全ページを書き写したい「美しい一冊」
書店で本を衝動買いする際、何を基準に選びますか?
立ち読みしたときのインスピレーションや著者名、タイトル、厚さ、帯などいろいろありますよね。「あとがき」をチェックしてから決める人もいるようです。
私の場合は「表紙のデザイン」が重要なポイントです。
もちろん本は読むためのものです。と同時に、クールな装丁に惹かれて買ってしまうことがしばしばあるのも事実。代表例は森博嗣「スカイ・クロラ」です。文庫を持っているのに単行本も購入してしまいました。
ぜひ大型書店で実物を見て欲しいです。きっと「ああなるほど」と納得できますから。
あと大事なのは手に取ったときの「馴染み感」。電子書籍にはない「紙の本」の魅力のひとつです。三浦しをん「舟を編む」の中で、辞書に使う紙を吟味する編集者の主人公が「ぬめりがない!」と叫ぶ場面があります。手触りは大事なのです。
書店で気になった本を棚から抜き取り、そのまま手離せずにレジへ、という経験はありませんか? 先日久しぶりにそれを堪能しました。↓です。
実物は下部に白い帯が付いています。それを併せたデザインの美しさにまず目を奪われました。そして手にした際のコンパクトな軽みに「あ、気持ちいい」となり、無造作に開いたページの詩がとどめを刺しました。
「一つの言葉に出会って こころがうるおいを失っていた自分に はじめて気が付くことがある」
一瞬で腑に落ちました。この一冊と出会うために、いま私は都内某所の町の本屋さんへ久しぶりに来たのだと。自分が無意識に求めていたものはこれだったのだと。
食事と同じく、読書もバランスが大事です。最近の私が選ぶ本は知らず知らず「頭でっかち」に偏っていたのかもしれません。「本を読む目的って学ぶことだけじゃないよ」と教えてもらった気がしました。
買ってから気づいたのですが、この詩集はどのページを開いてもノートに書き写したくなります。そういう言葉がたっぷりの余白をまとって静かに並んでいるのです。大切な人を失った悲しみを漂わせ、でも決して胸を苦しくさせない。ムリに元気を喚起せず、かといって鬱屈して沈むわけでもない。
ただただ素朴な心情が綴られているのです。丁寧に。
どうぞお近くの新刊書店で探してみてください。そして見つけたらページをそっと開いてみてください。「美しいとき」とは、いま生きて読んでいるこの瞬間を指すのだと実感できるはずです。ぜひ。