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映画「海の沈黙」
久々に人に語りたい映画を観た。
展覧会初日、展示された作品の中に、贋作があることを作家自身が気付く。終わるまで伏せて置いて欲しいとの周囲の懇願を振り切って、作家は記者会見を開いて公表してしまう。
所蔵していた小さな町の美術館館長は遺書を残して命を断つ : 私は心底あの絵に惚れ込んでおりました。それはあの絵が贋作であると判明した今も変わりません。
"美は利害関係があってはならない"
学生時代、倉本が久しぶりに覗いた教室で聞いた教授の言葉が心に刺さる。「東大に入ったのはこの言葉に出会う為だった」
1960年、鎌倉時代の古瀬戸の傑作とされた「永仁の壺」が現代の名工・加藤唐九郎の作であることが判明し、国の重要文化財指定を外された事件がずっと引っかかっていた。
画家の名前や、権威を持つ者の箔付けで価値が決められ、民衆が踊らされる。美とは何か。このテーマを倉本は長年温めてきたと言う。
画家(石坂浩二)の依頼で、贋作の謎を調べていた美術館長・清家(中村トオル)は画家の妻・安奈(小泉今日子)に、海外で発見された贋作との共通点から、かつて天才と呼ばれながら、ある事件で姿を消した男・津山竜次(本木雅弘)が描いた可能性を告げる。
ここからは劇場に是非足を運んで欲しい。
竜次がアトリエにしている廃校。常に寄り添う、番頭と自称する謎の男スイケン(中井貴一)。竜次が父から受け継いだ刺青を依頼しに来た若い女。全身に刺青を入れた女(清水美沙)の死。かつて恋仲だった竜次と安奈の再会…と、北海道を舞台に、「北の国から」を思わせる倉本聰の語り口が続く。
ゴッホが憑依したかのような本木雅弘の風貌とキャンバスに向かう所作、画家との関係が謎めいた男を演じた中井貴一の存在感がとりわけ印象に残る。
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それでもこの映画の主役は、あの絵だと、私には思われた。誰の手になるものだろう?と物語が終わるまで、考えていた。
パンフレットには、絵画協力 高田啓介、とさらりとある。いやいや協力どころではないでしょう。
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「迎え火」100号
漁師だった竜次の両親は 海難事故に遭っていた
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天井の高さに合わせて 監督が高田氏に再依頼した
「迎え火」 130号
問題の"贋作"「落日」は機会があったら、スクリーン上でどうぞ。
高田啓介氏は、岩手県二戸市で米農家を営む傍ら、絵筆をとって50年、2019年には日展特選を取っておられる。高校卒業後、長男として家業を継ぐことを期待され、ご苦労をされたようだ。
キャスティングも豪華だけれど、この画家に協力依頼したのは秀逸な判断だったと思う。
劇中と同様、氏の作品には厳しい北の風土に、赤が印象的に置かれている。
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何と映画を観た日の27日まで、銀座で個展を開いておられたことを後で知った。午前中は友人が出品している絵画展を訪れて日比谷に居たのに!
劇中の作品も見られたかも知れない。これだから情弱は😑
死期近い竜次の言葉 : 美しいものは、ただ記憶として心の底に刻まれていればいい。その価値を金で計ったり、力ある人間が保証したりするのは愚かなことだ。美は美であってそれ以上でも以下でも無い。
倉本聰脚本 若松節朗監督
本木雅弘 小泉今日子 中井貴一 石坂浩二 清水美沙 中村トオル 萩原聖人 堀井美香
イオンシネマ多摩センター 11. 27
🎬映画の為に描いた作品を見た奥様が「こんな素敵な絵が描けるのね」と仰ったとか。
1952年生まれの高田氏。高校卒業当時は葉タバコ農家だった家業に就き、盆・暮5万円のお小遣いだけの暮らしに「どうしてこんな田舎に生まれたのか」と悩んだ…
映画が終わっても高田氏の物語は続く。ますます実りある人生でありますよう🎨🎨🎨🌾🌾🌾