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大切にされていることを、大切にしたい。

Mさんは消化器系のご病気で、病気が分かってから1年以上、ずっと奥様と二人三脚で闘病をされてきました。口からの食事がとれない為、24時間の持続点滴は欠かせません。
先日、知的で穏やかなMさんにしては珍しく、スタッフとの電話の際Mさんが語気を強めたやり取りをされたと聴き、私は少し気になっていました。

抗生物質の点滴の追加指示が出たため、私は久しぶりにMさんのお宅へお伺いしました。
他愛のない話の後、私が抗生物質の点滴の準備をしていると、Mさんがぽつりぽつりとお話ししてくださいました。

「この前は、看護師さんに電話できつい事を言っちゃって、申し訳なかったよ。僕の細かな事情なんて話していないから知らないのに、僕が急に質問したから、彼女も困っただろうに・・・。悪いことしちゃったよ。」

そして、少し間があってから、

「でもね、(まか)さん。
病気で口から食事がとれなくなった今は、この毎日の栄養の点滴が僕の命をつないでいるんだ。
この点滴で、今も僕は生かしてもらっている。
こうして、看護師さんたちにも生かしてもらっている。
そして、栄養の点滴を入れることで、今の状況より少しでも良くなりたいと思っている。
だから、点滴交換の時間が過ぎても、残りの点滴を無駄にすることなく、全部入れきってしまいたかったから、そうしても良いか質問したんだよ。
そしたら、
『点滴の交換の時間が来たら、新しいものに交換して、残った古い点滴は捨ててください。』
ってサラッと言われてね・・・。

僕は「点滴を捨ててください」と言われた事が、「命を捨てろ」と言われたように思えて、悲しくなっちゃったんだよなぁ・・・。」

そう話されるMさんの瞳が、一瞬、潤んでいました。

***

もちろん、「点滴の交換の時間には新しいものに交換し、残りは破棄する」その回答は間違っていませんでした。
だけど、私たちは訪問看護師として日々の仕事が日常的になり、絶対忘れてはいけないけれど、忘れがちになる事があります。

自宅で療養される方のお宅に伺う事に、「慣れて」しまってはいないか。
病気を抱えながら生活されることを、「よくある事」として済ましてはいないか。
今日まで、どんな思いで病気と向き合い過ごしてこられたかを、「なおざり」にしてはいないか。
今まで何を大切にされ、今、何を大切にしたいと思われているかを、「おろそか」にしてはいないか。
私たちは「日常の仕事」として行なうけれど、その出来事はご本人やご家族にとって「非日常な出来事であること」を忘れてはいないか。
日々、自分自身に問う必要があります。

利用者さんが「大切にしたい」と思われている事柄に気付くことができ、「一緒にそれを大切に思える私」でありたいと思っています。

私がMさんの話を聞いて、どのような言葉をかけたかは、あえて記さないでおきます。

― Mさんの話を聴いた後、あなたなら、何と言葉をかけますか? ―

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