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Bon voyage

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旅の途中で出会ったかけがえのないものたち。 いつもの見慣れた場所に留まっているとしても、そこではないどこかを歩いているとしても、いつだって旅。終わることのない旅の途中。
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#ひとり旅

#4 イルカの空

#4 イルカの空

マシューは行ってしまう前
こんなことも言っていたよ。

「楽しんで生きろよ。楽しめ、感じたままに。」

何を楽しむの?
そんな陳腐な質問を返してしまったから笑われると思っていたけど
マシューは真剣な顔をして言った。

「人生のすべてをーだ。」

「俺は動物園が好きじゃなかった。あそこにいる動物たちって幸せなんだろうか?っていつも気になってしまったんだ。水族館のイルカやアシカは幸せなんだろうか? い

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祈り

祈り

サンジェルベ・エ・サンプロテ教会の扉を押すと、

いきなり大きなイビキが聞こえた。

祭壇の真正面。

椅子を5つならべて、

髭面に汚れた服の男が横になって寝ていた。
傍らには大きなリュックがひとつ。

くたびれた靴のまま。

宿代を浮かすためのバックパッカー?
ホームレス?

どちらでも、どちらでもなくても、寛大な神は許したもう。

サントゥスタッシュ教会に入る。

周歩廊を一周しているとき

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ひとり旅でもひとりじゃない

ひとり旅でもひとりじゃない

「クロッカスが咲いちゃったよ」と言って、母はこっそり涙をぬぐった。

な、な、何? 今、旅から帰っただけなのに。

大学生の時、どうしても流氷が見たくなった。

初めての北海道、しかも真冬の。スキーをするでもなく、ただただ流氷を見に行く。節約の旅だから宿泊はユースホステルの予定だし、大まかなスケジュールしかたてず、気分と状況次第で決めようと、初日の宿泊しか予約していなかった。

そんな適当な旅を母

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さらなる高みへ行きたい

さらなる高みへ行きたい

小さいころは家の周囲が遊び場であり世界だった。

知らない路地を見つけると入って行った。

見知らぬ人々、生活感、におい、何かの予感・・・それだけで遠くへ来た気がした。

初めて自転車で遠出をして。

初めてひとりで電車に乗って。

初めて外国へひとり旅をして。

少しずつ世界は広がった。

そして、今年の夏からは新たな道を進んでいく。

どんどん世界を広げて、知らない景色をたくさん見て、知って、

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自己紹介というnoteへの感謝状

自己紹介というnoteへの感謝状

 なんでだろう。

幼稚園のとき椅子取りゲームがあった。私は椅子取りゲームが嫌いだった。椅子が1つ足りないから必ずひとりあぶれてしまう。自分があぶれても、誰かがあぶれても、ひとりあぶれてしまうことが嫌だった。だから、参加しないで眺めていたら先生に怒られた。先生は家にまでやってきて両親に文句を言った。

 なんでだろう。

小学1年生のとき

授業で発言したあと、その人が次の発言者を指名するーという

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人を信じるとは           ヘッセを探しに行った旅での出来事

人を信じるとは           ヘッセを探しに行った旅での出来事

聖地巡りじゃないけれど、憧れる人物に関わる場所、物には触れてみたくなるのは当然のこと。大好きなヘルマン・ヘッセの故郷カルプと、愛してやまない作品「ナルチスとゴルトムント(知と愛)」の舞台でもあり、また、ヘッセ自身も通った神学校、マウルブロン修道院(作中ではマリアブロン)へどうしても行きたい気持ち止みがたく、私は旅に出た。

シュトゥットガルト中央駅から急行に乗りミュールアッカーという駅で降りる。マ

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