースがある。その、面した道から若干高い位置の場所から、西側に隣接する隣のアパートの1階、4部屋の