何もすることのない連休。 彼女の名前、いや元カノの名前を検索バーに打ち込む。 彼女のいない僕はいつもこんなことを繰り返している。 友人達は、彼女とデートにでも行っているのだろう。 連休にまで部屋に引きこもって時間を持て余しているのは、僕くらいのものだ。 友人達が恋人との思い出をインスタグラムに載せているのを見てしまうのが嫌だったから、彼らのインスタグラムは全てブロックした。フォローしているのは、個撮モデルをやっているような女の子と女性向けのサロンだけだ。ショートカットを得意と
世界がグラグラと揺れている。世界が逼迫している音がする。なぜ、こんなことになってしまったのか。それは、ひとえにジッドの小説を読んでしまったせいだ。耳鳴りがする。頭痛もだ。けれど、僕にしては珍しく吐き気はしない。きっと、世界が終わるならこんな感じだと思う。これが、僕が望んだ結末なのだろうか。確かに、僕は触れている。それだけは、確かだ。 夜の街を歩くのが好きだ。それは、目に痛いネオンが淫らに光る町のことを言いたいのではない。ディックもギブソンもいない。ただ、朝に向かって国道を
私は、彼女を愛していた。 彼女が私のことをどう思っているのかは、正直な所、私の知るところではない。 だが、私は、彼女が欲しくて欲しくてたまらなかった。 彼女は、病床に臥せっていた。彼女の体の自由は、効かず、私は、彼女の肉体を恣に貪ることができた。 しかし、それは、私の欲するところではない。私は、愛が欲しかった。彼女に愛されたかった。彼女に認められたかった。彼女を理解し、一つになりたかった。だが、それも儘ならない。私には、彼女の話す言語が理解できなかったし、どちらにせよ、彼女の
ラヂオから新商品紹介のアナウンスが流れる。宇宙からの新商品。第二の地球。何度も聞いた売り込み文句と商品内容とはいえ、今までにこれほど画期的な商品があっただろうか。詐欺紛いの某ジャ◯ネットのタカダ社長もきっとビックリだ。腰を抜かしたまま立てなくなってしまうに違いない。ラヂオは新商品紹介のアナウンスからどこがサビかまるでわからないほとんどノイズといってしまっても過言ではないDream POP を流す。僕は、U-senもおしまいだなと思いながら、シーチキン味のポテトチップスをバリバ
僕は、14の頃から詩を書いている。詩集こそ刷っていないものの、人生の三分の一を詩人として過ごしてきたことになる。この事には、僕自身が一番驚いている。何というかそんなに書き続けていたのかというよりも、純粋に時の流れの速さに対して。最近は、詩集に加えて歌集も読むようになった。自分で歌を詠むことさえ未だないものの、僕の今の言語感覚に変化の兆しがあるのは確かだ。 詩歌の類を詠む時の言語感覚と小説の類を書く時の言語感覚は、確かに異なる。 詩歌を詠むというのは、若い内に心という池に言
君がいた風景を僕はもう二度と目にする事ができない。君は、墜落した飛行機の中死んだようにすやすやと眠っていて、全く他の死体と見分けがつかなかったから本当に困ったよ。僕は、燃え盛る飛行機の中から君を救い出すと、砂浜に君を横たえて水筒(漂流の末、この島に流れ着いたものだ)の中に入れた川の水を飲ませてやろうとその栓を抜いたのだけれど、勢い余って中の水を思いっきり君の顔にかけてしまった。すると君は、 「わっ何々、冷たい。えっえっ⁈」 なんて声を漏らして狼狽えだのだけれど、僕はその余
旅行先で写真を撮る。自分で見返すことはないし、誰かに見せるつもりもない。尤も、僕の場合、写真を見せるような、いや見てくれるような人がいない。ただ、それだけの話なのかもしれない。元々僕には、写真を撮ることに対する情熱なんてものは露程もなかった。大枚を叩いて購入したLeicaは、何のために存在しているのだろう。せめて、レンズにカビが生えない程度には何処かへ行こうと思う。 おおよそ、給料三ヶ月分。朝起きて、コーヒーを飲みながら本を読むこと。眠る前にNETFRIXを見ること。他には
部室で、あなたは、クッキーと書かれた得体のしれない紅茶を飲んでいる。 僕が、小説を読んでる姿を見て「君って、小説とか漫画の趣味本当にわかりやすいよね。好きな女の子の趣味が全開に出てるというか。」なんて言う。僕の気持ちを知りながら、からかって楽しんでいる。それを僕は知ってる。 「そういうあなただって、あの俳優が好きとかBLが好きとか大概性欲丸出しだよ。」って僕は思うけれど、馬鹿の振りをして 「あはは〜、僕モテないから〜。」なんて、又嘘を重ねる。 僕は、僕のことを好きになるような
酒場の喧騒は、僕の不安をかき消してくれる。ここにいる間は、何もかもがどうでもいいことの様に思える。恋人も友人も仕事も。だからこそ、僕は友人や恋人を連れてここに来る人達を見るとなんだかウンザリしてしまう。そういう彼等は、僕と違う人間。レイヤーを一つ分隔てた背景の様にしか思えない。彼等が僕を見て脇に逸れたり、不意にぶつかってしまうと『体温、、。』と当たり前のことなのに何だかゾッとしてしまう。そんな僕にとっての安楽地である酒場には、馬鹿な人間もいて、そういう人間は決まって博打を始め
運命は水槽の中で腐り果てていた。 そもそも、何故、運命なんてものを水槽に入れてしまおうと思ったのか。そこからして十分に不可解だ。だが、その時の僕には、運命を水槽に入れること。それこそが一つの定められた運命のように思われた。 ブクブクと新鮮な空気を孕んだ泡を吐き出すポンプが鎮められた水槽に何故、運命を放ったのか。それは、僕が運命という重い物を抱え続けることを拒む一つの逃げの形だったのかも知れない。けれど、当時のことをはっきりと覚えている訳ではない。それ故真意は、僕自身