「同胞」
君がいた風景を僕はもう二度と目にする事ができない。君は、墜落した飛行機の中死んだようにすやすやと眠っていて、全く他の死体と見分けがつかなかったから本当に困ったよ。僕は、燃え盛る飛行機の中から君を救い出すと、砂浜に君を横たえて水筒(漂流の末、この島に流れ着いたものだ)の中に入れた川の水を飲ませてやろうとその栓を抜いたのだけれど、勢い余って中の水を思いっきり君の顔にかけてしまった。すると君は、
「わっ何々、冷たい。えっえっ⁈」
なんて声を漏らして狼狽えだのだけれど、僕はその余りにも平凡な君の反応に僕は笑ってしまった。飛行機は墜落して、沢山の人が死んだというのに…まぁ、僕にはそれも君さえいればどうでもよかったのだけれど。
僕は村上春樹宜しくやれやれʅ(◞‿◟)ʃと言いながら、僕が把握している君の状況を分かりやすく説明してやった。すると君は
「どうして、どうして私だけ助けたの?ユカちゃんもナミちゃんも皆んな死んじゃったんだよ!何で私だけ…こんな事なら私も死ねばよかったんだ…」
そういいながら、君は鼻水と涙をボロボロと零しながらか弱い力で何度も何度も僕の胸を叩いた。そういえば、何故僕は君だけを助けたのだろう。いざ訊かれるとどうしてなのか全く分からなかった。だけれど、僕には君以外の人間が死のうと自分には全く関係ない事だとしか思えなかったし、君が死ぬことは絶対に許せないし、君を救い出さなければならないと思った。そして同時に君以外の人間を見殺しにすれば君を救い出すことは比較的容易な気がした。そう自分の考えを整理していると、僕は君のことは愚か、自分のことすらも何一つとして知らないことに気づいた。でも、そんなこと些細なことに過ぎないとも思った。僕は君を救う役目、これはそういう物語なのだと感じた。何か大きなものにそう干渉されている。頭の奥で何かが話しかけてくるそんな気がした。それでもやっぱり、その声すらどうでもよく僕は君を助けさえすれば他のことはどうなろうと構わなかったし、気にならなかった。自分がいつからここにいるのかも、何故僕が制服なのかも。
「さあ、行こうか。」
飛行機の残骸や転がる死体に僕は何も感じなかったが、君の精神衛生上離れた方がいい気がした。
「ねぇ、どうしたの?ミナミちゃん変だよ。おかしいよ。さっきからどうしたの。どうして。ミナミちゃんは、悲しくないの。私は悲しいよ。本当にあなたはミナミちゃんなの?」
僕には、君が何を言っているのか全く理解できなかった。ただ僕の言葉や振る舞いが酷く君を傷つけてしまったことだけは深く理解できた。そういって君は、鬱蒼としたジャングルの中へ消えてしまった。
僕は君を見失う訳にはいかないからと、すぐに君を追いかけたのだけれど、深いジャングルの中では、数秒前の君を追いかけることも叶わなかった。数日後、僕は死体になってしまった君を見つけた。けれど、僕にはそれがどうにも信じられなくて何度も何度も空っぽになった君のハラワタを突っついてみたりした。でも、きみはスンともウンとも言わなくって僕はどうしようもなく君が可哀想に思えてきて君に生きて欲しくってたまらなくて柄にもなく、柄にもなく⁈どうして僕がこんなことを思っているんだろう。記憶なんて何にもないはずなのに?ふと僕の中にある考えが浮かんだ。
僕は、君を灰になるまで燃やした。すっかり灰になった君を僕は水で流しながら飲み込んだ。始終、嗚咽が止まらなかったんだけれど君を思うと苦にはならなかった。すっかり、君を胎の中に飲み込むと、君がよく僕の長く艶々した金色の髪を撫でてくれていたこと。君が僕の碧い瞳をよく褒めてくれたこと。そんな情景が何となく浮かんできた。僕は、きっとどうしようもなく君を愛していた。これらは全て僕が記憶をなくしてしまった故に、壊してしまった情景なのだろう。君とお揃いの制服のセーラー服は、とてもボロボロになって、スカートまでもが見る影もないボロになってしまっていた。君がいる風景も教室での情景も二度と僕は見ることができない。でも、これからは、ずっとずっと一緒なのだと僕は思った。僕は君を独り占めしたかったんだね。僕は、そう頭の中で干渉してくる前の僕…嫌、私と言った方がいいのかな?其奴にそう声をかけると、嬉しくっておかしくって夜通し声をあげてわらってしまった。
その後、僕だけが飛行機事故の生き残りとしてメディアのインタビューに引っ張りだこになったのだけれど、有る事無い事出鱈目ばかりを吹聴し続けた。それに一々反応する人々も可笑しかったけれど、周りを、そして自分自身を嘘で塗り固めることで私の中で永遠に眠る君への愛が本物に感じられて、僕はとても満たされていた。
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