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【ブルーマリッジ】誰しも加害者になり得る世界で。#読書感想文

6月29日(土)、「楽しみにしていた大事な予定があった」と前置きした紫陽花写真の記事を覚えていらっしゃいますか…??『ブルーマリッジ』発売を記念して、大好きなカツセさんのサイン会が下北沢で行われるとのことで、めちゃくちゃ緊張したけど勇気を出して行ってきました!自宅と会社を往復する乗り換え駅だった下北沢駅、実はこの日が休職してから初めて降り立った日になった。気づけば1ヵ月も経っていた。「ほんとうにこれでよかったのだろうか」と葛藤しながら帰宅ラッシュに飲まれたあの日から、記憶を塗り替えることができてよかった。久しぶりの外出で蒸し暑さと週末の喧騒に怯みそうになったのは内緒ね。

過去作『明け方の若者たち』と『夜行秘密』は家から持っていって、新作『ブルーマリッジ』は下北のヴィレヴァンで買って、いざゆかん。せっかく3冊分サインを書いてもらう時間があったにもかかわらず、自分でもドン引きレベルのコミュ障を発動してしまい、アッ…ありがとうございます…!くらいしか言えなかったのほんとに悔やまれる。なにも喋れなくなるだろうことを見越して、お手紙を書いておいた私さすがすぎる(無事にお渡しできた)。予想通りというか、悪い意味で予想を上回るフリーズっぷりだった。もしかしたら認知してもらえる機会かもとちょっとだけ覗かせた下心(?)は瞬時に玉砕し、ひたすら汗を拭いながらカツセさんの筆跡を目で追う棒人間になった。いつかリベンジしたい。次はファンミ参加常連の友達にコツを教わってから参加しようと思う。

1ヵ月以上前からずっと楽しみにしていたから、すぐにでも読みたかった。でも楽しみにしていたからこそ、楽しみが終わってしまうようでなかなか読めなかった。「始まりがあれば終わりがある」当たり前の行為が寂しい。

ふと腹が決まって、読むならいまだ!ってなった。最近は時間はあっても長編小説を一気に読み切れなくて、読みやすい短編集やエッセイを併読していたのに、気づけば最後のページに辿り着いていた。解像度の高い描写が生む没入感がとてつもなくて、日常と地続きな気がして、現実世界との境界線を見失いそうになった。フィクションだけど、フィクションじゃない、そんな感じ。この世界のどこかに生きている気がする。

前段が長くなりましたが、ここからは感想をつらつらと書いていきます!


※以下、ネタバレを含む可能性があります

「偶然、虫を踏んじゃったくらいの感じっていうか」

「無意識」の例えとして、実際に登場する言葉。「無意識を意識する」にはとんでもなく衝撃的な例えで、ハッとさせられた。

「無自覚の加害」、とりわけ「男性性の加害性」をテーマに進んでいく本書の中で、(加害を自覚する前の)加害者が被害者に向けて発してしまう。読者的には、おいおい気づいてくれよという気持ちになる。「人の振り見て我が振り直せ」とはよく言ったもので、他人の加害行動を目の当りに(見聞き)しても、自分自身の加害行動を自覚できるとは限らないし、忘れている過去も往々にしてある。

過去に自分がした加害を忘れているにもかかわらず、善人のように振る舞う様子も描かれていてちょっと滑稽だった。実際に、良い(とされている)行為だとしても、付き纏う過去のせいで浅い部分を撫でているように見える残酷さ。でもわかる気がする、いやお前がそれを言うなよ!って思うことたくさんあるもん。

「無自覚な加害」と合わせて、「(負った側の)無自覚な傷」という言葉も出てきた。血が流れたり骨が折れたりする傷(怪我)と違い、心に負った傷は目に見えない。だからこそ、傷を負った本人が見て見ぬふり、平気なふりをしてしまう場合もあるだろうし、人によって傷の深さは異なり、癒えるまでの時間も違う。むずかしい。


理想の家族ってなんだっけ…?

元々は他人同士なのにね、個人的には「家族」って複雑で不思議な人間関係だと思っている。理想の家族ってなんだっけ。本書で描かれる夫婦関係も親子関係も、同じ経験はしていないのに妙にリアルで共感してしまう。

結婚を前にした両家顔合わせのシーンは私も気持ち悪くなってしまった。実際に結婚した友達から似たような話を聞いたこともあり、フィクションなのに現実味を帯びていて、いつか来たる自分の未来と重ねて、おぞましさが倍増した。結婚かあ~~(言葉にできない)。

一方で、離婚を切り出された男性側の「夫像・父親像」がこれまた時代錯誤な気がして生々しかった。自分本位で、恩着せがましくて、正義を振りかざしてる。「良かれと思って」自信満々に振りかざしてるからタチが悪いね。家庭でも職場でも、自分の経験してきたことがいつの時代も正しいとは限らないのにね。そもそも正しさとは?って問いたくなる(笑)。

とはいえ、一昔前までの常識が通用しなくなってきた過渡期のいま、価値観の変化に置いていかれまいと必死なのも事実で。育ってきた環境によっては、違和感に気づいたり、自分自身の当たり前の感覚を疑うのもむずかしいかもしれない。同年代の友達ともよく話題になるけど、働き方・キャリア観や結婚観はとくに時代の狭間にいる感覚が強くて、未来への漠然とした不安に襲われる。親世代の常識とも、その常識で育ってきた時代とも違うし、必死に就活して社会人になった2016年~2017年頃からも変わっていて、いわゆるZ世代と完全に分かり合うのもむずかしい。

ちなみに、私は1994年生まれで今年30歳になるから、本書の登場人物「翠さん」の一つ上で、彼氏は1998年生まれだから、「守くん」と同い年だ。目まぐるしい変化の中で、価値観を揺さぶられている1990年代(平成初期)生まれ特有の葛藤なのかな。さすがにエゴが過ぎるか(笑)。


過去は変えられなくても、未来は変えられる可能性がある

「過去と他人は変えられない、未来と自分は変えられる」よく耳にする。過去をなかったことにはできないし、綺麗事だけで未来を操れるわけじゃないけど。無自覚を自覚することが第一歩なのかなあ。

とびっきりのハッピーエンドというわけではなかったけど、未来に向けて希望のある終わり方だった。加害者の本人たちは変わろうとしていて、実際に変化し始めている部分もあって、変えられない過去を背負いつつも、未来を変えるための種を蒔いたように感じた。日光に当てて、水やりをして、常に気にかけ続ける必要があるけど。

そして、変化を受け入れる側(被害者)の心持ちも大事なのかなって思った。簡単に赦せるわけないんだけど、変化を許容するというか信じるというか。適切な言葉が浮かばなくて悔しい。過去にあんな酷いことしておいて今更なにを…という気持ちを堪えて、変わろうとしてる「いま」の相手と対峙できたらいいのかなあ。言葉で書くほど感情は単純じゃないよね。


誰しも加害者になり得る世界で

読了してからずっとぐるぐる考えている。過去を顧みたときに、果たして自分は一度も加害者になっていないと言い切れるだろうか、自信がない。私も無自覚に誰かを傷つけていたのだろうか。覚えていない、思い出せない、もう昔のことじゃん、そんな容易い言葉で片付けちゃだめなことをしてしまったのかなあって。

本書では、加害者の男性と被害者の女性、パワハラ・モラハラ・セクハラ…客観的に読む分には明らかな「悪」がわかりやすく描かれていた。私が「無意識に軽視されている女性側」の立場だから、なおさらそう感じるのかもしれない。実体験も去ることながら、SNS上に蔓延るジェンダー論争や女性の幸せを勝手に決めつけられている言葉に辟易してしまう。切り取られた言葉にどれくらい本音が隠されているのかわからないけれど、そういう考え方の人もいるんだな~と流せないほど度を超えている内容も多い。

とはいえ、現実的には明確に善悪の線引きができるものだけではない気がする。お互いの関係性にもよって変わるだろうし、被害の受け止め方も個人差があるから、もっともっと曖昧で複雑なものだと思う。必ずしも男性⇒女性の加害だけではなく、逆も然り、同性間であろうと起こり得る。置かれている立場や環境が変われば、誰でも加害者になり得るということ、その可能性を「自覚する」必要がある。

登場人物の誰に感情移入して読むかで見方も変わる気がしていて、潜在意識を試されているようで怖かった(笑)。人間の多面性もおもしろかった。パワハラが原因で休職中の身なので、該当シーンのフラッシュバックに似た追体験はめちゃくちゃリアルだった。でも現実では中々知ることのできないパワハラ加害者が憔悴している描写は、言語化できない感情でぐちゃぐちゃになった。同棲を見据えたアラサーの身でもあるので、結婚に付き纏うあれこれがフィクションとは思えない没入感だった。

個人的に昔から染みついている癖(?)で、自分が嫌なことされたら(見聞きしたら)、とにかく「反面教師」を心がけて生きていて。絶対に○○しないぞ~って強く意識するあまりに、自分も加害者側になっている、加害者と同じ言葉を使っていると気づいたときの恐怖たるや。そういう心理的なものがあるのかわからないけど、受けた被害の裏返しで攻撃的になる可能性があるのだとしたら悲しいし、意識的に抑制しないとだよねえ。

なんか、被害を受けたことばっかりが鮮明に思い出せてしまう自分が嫌になってきたなあ。蘇った記憶と同時に、『ブルーマリッジ』をぜひ読んでほしい加害者がたくさん思い浮かんだ。でもすでに書いているように、自分の潔白を証明して、堂々と被害者面できるかというとそれは違う。でも、どうにか読んでほしい(笑)。


全体を通していろいろ綴りたい

そもそもカツセさんの文章が好きという大前提なんだけど、『ブルーマリッジ』は主人公の2人の視点が行ったり来たり描かれていて、徐々に交錯する感じが群像劇っぽくてとても好みだった!ある登場人物の名前が伏線回収されたときはめちゃくちゃゾワッとした(※P.214部分です)。

超個人的な感想としては、『傲慢と善良』と似たような読後感だった。人物描写の解像度の高さゆえに、自分の過去と向き合わざるを得ない感じ。どちらも大好きな作品です。

(ページを見失ってしまったけど)「謝りたい≠赦されたい」とメモを残してた…むむむ。後で追記しようかな。

SNS上の話になるけど、なにか意見しなきゃと反射的に発言している人が多いような気がするし、目に見えない加害者と被害者も大勢いると思っていて。過去の発言が一人歩きしていて、現在~未来は変わる可能性があるのにちょっと違和感があるかなあ。ちょっと薄い感想になっちゃった…SNSとの距離感を心地よく…。

偶然かもしれないけど、カツセさんの小説発売のタイミングが私の年齢(1994年組?)にドンピシャで刺さる~!というお話。2020年6月発売の『明け方の若者たち』では、20代前半の人生のマジックアワーが描かれていて、ちょうど26歳になる年だったの。ついこの間過ぎ去った20代前半に想いを馳せるには生々しい。映画もとってもよかったので、おすすめです!今回の『ブルーマリッジ』も、上述の通りほぼ同い年の登場人物が出てきたり、仕事や結婚など人生の岐路に立っているタイミングで救いになる一冊だった。


最後に

書き出したら止まらなくて、4,500文字超えの感想文になった!途中ゲシュタルト崩壊した気がするけど、大丈夫かな…。

最後まで読んでくださって、ありがとうございました!うーん、とにかく全人類に読んでほしい~と思った!間違いなく出会えてよかった本です。

読んだ方がいらっしゃったら、感想おしゃべりしたくなる…🥹

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