【読書感想文】『ロリータ』ウラジミール・ナボコフ
『ロリータ』(ナボコフ/新潮文庫刊)を読みました。
今やすっかりお馴染みの「ロリコン(ロリータ・コンプレックス)」なる単語を生み出した伝説の古典です。
なんかもう、とにかくすごかったです。
狂人の独白体を巧みに使い、見事に読者を煙に巻く手腕。
物語そのものが、ジャンルごと繋ぎ目もなく二転三転していくドラマチックさ。
間違ってもストレスなく読めるような小説ではありませんが、その「ストレス」こそがこの小説の何よりの魅力でもあると思いました。
例えば。
語り手(主人公のハンバート・ハンバート)の言い分は冒頭から終盤まで、延々と自己陶酔のみでできています。
冒頭の第一段落から(↓)こんなん。
めっちゃ気持ち悪い。
こんなに一行目から全力で読者をドン引きさせにかかる小説読んだのは、さすがのいすずさんも初めてですよ。ここまでキモイ(褒めてる)冒頭の小説にはそうそうお目にかかれないし、そうそう書けない!
自分もこういう一度読んだら忘れられないような、イカれた書き出しの物語書いてみたい!!と物書き魂が刺激されますよね(?)。
あと、ロリータが学校行事で演劇の練習をしている様子を語っていたかと思ったら、いつの間にか彼女のテニスウェア姿がいかに素晴らしいか延々と熱烈に語るモードに移行していたあたりも意味がわからなすぎて震えました。
その語りが文庫本換算で6ページくらい続くんですよ。
こいつマジでいかれてるぜ。と思いました。
もー、ほんっと終始そんな調子なんですが……終盤の終盤にきて、唐突に、重々しく積み重ねられてきた、腐臭漂う石垣が、ガラガラガラと音を立てて崩れ落ちるカタルシスが訪れます。
崩れた石垣から射し込む光は、胸をえぐるような美しさ。
主人公の狂った愛は、けして、けして報われない。
死んでも叶わない。
終盤、一連のくだりは、ずっとずっと忘れられそうにありません。
この小説は、どこから光を当てるかで、さまざまにその色を変えます。
どぎつくいやらしい幼女性愛物語でもあり、中年男性とローティーンギャルによる退廃的なロード・ノヴェルの一面もあります(読んでいるとアメリカ観光したくなります)。
一方、全編通してみれば綿密に伏線が張られたフェアな「被害者当てミステリ小説」としても読めますし(読み返すと本当に堂々と序盤から被害者の名前が出ているのでびっくりします)、そしてなにより、「道を踏み外した性的マイノリティによる、死んでも叶わない愛の話」でもあるのでした。
面白かったです。
古典の名に恥じない傑作でした。
2017.02.06
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