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祈り


サンジェルベ・エ・サンプロテ教会の扉を押すと、

いきなり大きなイビキが聞こえた。

祭壇の真正面。

椅子を5つならべて、

髭面に汚れた服の男が横になって寝ていた。
傍らには大きなリュックがひとつ。

くたびれた靴のまま。

宿代を浮かすためのバックパッカー?
ホームレス?

どちらでも、どちらでもなくても、寛大な神は許したもう。


サントゥスタッシュ教会に入る。

周歩廊を一周しているとき

途中にあるマリア像を一心に見上げ

膝をついて祈っている老婆がいた。

傍らに古びたキャリーカート。

その姿から、私の心を押すものがあり

はっとして見ると、目に涙をためている。


生きる苦しみのためか、誰か愛するもののためか

ひたすら、声にならない祈りを

萎えた唇で唱えていた。


きっと、きっと神は叶えてくださる。


不思議のメダイ教会。

聖堂の一番後ろの壁に寄りかかって祭壇を眺めていたら、

見知らぬ人に声をかけられた。

隅に告解室があったから、順番待ちをしていると思ったらしい。

いえ、違いますーどうぞ。

そう言ったあと、

告解することはたくさんあるよね。

そう振り返る。

神父様に聴いてほしいことがたくさんあるよね、きっと。


さっき、門のところに物乞いがいました。

私は手持ちのコインしか上げませんでした。

どうして、快く、もっとたくさん差し出さなかったのでしょう。


「そう、気づいたことで、いいのですよ。」

神さまはそう教えてくれた気がする。


ぼ~っとしている間にミサが始まり

途中で抜け出せなくなって、前後左右の人と握手をする。

みんな、手の感触も握り具合も違う。

私はできるだけ心をこめて、目を見つめて笑顔で握った。



世界は狭くなったけど、まだまだ知らないことばかり。

知れば知るほど、大きさを感じる。



だけど、だけど、

私は

こんな宇宙のちっぽけな片隅ででも

素晴らしい世界を祈りたい。


たとえ人生が放浪であっても、

何億とある銀河の何億とある星の

何億とある分かたれた魂のぽつんと1つだとしても。


みんなの幸せと世界の平和を祈りたい。

素晴らしい世界を祈りたい。


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あとりえぽえとりあ  
素晴らしい世界をたくさん見たい。たくさん感動したい。知らない世界を知りたい。幸せは循環させたい。ありがとうございます。

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