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訪問看護〜回想録〜

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訪問看護歴20年あまり。訪問先での出来事、思い出、学び。訪問看護いまむかし。
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#訪問看護

訪問看護でお会いして、お見送りをした方々が「自分に何を教えてくれたか」を心に刻み、共に生きるということ

綺麗な三日月の夜に旅立たれた、Mさんの四十九日が過ぎ、私から担当を引き継いでくれたスタッフナースと担当ケアマネジャーの3人で、Mさんのご自宅にお伺いした。 ・・・ ドアを開けた奥様の顔が「ぱっ」と明るい笑顔になり、「わー、懐かしい。来てくれてありがとう。」と私たちを招き入れて下さった。 すっきりと片付けられたリビングには、Mさんの柔らかな笑顔の遺影とともに小さなお仏壇があった。 山が好きで文章を書くことが好きな、Mさんらしい戒名。 最期のとき「夕焼けが見たい」と言われたMさん

大切にされていることを、大切にしたい。

Mさんは消化器系のご病気で、病気が分かってから1年以上、ずっと奥様と二人三脚で闘病をされてきました。口からの食事がとれない為、24時間の持続点滴は欠かせません。 先日、知的で穏やかなMさんにしては珍しく、スタッフとの電話の際Mさんが語気を強めたやり取りをされたと聴き、私は少し気になっていました。 抗生物質の点滴の追加指示が出たため、私は久しぶりにMさんのお宅へお伺いしました。 他愛のない話の後、私が抗生物質の点滴の準備をしていると、Mさんがぽつりぽつりとお話ししてくださいま

3回目のさくら

春生まれのKちゃんにとって、3回目のさくらの季節がやってきました。 (「笑顔の贈り物」の文中で最後に登場し、帰り間際に笑顔のプレゼントを1つ私にくれた、Kちゃんのお話です。掲載にあたりお母様の許可を頂いています) ・・・・・・・・ Kちゃんは生まれつきの病気で心臓と気管支が弱く、上手に呼吸をすることや、口からミルクを飲むことができませんでした。 誕生後、数カ月の入院を経て、鼻から胃まで管を通し、ミルクを注入する経管栄養を行いながらの自宅退院となりました。 初めてKちゃん

何が正解なのか その②

「何が正解なのか①」その後のお話です。 前回のnote はこちら→ https://note.mu/bochibochimaka/n/nba1f194a2b07/edit **************************** I さんは食事がとれなくなり、 医師より点滴の指示が出ました。 ご家族は迷っておられまたが、週末を挟むため、まず週末の数日間は点滴を行い、週が明けてからのIさんのご様子でその後の方針を決めましょうということになりました。 私たちがご家族と初め

眺めのいい部屋

Tさんのお宅に伺うと、いつものように娘さんが待っておられました。 Tさんの部屋は、窓から遠くに海が見える一番眺めのいい部屋。 部屋に入ると、いつものようにTさんお気に入りのBGMが流れ、壁にはTさんが好きな花の写真やポスターがたくさん貼ってあります。窓からの景色がTさんからも見えるよう、窓の近くに介護用ベッドが置かれています。 いつものように、私は娘さんと向かい合わせにベッドを挟むように立って、娘さんと一緒にTさんの身体をホットタオルで清拭し、お通じの具合を確認し、おむつ

何が正解なのか~人生を終えるにあたって~ その①

 90歳後半のIさんは特に大きなご病気はありませんでしたが、この数週間で食事がとれなくなり、医師より毎日補液の為の点滴の指示が出たため、訪問看護を利用されることになりました。 ご依頼を頂いた時、お看取りを視野に入れた対応となることが予測されました。 初めてご家族とお会いした時のことです。 「点滴は延命処置なのですか? 母は歳ですし、点滴で良くなるのでしょうか? 母のことは先生にお任せして、先生の指示に従うものだと思っていますが、家族の考えを先生にお話してもいいのでしょう

くやし涙

訪問看護部門の中でも、あまり感情を表に出さず、冷静に淡々と仕事をこなすKさんが事務所に戻ってきたとき、珍しく涙をためていました。 どうやら悲しいのではなく、くやし涙のようです。 主治医の先生とこんなやり取りがあったようです。 彼女の受け持ちの利用者さんは微熱が続いており、経過観察していたのですが、血液検査の結果炎症反応が悪化していました。 ご家族も微熱が続いている事、検査結果が悪くなっている事、 「このままでは身体が弱ってしまうのではないか」と心配をされていました。

お別れまでの時間

休日。 利用者さん宅にお伺いし点滴の準備をしていると、オンコールの携帯電話が鳴りました。 数日前に訪問看護利用の契約が済んだばかりのTさんの奥様からです。 「昨夜から夫の調子が良くない。朝トイレに行こうとしたけれど、途中で動けなくなりベッドに戻れない。起こしに来てほしい。」という内容でした。 早々に点滴を済ませ、急いでTさんのお宅にお伺いました。すると、Tさんはリビングの床に横になっておられました。 側で奥様と兄弟の方が心配そうに待っておられました。 私はTさんの顔を覗

11月の花嫁

ある日、80歳代のYさんの介護をされている娘さんから、 「娘(Yさんのお孫さん)の結婚式に母(Yさん)を出席させたい。看護師の付き添いをしてもらう事は可能か」 との相談を受けました。 介護保険や医療保険制度での訪問看護の利用には様々な制約がある為、自費対応なら付き添いが可能であることをお伝えしました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ その後Yさんは物忘れが進み、自宅での生活が難しくなり、入所の為に訪問看護は終了となりました。 半年後に娘さんから連絡をいただき、

ケアマネジャーの必須アイテム電卓?

何を隠そう実はわたくし、ケアマネジャー(介護支援専門員)としても働いていました。 しかも第1回のケアマネジャー実務研修受講者です…。働き方の選択肢の幅を広げたいと思い、長男の育児休業中に準備をし、受験しました。 ・・・・・・・・・・ 忘れもしません。 介護保険がいよいよ4月から開始される寸前の3月。 4月からのサービス提供票(1ヵ月間のサービス利用予定表のようなもの)の作成が必要でした。 国からの通達がぎりぎりだったため、ケアプラン作成ソフトの納品・パソコンへの導入

おみおくりのあとに

Kさん(女性)にお会いしたのは12月の初めでした。 「最期は自宅で過ごしたい」 という思いで退院され、自宅に戻られました。 2回目にお伺いした日、帰り際に私を追ってご主人が玄関先まで出てこられ、 「先生から、妻は余命あと1ヵ月と言われています。年越しはできないかもしれません。どうぞよろしくお願いします。」 そうおっしゃいました。 Kさんはお話を長くされると苦しくなるので、あまりお話はされませんでした。 それでも、 「○○がしたい。」「○○したくない。」 とはっきり意思

笑顔の贈り物

私が初めて担当したお子さん、Sちゃん。 生まれつきの心臓の病気で上手にミルクが飲めず、鼻から胃まで通した管でミルクを注入していました。 身体が小さく育ちもゆっくりですから、声をかけたりあやしたりしても、いつも知らんぷり。 ある日、Sちゃんは私に向かって、にっこりと笑ってくれるようになりました。 この仕事に携わっていると、 「人のために大変なお仕事ですね」 「こうやって看護師さんに来てもらって、本当に助かります」 などと、お言葉をいただくことがあります。 在宅療

答えの無い問い

Sさん。 武道を趣味とされ、戦後生まれの男性らしく無口で無骨な感じの方。週1回、状態チェックと、自宅での入浴の介助でお伺いしていました。 がんと診断され、余命3ヵ月と医師より宣告をうけてから、1年半が経ちました。 浴室でも自分からはほとんどお話しされないのですが、時々、自分からお話をされます。 「どうしてこんな病気になったのだろう?」 「余命3ヵ月と言われてから1年以上も生きているのはどうしてだろう?」 「もし、あなた(私に向かって)のご主人が同じ病気になったら、ど

一杯の紅茶

私が訪問看護に従事して、数ヶ月たった頃の、訪問看護師としては駆け出しの頃の話です。 Mさんは、自宅で在宅酸素をしながら過ごされていました。 徐々に食事が減り、うとうとされることが多くなり、いよいよ水分も取れなくなりました。 自宅にて点滴をすることになり、お伺いした時のことです。 ご高齢で、しかも数日食事をされていないので、脱水状態。点滴できそうな血管が見つかりません。 (この日、私は自宅での点滴の実施は初めてでした) 1回、2回と試みるも失敗。3回目も・・・すぐに漏れて