蒸し暑い夏日が、「神さまのビオトープ」を読んで充実した一日に変わりました。
今日も暑かった。お客さんは少なめです。当然売上もサッパリです。スズメの涙。スズメが泣くのかどうかは知りませんけど。
そんなしょうもないことを書きたくなるくらい蒸した一日でしたが、読書のおかげで充実した一日に。読んだのは凪良ゆうさんの「神さまのビオトープ」。店主の教え子が「凄く面白かった!」と絶賛していたので読んでみたのです。
こちらを書かれた凪良さん、2020年『流浪の月』で本屋大賞を受賞された際に、BL作家さんということは聞いていました。そいういうこともあり、今まで手を出せないでおりました。だって店主は男ですから。
しかし本を開くと、冒頭からスルスルスルッと特殊な設定が脳内を占拠。反抗する間もなく、独特の世界観の中に放り込まれ、オムニバス形式の話がスタート。すべての話に共通する要は「死んだ旦那がお化けになって目の前に現れた」という設定です。その設定で4つの話が進むのですが、その世界観がファンタジーなのに自然体。
それぞれの話には起承転結のようなものがしっかりと準備されており、伏線や謎を丁寧に回収する作者のお気遣いにも感謝。その見事さよ。仕事中にも関わらず、本から目が離れない。ページをめくる手も止まりませんでした。
この作品の魅力について箇条書きで考えます。
・登場人物の少なさ
・登場人物の隠された部分の表現
・場面の少なさ(ほとんどが主人公の家で話が進む)
・薄い毒
・余計なことが書いてないシェイプアップされた文章
・感覚的な世界観
・ピンポイントで存在する謎
・その謎を読者が解けないように隠しとおす文章術
こうやって分析すると、3つの優秀さが際立ちます。
1つ目は作者の世界観です。人のセンシティブな面を前面に押し出して書かれた世界観が見事。幽霊の存在が凄く自然に書かれています。そして透明感ある登場人物が多く、すべての人に隠された謎が存在する。もしかしたら、ありがちの設定だったのかもしれませんが、店主としてはその自然さを新鮮に感じました。
そして2つ目は、それを実現させる作者の言葉の選び方。幽霊となった旦那と主人公の会話が月並みですが暖かい。そして登場人物の発言も面白い。特にロボットの話は謎解きも加わり面白かったですね。作者は読者を欺きますが、操られている読者はその仕掛けに最後まで気がつかないことでしょう。
そして3つ目は最後に謎を丁寧に隠しとおす作者の頭の良さ。これは本当にもう読んで実感するしかない。例え最後に隠されていた秘密が明らかにされたとしても、そこでスカッとするわけでもなく、嫌な気持ちになるわけでもありません。丁寧に畳まれた洗濯物を開くかのように最後に謎が解き明かされる。
もし、ドラマ化するなら、スペックが高い役者さんが数人いれば事足りる。少人数の劇団が上映してもピッタリと合いそう。よくよく考えればなんとも小さな世界の話ですが、考えれば考えるほど、その懐の深されに驚かされることとなるでしょう。
読書によって、蒸し暑い夏日が充実した一日になりました。本当に読書っていいですよね。
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