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令和の文学はこれじゃないか

書評行きます!

「鳥打ちも夜更けには」 河出書房新社 金子薫著 2016年出版 151P

(以下、読書メーターに書いたレビュー)

著者初読。句読点の打ち方が巧みで読み易い。北方謙三の歴史小説を読むと、軍人は司令官の意図を考えず命令の遂行に集中すべしという件がよく登場する。成果と数字しか見ない輩からしたら思考停止して職務に打ち込む部下は最高の奴隷。アイヒマンを連想するまでもなく考えないよりは考える方が良いが、本作が良心の呵責に苛まれて脱走した末路を暗示しているとしたら恐ろしい。天野にとっての最善策は美しい理想郷ではなく薄汚い料亭にあった。悪くないと思える生きる道に出会えて幸運だったのに。でも彼の決断が仲間を救ったのも確か。やるせない。

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タイトルとあらすじを見た時に大江健三郎の名作「芽むしり仔撃ち」を連想しました。もちろん時代もストーリーも全く別なのですが、結末まで読んであながち的外れでもなかったかな、と思いました。鳥を撃つか、魚を獲るか、それとも美しい蝶を犠牲にするか。いずれも町に住む人々が生き延びるために不可欠な行為であるとしたら、その選択に良し悪しの違いはあるのか。良心の呵責に苛まれる必要はあるのか。無論各々の利害関係があるわけでその対立は必至。いかにして折り合いを付けるか。そして仕留める対象が同じ人間に変わったらどうなるのか。

純文学=小難しい語彙の羅列と長過ぎる地の文、独り善がりと隣合わせのカオスな展開及び庶民の日常から懸け離れた壮大なテーマという先入観を持つ方にぜひお手にとっていただきたい一冊です。それらの要素は別に純文学に不可欠な要件でもなんでもありません(そもそも「純文学とはこういうものだ!」という定義などどこにも存在しないのです。ロックがそうであるように)。むしろ作家の力のなさをカヴァーする鎧の役目を果たしている場合だってあるでしょう。平易な文体、明快な描写、それでいて根源的なテーマを投げ掛ける。戦争とは仕事とは理想とは、そして我々が現実的に生きていく上での進む道のあり方と選び方とは。

この著者、もしかしたら「令和の文士」を代表する存在になるかもしれません。私自身がシンプルな文学を志向しているからそう考えたいというのもありますが、良くも悪くも非日常的でご立派でお堅い文学が人々の心に響く時代ではないと思うのです。そういう作品が読みたければ過去の素晴らしい作品(それこそ大江健三郎とか)に当たればいいのです。金子薫、要注目ですね。


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