【どうする家康】神回も…大河ドラマ中級者ほど泣けない?敵を主役にし、主演サイドをあえてイライラの溜まる展開で魅せる妙。第12回「氏真」雑感
NHK大河ドラマ『どうする家康』(以下、『どう康』)第12回の雑感です。
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前回の感想はこちら↓
(※以下、ネタバレ注意)
(※本記事のセリフの引用箇所は一部ノベライズに準拠しており、ドラマのセリフとは異なる場合がございます)
納得の「神回」だが……イマイチ泣けないのは、大河ドラマ初心者よりも中級者に多い?
1クール目、堂々の完結編でした。思えば第1回から、すべてこの氏真との決闘につながっていたんだと思うと、とんでもない物語を描いてくれたのは間違いない。SNS等で「神回!」と叫ばれるのも納得の展開ではありました。
……が!
正直なところ……泣けた?いや、「泣けた!」とおっしゃる方は結構なんですが。いろんな思いがない混ぜになって、例えば第9回の一向一揆の決着回ほど泣ける展開だったかと言えば、個人的にはそこまででした。
でもそれは、僕が大河のマニア層ではあるけど、1周目を見たときは若干、中級者寄りの見方をしてしまったからだと思うんですね。
前々からツイートしたりしていたことですが、『どう康』って不思議な作品で、カジュアル層かマニア層向けの作品だと思うんですよ。中間にいらっしゃる方ほど「ん??」という違和感が残る。むしろ、あえてそうしているとすら思えるほどなんですけど。
つまり物語の構成的に、一見すごくわかりやすく見えて、実はおそろしく複雑な作りになっている。2周目を見て、深く読み解こうとすればするほど、逆に「ん?これって安易に、『ああ泣けた』で終わりでいいの?」という思いが湧いてきちゃうのヨ。
で、それ自体はすごく良いことだと思うんです。一見、単純明快に描かれる古沢ドラマ。でも、その皮を1枚1枚はがしていくと、そこに隠されたとんでもない物語がいくつもあふれ出てくるぞと。
だからこそ、これはディスるわけではなく、すごく考察しがいのある回だったと思うんです。「ただ泣ける物語」こそが至高の作品ではない。それを改めて気づかされました。
……と、こんな奥歯にものが挟まったような言い方すると、またアンチの方々から「ヨイショしようと必死だなw」とか言われそうなのですごく歯がゆいんですけれど。
でも実際、僕も最近はアンチさんの意見も大変参考にさせていただいてますよ。アンチさんが「〇〇だから面白くない」と否定的におっしゃっている箇所を改めて深掘りすることで、「この方々は何の見落としがあるのか」とか、「そうおっしゃる理由は何か」とか、また新しい視点で考察も深められますので。
そう考えればアンチさんというのも、案外「ドラマの見方がわからない初心者さん」なのではなく、「ある程度は大河の見方もわかっている中級者さん」なのかな?なんて思ったりする部分もあります。
「え、今までアンチに向かって『ボケェ』だの『バカ』だの言ってきたヤツが何言ってるんだ?」と言われるかもしれませんけど、そもそも僕は「誰か特定の相手に抗議したり、人格を否定するような意図」では記事を書いていませんからね。
マウンティング合戦なんてしても不毛だということも散々思い知ってきていますから。僕は単に、読んでくださるすべての人をリスペクトしつつ、ドラマを見る楽しみや喜びをできるだけ共有していきたいと思っているだけです。
ただ、どうやら世間では「リスペクト」なんて持たず、ひたすら他人に対して暴言を吐き散らかすばかりの方もいらっしゃるようなので「世界平和は遠いなぁ」なんて常々思っているわけですが……。
ともあれ、今回はあえて「イマイチ泣けなかったのは何故か?」というポイントにフォーカスして考察を深めたいと思います。
中には「そんなイチイチ揚げ足を取るような考察は好きじゃないなぁ。面白かったら単純に『面白かった』でいいじゃん!」と思う方もいらっしゃるかもしれませんけど。むしろ、逆ですね。これを読んでいただくことによって、カジュアル層の方でもさらに物語を1皮2皮剥けるようになり、マニアに近い見方を楽しんでいただけるようになるのではと思います。ぜひ2周目、3周目の鑑賞の手引きとしてご利用ください。
泣けないポイントその1:今回の主人公は氏真?敵側に感情移入できなければなかなか楽しめない回だった
まず今回のタイトルが「氏真」だったので、スルッと「あ、今回の物語は氏真が主役なんだな!」と気づき、氏真目線でドラマを見られた方は、すんなり泣けたと思うんですよ。
桶狭間以降、散々だった氏真くん。どんどん闇落ちしてやつれていく姿を見て、「氏真……もう何徹してるんだよ!早く寝て!いますぐ寝て!」みたいなツイートもSNSには流れていましたね。
僕のnoteでも、「氏真は主人公のライバルキャラとして、やがては決着をつけるべき相手になっていくのでは?」と思いつつ、わりと早い段階で深掘り記事を上げていたんですけど。
今回、これの答え合わせとでもいうべき展開でしたよね。第4回では僕も、桶狭間の時点で「『父上は駿府に留まって、私を織田と戦わせてください!』『いや、ならぬ』みたいなやりとりがあったかもしれないです」という予想を立てていたんですけど、これがズバリ的中しました。
「氏真。そなたに将としての才はない」
まさか父・義元の最期の言葉として、そんなことを聞かされていたとは。氏真からしてみればショックでなりませんよね……。
まぁ、ドラマを見た方はすでにご存じの通り、その先には続きがあったということですが。僕の予想のさらに一歩先をいった素晴らしい展開でしたし、ストレートに氏真目線で今回の話を見ると、やっぱり素直に泣けると思うんです。
ただ、氏真に感情移入できなかった方は、あまりそこまで心揺さぶられなかったのではと。ここは第11回で「田鶴に感情移入できなかった方は、泣けなかったのでは」というのに近いですね。
むしろ「敵なんだから早く殺せ!」なんて、いわゆる王道バトルものの展開を期待していた方には、なかなか決着つかないし、ついたと思ったら生きたまま逃がしてしまうしで、「え、何それ?」と肩透かしを食らう回だったのかもしれません。
氏真がここで死なないのは史実の通りでもあるのですが、ただ関口家もいなくなって、飯尾連龍も殺されて、田鶴も死んで。散々殺しまくってきた氏真がひとりだけ助かるのに納得できない方もいらっしゃるのかもしれない。
ただそれも「戦国の世の常」という安易な言葉で片付かないよう、掛川城での地獄の4か月の攻防も描かれましたよね……あの地獄で、氏真は氏真なりの地獄を味わったのでしょう。
ラスト、家康との一騎打ちに負け、その瞬間に「一度、氏真は死んだ」と捉えるのもよい気がします。闇の氏真は立ち消え、そこに立っていたのは、子供のころのように優しい、次郎三郎(当時の家康)の記憶の中にあった優しい兄としての氏真だったわけですから。
泣けないポイントその2:家康サイドから物語を見ると、フラストレーションのたまる回だった
ただ、あの掛川城での地獄の4か月を、家康目線で見てしまうとどうなるか。最初は「十日で落とす!」なんて言ってたのに、ずいぶん時間かかっちゃいましたね。
それだけ氏真が土壇場で強かったのもわかるんですけど、家康もそこに至るまで、だいぶ迷ってるんですよ。
最初は行方が分からず、「北条の領地に逃げ込んでいたら、手出しできませんな」「惜しいことじゃ、この手で氏真を打ち取ってやろうと思うたのに!」……なんて彦右衛門と語らいつつ、どこか「そうあっていてくれ」と願ってすらいそうでした。
ただ、これは家康というキャラがずっとそう描かれてきたから。本来この氏真との戦いも彼の本意ではなく、信玄の駿府侵攻によって、ある意味では仕方なく行っている侵攻だということも、前回、前々回の物語で描かれていました。
そして、氏真の所在を探る服部半蔵の行動が遅い……いや、これはもう今回こういうキャラだから仕方ないんですけど。逆に半蔵がデキるやつだったら、掛川攻略で半蔵党を使って、4か月もかからずすんなり陥落させられちゃうことになります。今回そういうチートは使えないよ、という暗示だったのかもしれません。
そんなのらりくらりの状況を打破したのが、本田平八郎忠勝ですよ。彼がうまいことスキをついて氏真の肩に槍を命中させたことで、4か月間の攻防にようやく進展が見られた。ちなみにここ、またもやSNSでは「わざと急所を狙わなかったのでは」なんて意見も上がってましたけど……またかw
もちろん、どう捉えるのも個人の自由で結構だと思いますが。僕的には、あれをわざと外すって、そっちの方が難しい気がします。そもそも周りで仲間たちもどんどん死んでる中、徳川勢として「敵の大将を殺さない」なんて選択肢はないでしょう。あれはむしろ氏真には何の情も持っていない平八郎だからこそ取れた大胆な戦法で、ガチで命狙ってブン投げてた気がします。
そして、氏真に情を持たない家臣と言えば、榊原小平太も。第5回で初めて「千切れ具足」なるものを着て戦に参加するようになってから、徐々に鎧もステップアップしている彼。今回は手下に、氏真の妻である糸を捕えさせていましたね。これも駿府で育った七之助や彦右衛門だったら、情が湧いてそのまま逃がしていた可能性があります。
やはり徳川家臣団、それぞれがそれぞれの背景や思いを抱えている。しかしチームとなれば、互いが互いの考えや弱点を補い合いながら、少しずつ前へ前へと進んでいっているような演出とも取れます。
泣けないポイントその3:回想シーンが多く、氏真の妻・糸の登場が唐突だった
今回アンチさんたちの意見を見ていて多かったのが、回想シーンが多かったといった意見や、氏真の妻である糸の登場が唐突だったなどの感想でした。
まず回想シーンが多いのは、このドラマ、第1回からずっとそうなので……むしろ「今さら?」なんて思ってしまったりするのですが。確かに昔の大河ドラマだったら、子供時代から順当に進んでいく物語が多かったです。『どうする家康』は第1回でいきなり桶狭間で、今川義元が死にますからね。
例えば比較的最近の大河であれば、『晴天を衝け』なんか、主人公の幼少期からしっかり順当に描いていく作品ではありました。ただ「すごく見やすかった」と大河ファンからの高評価もある一方で、「前半でひたすら伏線を作りまくって、後半で一気に回収していくような話だった」「前半がつまらなくて見るの辞めた」なんて意見もあったりします。
『どうする家康』はその真逆を取ることで、往年の大河ファンにはむしろ見づらい構成になってしまっているのかもしれませんけど、「毎話、ちゃんと山場がある」「前の週の話を見逃していても追いつきやすい」など、好意的に受け入れられているところもあります。
時代は前へ前へと進みながらも、いろんなタイミングで義元公が健在だった時代を振り返るような構成。「義元公、むしろ死んでからの方が出番多いじゃねぇか」みたいなツッコミもよく見ますけど、それだって今さらなのよ。どちらの構成が劣っているということはないので、そこでいろいろ批判じみたことを述べられても「好みの問題」として片付けられそうな気がします。
糸の登場に関しては「ようやく出てきた!」という感じでしたし、出てきたところでちゃんと注目を集めてくれたので、個人的にはうまい出し方に思えたのですけれど。それは僕が『NHK大河ドラマ・ガイド どうする家康 全編』を買っていて、前もって志田未来さん演じる糸の出演を知っていたからかもしれません。
「そんなの買わないといけないのかよ!」と、また批判のポイントになったりするのかもしれないですけど……ただ、氏真に正室がいることは前々から示唆されていたと思います。本当は瀬名のことが好きだった氏真くん。第1回から瀬名を「側室に迎えたい」なんて言っていたのは、正室がすでにいたから、せめて側室ということなんですよね。
あとは単純に、この時代の今川領主の嫡男なんですから、そりゃ普通に正室はおるわ。「唐突だった」「正室がいるなんて思わなかった」と不満が出てくるのは、歴史認識的な問題もある気がします。
あとは、ただでさえ登場人物が多い大河ドラマなんですから。仮に第1回から糸がさりげなく出てきていても、かえって感情移入しにくかったかもしれません。感情移入させるべきキャラが増えれば増えるほど、受け取る側は物語をどう感じ取っていけばいいか、気持ちが取っ散らかってしまいがちです。今回だけの出演にとどめてくれたおかげで、「今回は氏真と糸の物語だ」と、入りの部分からわかりやすくしてくれているような工夫にも感じました。
まとめ:「1回で泣けないから駄作」ではない。感情移入のポイントをつかんで、2倍も3倍も楽しもう
と、いろいろ批判へのツッコミの形でレビューしていきましたけど……個人的には、「突っ込むポイント」もわかるし、「感動できるポイント」も両方わかるんですよ。
物語として何が優れているかということはわかりません。むしろ、自分が「最高」と思うものをひとつに定めてしまうと、あらゆる作品を楽しむ幅を狭めてしまうのではという気もしています。「最高はひとつじゃない」という言葉が、僕が好きなアーティストの楽曲の歌詞にもありますけど……本筋じゃないので、まぁ言葉として紹介しておくにとどめます。(よかったらググってみてくださいw)
もちろん、「楽しいものは楽しい、つまんないものはつまんないでいいじゃん。なんでそんな小難しいこと考えながら見なきゃいけないの」という意見も、否定する気持ちはないですよ。ただ、それだったらそもそも僕の記事なんか開いていないはず。あなたがいまこうして読んでいただけているというところに、「知りたい」という欲求があるのではと思ったりもします。
とりあえず今週、また「深掘り」「もっと深掘り」と、今回割愛した点についても深く触れていきたいと思いますので、ぜひまたドラマを2周、3周しつつ、楽しんでいただければ幸いです。
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