「先頭打者ホームラン」と「大人の知的娯楽」
先日、週刊誌の休刊について書きました。
陽明学の「知行合一」じゃないですけど実際に買いました。3日に出た「ビッグコミックオリジナル」を(基本的な発売日は毎月5日と20日)。
巻頭カラーは女性保護司が主人公の「前科者」で、これが出会い頭の衝撃。先頭打者ホームランです。ストーリーもさることながら、某文学の新解釈に惹き込まれました。
ある意味で従来とは真逆の視点。角度を少し移すだけで、まるで異なる風景が浮かび上がる。どちらが正解とかの二元論では語り尽くせぬ深みが名作の証でしょうか。知的好奇心を刺激され、件の作品を再読したくなりました。
5ページに添えられた「はじめに」によると、保護司は、刑務所の仮釈放者や少年院の仮退院者ら保護観察処分を受けた人の更生を支援する非常勤の国家公務員とのこと。「前科者」は2021年にドラマ化され、翌年には映画になったようです。
切れ味抜群のコラム「オリジナリズム」も健在でした。特に山口文憲氏の「個人の感想です」は昨今の忖度に塗れたマスコミに失望している人に読んでほしい。こういう文章を書く作家や掲載する気概を持ったメディアがいまもちゃんと存在するのです。いったい何度「医師個人の感想です」の透明なテロップをニュースやSNSに見出したことか。。。
「2019年からの最新高校野球事情漫画」を掲げる「僕らはそれを越えてゆく」は全掲載作の中で最も続きが気になります。なぜなら物語がついに2020年3月を迎えたから。そう「あれ」が来たのです。
当時は休業する書店も少なくなく、営業を継続したお店にお客さんが殺到。「前よりもずっと密だよね」と同僚にボヤかれた記憶があります。野球部の学生や関係者たちは、あの状況にどう対処していたのか。
鉄道オタクの政治家が主人公の「テツぼん」も響きました。
3.11の直後、ガソリンや灯油が不足した被災地へ石油を届けるために奮闘したJR貨物の職員及びディーゼル機関車の物語です(電気機関車の走れないルートがあったため、旧式のDD51が集められた)。自分たちも被災者だったのに、何日も家に帰らず準備に取り掛かったとか。
ただただ頭が下がります。こういう人たちの目に見えない踏ん張りのおかげで我々は生きていられるのだと実感しました。
貨物列車は新幹線みたいに華やかな存在ではありません。だからこそのカッコよさが身に染みます。いままで考えたこともなかった事実を知ることができて本当によかった。
「ビッグコミックオリジナル」は多種多様な喜怒哀楽が詰まった、まさに大人向けの知的エンターテインメント誌です。お求めはぜひお近くの書店にて。