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【宿題帳(自習用)】「道徳」をやり直してみる

大人のおさらい9科目目は道徳。

政府による市場の規制を撤廃し、競争を促進することによって経済成長率を高め、豊かで強い国を作るべきだ。

「経済学の祖」アダム・スミスの「国富論」は、このようなメッセージをもつと理解されてきました。

「国富論(上中下合本版) 国の豊かさの本質と原因についての研究」(日経ビジネス人文庫)アダム・スミス(著)山岡洋一(訳)

しかし、スミスは無条件にそう考えたのだろうか。

経済学の古典をいくつか挙げよ、と問われたら、たいていの人が真っ先に指を屈するのがアダム・スミスの「国富論」ではないでしょうか。

そこには誰もが知っている有名なフレーズがあります。

「見えざる手」です。

個々人が自分の利益を追求する利己的な行動を取ることは何ら非難に値しない。

むしろ、そうした行動が、市場の価格調整メカニズムを経て、公共の利益を促進するのだ、という文脈で使われる言葉です。

意外なことに、見えざる手が出てくる箇所は、同書中、一箇所だけです。

語られている内容と言葉によほどインパクトがあったのだろうと推測されます。

その言葉のインパクトさ故に、いつの間にか、スミスは、政府による市場の規制を取り払い、競争を促進することで豊かな強い国を作るべきだと唱えた、究極の市場原理者というイメージが流布しているのではないでしょうか。

スミスが生涯で著したもうひとつの著作である「道徳感情論」と、当の「国富論」を丁寧に読み解くことで、そうしたスミス像を修正し、社会秩序の維持と繁栄の実現を追求する骨太な思想家として捉え直すことができます。

「道徳感情論」(講談社学術文庫)アダム・スミス(著)高哲男(訳)

まず「道徳感情論」ですが、同書は、人間は、自分の利害に関係しなくても、他人の感情や行為に関心を持ち、それが適切かどうかを判断する、というごく当たり前の指摘から始まります。

そのための能力をスミスは、同感と呼んでいます。

人間は、いろいろな感情や行為のうち、あるものは他人によって是認され、あるものは否認されることを、経験によって知ります。

そこでどうするかというと、自らの胸中に公平な観察者を置き、それによって、自己および他者の感情や行為を評価しているそうです。

ここで、スミス曰く、人間は二種類に分かれる。

世間の評判のみで評価を下す人と、公平な観察者の評価を頼りにする人である。

ある芸術家が、自分では失敗作だと思う作品を発表したにも関わらず、世間からは高い評価を得たとします。

スミスは、この評価を素直に喜び受け入れる人間を弱い人、世間の絶賛を軽蔑し、作品を作らなければよかったとさえ思ってしまう人間を賢人と名づけました。

しかも、ひとりの人間のなかに、弱い人と賢人が同居している。

つまり、弱さと賢明さ、どちらの性質も備えているのが通常の人間なのだと。

スミスの慧眼は、この弱い人、もしくは個々の人間の弱さが経済発展の原動力であることを見抜いた点でした。

文明が進歩し、物資的な豊かさが実現するのは、こうした人間の弱さに端を発する、富に対する人間の野心=虚栄心があるからだ、とスミスは指摘します。

弱い人は、最低限の富を持っていても、世間からもっと評価されたいと思い、より多くの富を欲する。

財産や地位に与えられる世間の賞賛と尊敬が魅力的だからです。

無人島で、ひとりで暮らしていれば持たないような野心を抱くのは、他人の目があるからなのだとも指摘しています。

もちろん、万人の心にいる公平な観察者がないがしろにされ、賢明さが発揮されない社会は滅びる運命にある。

賢明さとは、社会秩序の基礎となる倫理や正義感といってもいいかもしれません。

人間の弱さが社会の繁栄を導く原動力なのですが、私たちは、そのためには賢明さによる制御が不可欠なのだという視点を持ち、不完全な箇所を、適時、修正していく行為が必要です。

ここまでが、道徳感情論が描き出した同感→弱さ→経済的な繁栄という図式です。

実は、この同感が、次の「国富論」でも重要なキーワードになっていると推測されます。

国が豊かになるためには、分業と資本蓄積が不可欠だという主張が「国富論」の骨格をなしています。

そこで分業の意義を見てみます。

スミスは、ピン生産を例に出し、ひとりの労働者がすべての工程を担当するより、工程ごとに分け、それぞれを専門的な作業員に任せたほうが生産性の向上に資すると書きます。

社会全体における分業の意義も同様です。

すべての職業をひとりの人間が担うより(もちろん、無理に決まっているが)、職業ごとに、おのおのが専門的な職務を果す方がより高い生産性が得られるのだと。

こうした社会的分業はなぜ起こるのか。

それは、人間のなかに、生来、他人と物を交換しようという性質があり、それに基づいて実際の交換の場が生まれるため、単一物の生産に特化することを決心できるからだといいます。

その方が効率的でより多くの富を生むことを人間が理解しているからではないと指摘しています。

しかも、その背景に、説得性向、つまり、相手に自分の感情や意志、意見を伝え、相手の同感を得ようとする性質があるというのがスミスの考えです。

言葉の交換は、いつしか物の交換に発展していきます。

そして市場が成立する。

以上、道徳の一面を、「道徳感情論」と「国富論」をつなぐキーワードである同感や公平な観察者に焦点を絞って記述してみましたが、堂目卓生氏の著書「アダム・スミス 『道徳感情論』と『国富論』の世界」のあとがきで書かれていることが非常に興味深かったので紹介しておきます。

「市場における交換は、相互の同感に基づいて成立する。

取引を行なう人は、取引相手の物を強奪したり相手をだましたりしたときに取引相手が引き起こす憤慨を想像する。

(中略)

すべての取引主体が、このように考えることによって不正のない交換が成立する。

同感という能力を用いて、見知らぬ者どうしが富(=世話)を交換する社会、これが市場社会なのである。」

どういうことかというと、同感は、他人の行動を自分の行動のように感じ取らせる神経細胞であるミラーニューロン、公平な観察者は、他人の行動からその人の心を推測する能力(セオリー・オブ・マインド(※)という概念)を思い起こさせ、スミスの思想は、最先端の脳科学や、それを取り入れた行動経済学に通じるものがあるという指摘です。

※印:
心の理論(Theory of Mind)とは、他人の考えを推測したり、意図や感情を理解する能力のこと。
自閉症など発達障害の子どもは、心の理論の獲得の遅れが原因で、他人との関わりが苦手になってしまうといわれています。

【参考記事①】

【参考文献】
他者理解の発達における「theory of mind」形成の意味―社会環境学的検討―

このことを理解する上で、スミスが生きた当時のイギリス社会が、政治の民主化、経済の発展といった文明の光を浴びる一方で、格差と貧困、戦争と財政難といった闇にも包まれていたことを念頭に置いて理解することがポイントです。

闇の最たるものがアメリカの対英独立戦争でした。

スミスは、アメリカ植民地の自発的分離を「国富論」の最後で主張しましたが、当初、それは少数意見でしかありませんでした。

だが、数年後、イギリスは、スミスの提案通りの政策を余儀なくされました。

スミスは、今なお、学ぶべきものが多い滋味溢れる思想家といえます。

見えざる手というアイデアは、スミスの思想の氷山の一角です。

その下には、「道徳感情論」で説かれたような、社会秩序を形成する人間の本性に対する深い洞察が存在しています。

では一体、思想家スミスは、人間にとって何が最も重要だと考えていたのでしょうか。

従来のスミス観では、それに対する答えは「富」と言えるでしょう。

しかし、スミスが究極的に辿り着いた境地では、心の平静を保つことに他ならなかったのではないでしょうか。

そう考える根拠は、スミスが死の前年に書いたとされる、「道徳感情論」第六版に付け加えた文章にこうあります。

「空想の中の最も高貴な境遇において、われわれが真の幸福を引き出しうると期待する快楽は、現実のつつましい境遇において、われわれがいつも手近にもっていて自由になる快楽と、ほとんどの場合、同じなのである。

虚栄と優越感というつまらぬ快楽を除けば、最も高い地位が提供するあらゆる快楽は、最もつつましい地位においてさえ、人身の自由さえあれば、見つけることができるものである。」

これを読んで、論語(述而)にみる孔子のことばを思い出します。

「『疏食を飯いて水を飲み、肱を曲げて之これを枕とす(粗末な食事をし、飲み物といえば水だけ、腕を曲げて枕の代わりとして寝る)』ような貧しい暮らしであっても、人生の真の楽しみを見つけることはできる」と述べたあと、「不義にして富み且つ貴きは、我に於いて浮雲の如し(不正な手段で手に入れた財産や地位は、私にとっては空に浮かんでどこかへ流れていく雲のように、はかなくて関係のないものだ)」と述べています。

古今東西、人間が目指すべき真理は同一ということなのかもしれませんね(^^)

人間は、言葉を持つかぎり独りでいても、独りじゃないから、社会の中で生きざるをえない。

私たちが道徳を守るのは、守りたいと思うからです。

つまり、自由意志で義務を負うとき、人間は自由になり、そこから倫理が生まれます。

そして、よく生きるとは、在るものを愛することであり、自然の必然性を受け入れることだと、そう思います。

そう思いながら歩く上で、「もし道徳論を書くようなことがあったら、私は「上機嫌」を義務の第一位におくだろう。 」と言っていたアランの言葉を参考にしてみる。

ただ、いつも上機嫌でいる事、これは意外と難しいものですよね^^;

むしろ、人は不機嫌である事で自己武装しようと試みたりします。

でも、不機嫌でいる事で、何かいい事が起きるかというと、何も起きません。

喜怒哀楽は、あるのが当然としても、時には、何があっても「上機嫌」を貫き通してみると・・・

この歌の様に、風の向きが変わってくるかもしれません♪

是非お試しアレ!

歌いまぁ~す!(*´○`)♀~♪MONO NO AWARE「風の向きが変わって」♪

踊ってみまぁ~す!🎵✨୧(୧◕᎑◕๑)✨♪MONO NO AWARE「風の向きが変わって」♪

最高の「道徳」は、もしかしたら上機嫌なのかもしれませんね(^^)

【参考記事②】

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