「誤情報」と「思い込み」の鎖
絵を描くのはお好きですか?
私は苦手です。写実のセンスが致命的にない。
昔ダウンタウンの番組で浜田さんがドラえもんを描きました。共演者はそれを見て大笑い。テレビの前の私は顔がひきつっていました。そして浜田さんに仲間意識を抱きました。「わかる」「俺だけじゃなかった」と。ちょうど太宰治を読んだ時のように。
小学生の頃、図工の時間が苦痛でした。説明書に従ってプラモデルを組むのは好きだったのに。たぶん何かをゼロから自分で考えて創るのが苦手だったのでしょう。そして、それを人に見下されるのが許せなかった。なまじ勉強ができたせいでプライドが高かったのです。
ある時、描いた絵を見た大人(たぶん先生か親戚か近所の人)に「これじゃピカソだよ」と嗤われました。いまもそうかもしれませんが、現実からかけ離れたシュールなタッチを侮蔑する文脈で「ピカソ」という語彙が使われていたのです。
彼らはピカソのことなど何も知らない。知らずに勝手なラべリングを施し、子どもに誤った先入観を植え付ける。おかげで長年「ピカソは絵が下手だ」「鑑賞しなくていい」と思い込むハメになりました。
先日も、とある著名人がツイッターで「北方領土返還交渉はただのプロレス」とつぶやいていました。きっと見たことないのに、本質を知らずに軽い気持ちで比喩として用いたのでしょう。無知に無自覚でドヤ顔できるナルシシズムは滑稽に映りますが、思い込みだけが根拠の偏見を刷り込む人が周囲にいたのなら気の毒です。私も気をつけようと襟を正しました。
さて、ピカソの入門書としては↓がオススメです。
当たり前かもしれませんが、ピカソは写実的な絵も相当上手いです。遠近法とかもちゃんと理解している。そのうえで、昔ながらの諸々の約束事を無視することで斬新な作品を生み出したのです。
「バラ色の時代」の頃から絵が売れるようになり、靴も買えないほどの極貧生活から脱出できました。本来ならそのスタイルに固執して守りに入るところ。でもピカソの志はもっと高みを見据えていました。難解で革命的な「キュビスム」への挑戦。ここで大胆な冒険に打って出たことが、後年代表作として全世界に賞賛される「ゲルニカ」へ繋がった気がします。
結局いちばん大事なのは「悩み抜いた末の己の決断を貫くこと」なのかもしれません。そして世間にはびこる大きな声に流されず、みずからの理性と感性を信じること。
最後に私と同じように絵が下手だという劣等感を抱えている人へ、岡本太郎さんの名言を贈ります。
「下手なりに、平気でつくればいい」「どんなにひんがまって不恰好でも、心が生み出した以上、必ずなにかがある。それを発見し、実現していくことは、キミ自身の自己発見だ」
彼はピカソから大きな影響を受けています。「青春ピカソ」という本も書いています。読了後、両者は近い芸術観を胸に各々の運命と戦っていたのかなと感じました。
知らぬ前に縛られた「誤情報」と「思い込み」の鎖。それらを解き放ち、真実を「知る」ためのキッカケとしてぜひ。