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現代詩の入り口

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記事一覧

「現代詩の入り口」34 ー 詩を読む楽しみに浸りたかったら、峯澤典子の詩を読んでみよう。

峯澤典子さんの詩を読んでゆこうと思います。これから読んでゆく詩は、下記の10編となります。

形見 (詩集『水版画』)
花火 (詩集『水版画』)
林檎 (詩集『ひかりの途上で』)
ひとつぶの  (詩集『ひかりの途上で』)
水の旅 (詩集『あのとき冬の子どもたち』)
校庭 (詩集『あのとき冬の子どもたち』)
薔薇窓 (詩集『微熱期』)
いちまいの 1 (詩集『微熱期』)
手袋 (詩誌『

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「現代詩の入り口」33 ― 言葉と遊ぶことを喜びとした詩を読みたいなら、渡辺武信の詩を読んでみよう。

若い頃ぼくは、「現代詩手帖」を必死に読んでいました。

そんな中で、毎号、楽しみにしていた連載がありました。渡辺武信の「移動祝祭日」という文章でした。副題に「「凶区」へ、そして「凶区」から」とあったように、この文章は、1960年代に発行されていた詩の同人誌「凶区」と、その当時のことが記録とともに書き記されたものでした。

「凶区」の同人には、渡辺武信の他に、天沢退二郎、鈴木志郎康、菅谷規矩夫、山本

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「現代詩の入り口」32 ― 言葉に初めて触れようとするような詩を読みたいなら、稲川方人の詩をよんでみよう

若い頃のある時期、たぶんぼくが20代であったと思いますが、ぼくは、「日本で奇跡的な詩が今、書かれている」と感じていたことがありました。 1970年代半ば、その日、会社帰りに渋谷駅近くの喫茶店で、ぼくはその詩の作者と会っていました。ぼくよりもひとつ年上で、会ったのはその日が初めてであったと思います。

「日本ですごい詩が書かれている」と思ったその作者は、稲川方人という詩人でした。「つぼ考」とか「川下

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「現代詩の入り口」31 ― 熱い血が一行目から噴き上ってくるような詩を読みたいと思うなら、清岡卓行の詩を読んでみよう。

清岡卓行さんの詩を読んでみようと思います。

今回は、清岡さんの「現代詩文庫」(思潮社)を三冊読みました。それで、いくつか感じたことはあったんですけど、一番思ったのは、「詩の一行が読む人にいかに深く突き刺さってくるか」ということです。

いろんな人の詩を読んでいますと、この詩が好きだ、ということはあります。それで、たいていの「好き」は、簡単にその理由が見つかります。言葉の美しさだったり、心優しさだ

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「現代詩の入り口」30 ― 詩にとってのメッセージ性とは何か、を考えたかったら石垣りんの詩を読んでみよう

石垣りんさんというと、たぶんぼくだけではなくて、多くの人がそうだと思うのですが、「とりわけ印象的な詩を書く人」と、感じてきました。中でも、「シジミ」や「表札」は、ぼくはたぶん教科書で読んだんだと思うんですけど、一度読んだら忘れられない詩です。そういった詩って、世の中にはそれほどにはないんです。「シジミ」の中の「ミンナクッテヤル」や「表札」の中の「石垣りん/それでよい。」なんて行は、ぼくの人生の中で

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「現代詩の入り口」29 ー 何度出会ってもあらためて感動できる詩を読みたいと思うなら、新川和江の詩を読んでみよう。

新川和江さんの詩を12編、読みます。

***

「新川和江さんの詩を読む」1

某月某日     新川和江

わたしの赤ちゃんが生れるんだもの 生れるんだもの!
あしたは天気の悪いわけがない
鐘という鐘がいっせいに鳴らぬわけがない
もしもし もしもし
彼女は軒並電話をかけた
町じゅうの花屋へ 菓子屋へ 小鳥屋へ
〈お花をありったけ とどけて頂戴〉
〈とびきり大きなデコレーションケーキを拵(こしら

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「現代詩の入り口」28 ― これ見よがしでない詩を読みたいと思うなら、さとう三千魚の詩を読んでみよう。

「現代詩の入り口」28 ― これ見よがしでない詩を読みたいと思うなら、さとう三千魚の詩を読んでみよう。

ここに載せるのは、2024年7月5日に、高円寺の「バー鳥渡」での、さとう三千魚さんとの「対話&朗読会」のために用意した原稿です。



さとう三千魚さんの詩集『貨幣について』(書肆山田)を読みながら、3つのことをしきりに考えた。次の3つだ。



(1)言葉は突如として人生に食い込んでくる、ということ

ある種の言葉(詩の一行)というものは、時に、人生とは関係なく私たちの前に突然立ち現れる。し

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「現代詩の入り口」27 ― 自分の詩の居場所を見つけたいと思うのなら、上手宰の詩を読んでみよう

ここに載せるのは、2024年6月15日の「横浜詩人会」での講演のために用意した原稿です。残念ながら時間が足りなくて、話せなかった作品です。

すべて上手宰さんの詩です。次の5編になります。

二人づれのif (詩集『追伸』から)
忘れ物 (詩集『夢の続き』から)
さびしい模型 空 (詩集『香る日』から)
判定 (詩集『香る日』から)
手袋と春 (詩集『しおり紐のしまい方』より

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「現代詩の入り口」26 ー 詩を書いてきた自分とは何かと考えるのなら、小池昌代を読んでみよう

小池昌代さんの詩を読みます。

今回読むのは小池昌代さんの詩11編です。

りんご (『水の町から歩きだして』)
あたりまえのこと (『青果祭』)
永遠に来ないバス (『永遠に来ないバス』)
おんぶらまいふ (『もっとも官能的な部屋』)
きょう、ゆびわを (『夜明け前十分』)
路地 (『雨男、山男、豆をひく男』)
30 (『地上を渡る声』)
針山 (『ババ、バサラ、サラバ』)
最後の詩 (『コルカ

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「現代詩の入り口」25 ー 詩の可能性について考えたかったら、伊藤比呂美を読んでみよう

伊藤比呂美さんの詩を読みましょう。
これは昨年(2023年7月)、ぼくの「Zoomによる詩の教室」に伊藤さんが対談で出てくれた時に、用意した資料です。
ところで、一昨日(2024年3月30日)に伊藤さんのイベントに行った時に、伊藤さんは、「自分がわからない言葉を使って詩を書きたくない」と言っていました。ですから伊藤さんの詩は、すべて伊藤さんの言葉で書かれています。そして自分の言葉だけで詩を書く、と

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「現代詩の入り口」24 ― 詩の罠にとらわれてしまいたいと思うなら、金井雄二を読んでみよう

本日、対談をした金井雄二さんの詩を読みます。

金井さんの詩がいいなと、ぼくが思うのは、なんでもない時間の中にいることを書いているのに、そこから叙情がにじみ出してくると感じられる時だ。

そうか、こんなになにげないことを書いているんだと思って、読みながら油断していると、まさに詩に足をすくわれる。あっと、思って、その時にはもう金井さんの詩にとらわれている。金井さんの詩は、どこか、草原の中にひっそりと

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「現代詩の入り口」23 ー 覚悟のできた詩を読みたいなら、長嶋南子を読んでみよう

長嶋南子さんの詩です。先日の講演の時のために用意した原稿で、でも講演では時間の都合で話せなかった詩について書いてあります。読んでいただければわかると思います。どれもとても素晴らしい。「技術」と「覚悟」の、ともに備わった詩です。

✳︎

「愛情」 長嶋南子(詩集『失語』より)


寝ようと思った
隣の男がこちらを向いて
気持ちよさそうにいびきをかいている
口をあけて寝ているので
臭ってくるのだっ

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「現代詩の入り口」22 ー 詩の本質がむき出しになっているところを見たいなら、荒川洋治を読んでみよう

「現代詩の入り口」22 ー 詩の本質がむき出しになっているところを見たいなら、荒川洋治を読んでみよう



「キルギス錐情」     荒川洋治

方法の午後、ひとは、視えるものを視ることはできない。

北ドビナ川の流れはコトラスの市(まち)からスコナ川となり史実のうすまった方位にその訛(か)を高めている。果たしてそこにひとは在り、ウラルの高峰をのぞみながらでごろな森を切っている。倒れ木の音は落ち

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「現代詩の入り口」21 - 芯のあるわかりやすさを知りたいなら、菅原克己を読んでみよう

芯のあるわかりやすさを知りたいなら、菅原克己を読んでみよう

詩に選ばれている人なんていないのかなと、ぼくは思うのです。詩を選ぶのはいつだって人の方で、そしてだれでもが詩を選ぶことができるのだと思うのです。詩を書いている人は、詩に選ばれたのではなく、詩を選んだ人ばかりです。ですからみんなが同じなんです。

で、今日はあたりまえの話をしようかと思っています。自分の書いているような詩だけが詩ではないよ

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