
形骸化する1on1の処方箋③ 部下側へのアプローチ、情報提供で1on1はグンと良くなる
こんにちは、bizlogueです。
今、読者の皆さんが所属している企業・組織で実施している1on1が雑談で終わってしまうなど、仕事や部下の成長につながっていないパターンに陥ってはいないでしょうか? そうした形骸化している1on1に対する処方箋としてお届けしてきたシリーズも今回が最終回となります。
今回、紹介する処方箋は「部下側へのアプローチ」。bizlogueメンバーで『ヤフーの1on1』、『1on1ミーティング』の著者である本間浩輔は、これが最も重要で一番ハードルが低い処方箋だと語ります。
では、「部下側へのアプローチ」とは具体的にどのような方法をとればいいのか。本間と、同じくbizlogueメンバーで『1on1ミーティング』の共著者である吉澤幸太が3つの方法を紹介します。
急に1on1を始めても部下側がビックリしてしまう
吉澤 『形骸化する1on1の処方箋』シリーズ、3回目の今回が最後となります。
本間 僕はこの3つ目が一番重要で、最も有効なのではないかなと思っているんです。処方箋の1つ目では「もう1on1をやめてしまえ」、2つ目では「1on1担当者が頑張れ」と言ってきたわけですが、今から紹介するものは一番ハードルが低い。
吉澤 一番重要で、ハードルも一番低い。
本間 ええ。それは、部下側へのアプローチ。
吉澤 1on1をする関係が上長と部下という立場なら、その部下側に何かポイントがあるのではないかと。
本間 そうなんですよね。これはほぼ100%の企業がそうだと思うのですが、1on1をやるとなった際に上司側にしか研修をしないんですよね。それだと、実際に1on1をやった時に部下側の人たちがビックリしちゃう。これまでは「なんで目標の数字に届いていないんだ?」とガン詰めしていた上司が急に「今日は何話す?」「そうか、君はどうしたらいいと思う?」とか言いながら1on1を始めるわけでしょ? 部下側の人たちからするとビックリしちゃいますよね。
吉澤 それはビックリしますね。
本間 それでビックリした部下がネットで検索して、1on1ってこういうものなんだと知る。これはアカンですよ。
吉澤 ちょっとね、居心地も悪いですよ。
本間 そう。だから今回は、上司と同じように部下側の人たちに対しても何らかの情報提供が必要だという話になります。今から3つ、説明しますね。
吉澤 部下側へのアプローチ、情報提供の方法が3つあるというわけですね。
部下側の人も研修を受ける、これが理想的
本間 1つ目は、部下側の人たちにも1on1の研修を受けてもらう。
吉澤 うん、やっぱりそれができれば一番理想的でしょうね。
本間 これは僕、今すごく試行錯誤しているんです。キャリア自律の研修とやや似ているかもしれない。
吉澤 そうなんですか?
本間 1on1の場を上手く使って部下も成長していこうよ、ということなので。
吉澤 ああ、そうか。目的はそっちの方向に向いているかもしれない。
本間 もしかするとオンラインか、あるいは半分オンラインで半分グループワークのような方法で行けるかもしれないと思っています。これが1つ目。
吉澤 なるほど。動画なり見ておいて、短い時間でもいいからワークするということですね。
1on1に関する会社の考えを見えるところに発信する
本間 2つ目は、十分な情報提供を社内のツールを用いて行う。例えば……今もイントラネットとか言いますかね?
吉澤 うん、まあ、イントラネットで通じやすいのではないでしょうか。
本間 そういった社内ツールで動画を見てもらうとか。ヤフーでは僕たちはどうしていましたっけ?
吉澤 動画は置いてなかったと思いますが、Why、What、Howみたいな感じで、なぜ1on1をやるのか、何をすればいいのか、どうすればいいのかみたいなことを結構細かく書いたものを載せていましたね。
本間 そうですね。インターネットで検索したとしても、必ずしも正しい情報とは限らないですし、その会社に合っている情報ではないから、やっぱり自分たちの会社ではどのように考えているのかというサイトをちゃんと作った方がいい。
吉澤 そう、そう。自分たちの会社では1on1についてどのように考えているのか。これは大事ですね。
本間 そこで人事責任者なり会社のトップがこういう思いでやっているんだということも書いてあげないと、ほら、1on1って色々な効果があるじゃないですか。コミュニケーションを作るとか経験学習サイクルを回すとかキャリア自律するとか、色々な効果があるから、そのあたりも含めて考え方をちゃんと見えるところに置いておくことが重要ですね。
吉澤 広く情報開示するという点に関してちょっと思い出したことを言いますと、当時、僕は1on1の推進担当をしていて「助かったな」と思ったことがあるんです。やっぱり、会社のトップが生声で発信してくれたことが結構大きかった。
本間 生声ね。
吉澤 そう。当時の社長もそうですし、本間さんも人事のトップでしたし、そうしたトップの人たちが社員に向けて話す機会がありますよね。その中での日常的な発言の中に1on1という言葉が入っていました。例えば、「次回の上長との1on1の時にこの話題をちょっとでもいいから話してみてよ」と発信されていたり、あるいはそんなに大規模でなくても集まったミーティングの中で「じゃあ、○○さんとの1on1の時に話してみるわ」と社長が言っている。それを聞くと、「あ、社長も1on1やっているんだ」と思いますし、「じゃあ、俺はちゃんとやっているんだっけ?」と振り返る。そういう意味でどんどん1on1が浸透していったというのがあったと思います。それが助けになりましたし、背中を押されたような感じがしましたね。
本間 1on1って、僕たちが当時メディア事業部にいた時に始めたことで、それをよく見てくれていたのが当時のメディア事業部長の宮坂学さんであり、一緒に仕事していた川邊健太郎さん。1on1に対する理解が紙ではなく、実際にこうなんだというイメージを持っていた人たちが後に社長になったから、ある意味、自分の腹落ちできるところに1on1がありましたよね。
吉澤 それはもう圧倒的に推進役の立場からすると極めて有利なので、今、奮闘されている会社にはなかなかない状況なのかもしれないですけどね。
本間 川邊さんなんて、スケジュールのほとんどが1on1という時期もありましたからね。
テクニックではなく、上長が腹を割って部下と話す
本間 最後の3つ目です。これまでに挙げた2つの方法が無理だというのであれば、上長側の人が「僕はこういう気持ちで1on1をやっている」ということを部下側の人たちに言うべきでしょうね。
吉澤 これに関しても僕は思い入れがあるんですよね。1on1チェックという「上司とやっているあなたの1on1はどうですか?」というアセスメントを定期的に実施していた時期がありました。マネジャーにとっては通信簿みたいなもので、イマイチだなという結果が返ってきた人に「じゃあ、研修どうですか?」という仕組みを回していたじゃないですか。
本間 うん、やっていましたね。
吉澤 研修に集まった人たちというのは、頭を抱えているわけですよね。そこで1on1の学び直しやロールプレイをやったりするのですが、一番効いたのは「自分はこの研修を受けてこんな状態なので、今練習している最中なんだ」ということを部下に対して開示することだったんです。開示するだけで、次から1on1の評価がバーンと上がるという、そんな現象が起きていました。
本間 え、どういうこと?
吉澤 つまり、逆から言うと、1on1の研修を受けて部下と向き合うじゃないですか。そうすると習ってきたテクニックとかをこっそりと上手く使ってやろうみたいな感じになっていきがちなんですよね。でもそうじゃなくて、「俺、1on1チェックのスコアがダメだった。恥ずかしいけど、ぶっちゃけて言うと今そのための研修を受けている。それで、この課題をやれって言われているんだよね。だから、これに付き合ってくれる?」ということを部下に言おうぜとなった。それを本当に馬鹿正直に部下に伝えたマネジャーたちの1on1チェックのスコアがガーンと上がるという現象が起きました。要するにテクニック云々ではなくて、これはもう腹を割って言っちゃった方がそれだけで部下との信頼関係が上がっちゃう。それでコミュニケーションも活性化するということの証明みたいなものだなと思っていまして、これは数字でも明らかでした。そんな経験を思い出しましたね。
上長を通したそういう情報の伝え方もバカにできないと言いますか、実は本質だったりする。要するに1on1をやっているということをきっかけに、そういう話を展開していくというのは実際に一番効いたんですよね。
本間 なるほど。良い話ですね。今の吉澤さんの話も含めて、今回紹介した3つの方法はぜひ試していただきたいですね。
吉澤 はい。この3つの中でならどれから行けるかなということを考えていただきたいですし、その会社に合ったやり方がさらにあると思いますから、ぜひぜひ今日の話をヒントにしていただきたいですね。
本間 はい、ぜひともお願いします。
吉澤 ということで、3回に渡ってお届けしました『形骸化する1on1の処方箋』シリーズ、いかがでしたでしょうか? あらためて1つ目の「もうやめてしまえ」、2つ目の「担当者の進化、変化」と合わせて見ていただければと思います。ありがとうございました。
bizlogueではYouTubeでも情報発信を行なっています。
■ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
(著・本間浩輔)
■1on1ミーティング―――「対話の質」が組織の強さを決める
(著・本間浩輔、吉澤幸太)