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『六人の嘘つきな大学生』についてもっと語りたい

この作品は本当に素晴らしい作品です。
展開がうつくしい作品に出会えた喜びを感じています。

前回の投稿では、ネタバレを含む感想を書き入れておりませんでした。 

消化不良のままの気持ちをどこかで書き出してしまいたく、改めてnoteを書くことにしました。

今日は改めて、深く深く、感想を書いていきたいと思います。

『六人の嘘つきな大学生』の概要が気になる方がいらっしゃいましたら、こちらをご覧ください。



構成

事前準備から集団討論まで

前半は、あらすじにも書いたように、「スピラリンクス」という会社の最終選考に残った6人の大学生が、最終選考を突破するために、協力して準備をすることから話がスタートします。

6人がいいチームワークを発揮し、お互い打ち解けてきたところで、状況は一転します。

最終選考は、6人の中からたった一人の内定者を決定するという熾烈な競争へと突如変更されたのです。

集団討論中の出来事

彼らは、それぞれの思いを胸に最終選考会場へと向かいますが、1人の内定者を選ぶ過程で、会場内にある封筒を見つけるのです。

そこには、候補者たちの過去の『』が書かれていたのです。

果たして封筒を用意したのは誰なのか…
犯人探しを進めていく上で、一つ明らかになったことがあったのです。

それは、候補者6人の中に犯人がいるということです。

ビデオ映像や封筒に書かれた様々な証拠を頼りに、次々と犯人候補者が現れる中、最終的に一人の候補者が自首をし、唯一罪を暴かれなかった一人が内定を勝ち得る結果となりました。

が、自首した犯人自身、つまりこの物語の主人公である彼自身が、
自分が犯人でないことを一番よく知っています。

そして、その場で真犯人を見つけたものの、
その事実を明らかにしないまま、最終選考会場をあとにするのです。

集団討論その後

ここからは、唯一内定を勝ち得た女性の視点で描かれています。

彼女は集団討論で犯人を名乗った男が病気で亡くなったことを彼の妹から聞き、親族からは、実は彼女自身が事件の真あったと疑われてしまいます。

しかし、彼女もまた、真犯人ではありませんでした。

彼女は真犯人を探すべく、かつての仲間たちに聞き取り調査を行った結果、最終選考のときには気づかなかった新たな事実を発見することになるのです。

そして、真犯人を見つけましたが、それは、意外な理由であったことが明らかとなりました。

感想

視点の変化による物語の重厚感

前半は、候補者の一人である男子大学生の視点から物語が描かれていました。しかし、後半はその男性が亡くなり、内定を勝ち得た女性の視点から描かれる展開へと変化しました。

彼が亡くなる前に残した証拠を彼女が紐解いていき、最終選考の真犯人を明らかにしていく過程がとても魅力的でした。

このミステリーはストーリーを何段階にも楽しめるため、決して読者を飽きさせません。

読了後の満足感が十分に味わえる、素晴らしい作品だと感じました。

闇が光と変わる展開が面白い

前半は、封筒によって闇が暴かれる展開が非常にスリリングで、目が離せないものとなっていました。

しかし、小説の後半を読むにつれて、その闇は完全な闇とは言い切れず、
一人一人事情を抱えたうえで仕方なく起こしてしまった結果となったことがわかりました。

そしてそれが明らかとなった時、今まで一人一人の醜いと思っていた行動が、実は優しさからくるものであるということが理解できるのです。

若干無理あるよな…と思ってしまうことも、納得してしまえばすべてきれいな展開へ変化し、完全に闇が光へと変化する瞬間が味わえるのです。

こんなに美しい作品に出会えたことに、本当に感動しました。

就職活動のプレッシャー

この物語は前半を読む限りだと、切羽詰まった就活生が起こした、極端で非情な事件ととらえられがちですが、実は、誰もが抱える身近な問題なのかもしれないと感じました。

読者の誰しもが、完全ではないけれども、どことなく共感できる場面や心情がたくさんあったように感じました。

私自身、本格的な就職活動を経験したことがなく、正しい情報かどうかはわかりませんが、就活生はいわば、今後の人生を左右する選択を常にしなければならず、かなりのストレス状態を抱えて生きなければならない状況にあります。

そのうえ、就活は答えがありません。答えがないからこそ、どうもがいて何をすればいいのかわからず、常にプレッシャーを感じながら生活していることが想像できます。

そういった精神状態の中、誰かよりも優位に立ちたいと、他の人を蹴落としてでも受かりたいと、そう願う気持ちに共感できなくもないかもしれません。

そしてそれは、就活生に限ったことではないかもしれません。
答えがない課題と向き合うことは、社会人になってからのほうが多く経験することです。

そんなストレス状態の中でも、
自分は、なるべく他人を蹴落とすことではなく、
自己を高める選択をしていきたいと、

思わされるきっかけとなりました。

嘘つきな大学生


「嘘つきな大学生」というタイトルにおいては、あながち間違った情報ではないかと思います。

大学生の頃、私の周りで就活をしていた友人たちも、嘘ばかりついていたと思います(笑)

それだけ必死になって就職した会社を、数年でやめてしまう人たちも多く、就活って本当に不思議なイベントだよな、と、今でも思っています。

ただ、就職活動をどれだけ必死にやったところで、どれだけ取り繕っていい会社に入ったところで、
人間性というものは過去の自分からしか形成されないもので、

ふとした瞬間に悪い部分が垣間見えてしまうこともあるだろうし、
運よく希望した会社に入れたとしても、入った後で苦労するなど、

結局自分で自分の首を絞める結果になる人もいるのだろうなと思っています。


そして、嘘をついているのは大学生だけではなく、
企業のほうもそうであることを学びました。

本文でも、このように描写されていました。

嘘つき学生と、噓つき企業の、意味のない情報交換ーそれが就活

冷静になってよくよく考えてみれば、その通りだと思います。

その奇妙な実態を帯びた就活というものに、どう向き合って、どう立ち向かっていけばいいのか…

はたまた逃げてしまうべきなのか…

この小説を読んでも未だ答えが出なかったので、これは今後の自分自身の中で探していこうと思います。

印象に残った言葉

何となくいい人っぽい人を選ぶ

「スピラリンクス」の人事の鴻上さんが言っていた言葉が全部、私の心に突き刺さりました。

鴻上さんは人事が選考をするうえで大切にしていることは、
「何となくいい人っぽい人を選ぶ」ということを言っていました。

人事はいわば、大学生にとっては企業の顔です。
でも、ある大学生にとっては、人事はこう見えていると書かれていました。

人を見極められるわけないのに、しっかりと人を見極められますみたいな傲慢な態度をとり続けてさ

これにはハッとしました。

当たり前ですが、人事の人も人間です。AIではありません。

「何となくいい人っぽい人」を選んだつもりでも、それは完璧ではないのです。

実は、今回の事件のように、闇を抱えた学生ばかりを最終選考まで残してしまうことだってあるのです。

ただ、日本は何十年も変わらないこのシステムを採用しており、今後も大きく変わることはないでしょう。

そう考えてみると、面接の際には、
「何となくいい人っぽい人」に見られる努力をするのが一つの正解なのかもしれないと感じました。

とてもいい勉強になりました。

完全にいい人も、完全に悪い人もこの世にはいない

今回の封筒事件で人々の闇が暴かれましたが、
それを「闇」ととらえるかどうかは人次第であるということを感じました。

しかしそれ以前に、闇を抱えていない人間なんているのか、という考えが頭をめぐりました。

応えは否です。少なからず、人には言いたくない汚点を抱えながら生きているのが人間なんだと思います。

私もその一人です。

過去の過ちは誰にでもありますが、人々はそれらとともに、共存して生きていくしかないのだと思います。

しかし、その闇がもし暴かれてしまったとしても、日ごろから善い行いを心がけていれば、自分を信じ続けてくれる人がいる、ということもわかったのです。

私は今からでも、清く正しく生きていこうと心に決めました。

終わりに

今回は新卒採用が舞台とされていましたが、
いつか来るかもしれない自分自身の転職活動を準備するうえで、
大変勉強になりました。

興味のある方はぜひ、読んでみてください!


読んでくださりありがとうございました𓅓

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