9冊目『人騒がせな絵画たち』/木村泰司
学生時代、美術館や展覧会によく足を運んだ。“よく”と言っても、毎日とか毎週末ってわけじゃない。精々、月一回。多くても月二回の頻度である(我が家が金持ちだったら毎週末行ったかもなあ)。
展覧会に行くと必ず『音声ガイド』を借りた。作品や画家についての解説を聴きながら観て回ると、ただ絵画を眺めるよりずっと勉強になって愉しかった。
が、解説を『聴く』ことはあっても、絵画自体を『読む』ことはなかった。そもそも歴史もざっくりとしか知らず、絵画にメッセージが秘められているなんて思ってもいなかった。
『人騒がせな名画たち』は、そんな初心者及びボーッと絵画を観ている人向けに書かれたと言っても過言では無い。
超有名作品が描かれた時代や、美術界のヒエラルキー。教義、倫理観、思想など、絵画に込められたメッセージを読み解いて西洋絵画の『裏』を知り、展覧会を何倍も愉しむ為の本である。
本当は、隣に並んでいた『#名画で学ぶ主婦業』を買おうとしたんだけど、真面目そうな方にしとこっかなと思い直してこちらに。いや、『#名画で〜』も十分真面目だが、面白おかしく読んで終わりそうな予感がしたのです。
……でも、あっちも読みたかったな。やっぱり。立ち読みのパラパラ読みだけで笑えたし、ツイッターで話題だったし、テレビでも紹介されてたもんな……。
閑話休題。
前述した通り、本書で紹介されている絵画や画家達は、きっと誰もが知っているだろう超有名どころばかりである。なので、非常に取っ付き易い。美術に明るく無い人でも集中出来そう。
そして、
「脱がれている靴=性的に奔放」
「吊り下げられた鶏はオランダ語で『Vogelen』(鳥を捕る)=交接(交際・性行・交尾)する」
「瓶・水差し=純潔の象徴」
等のシンボリズムは、読めば読むほど「そういう意味なの!?」と驚かされる。
生殖器を表すだの処女喪失だの、エロい象徴の多さよ! 嫌いじゃ無いし寧ろ好きだけど、これから絵画を観る目が変わるわ。
また、絵画のヒエラルキーの頂点が歴史画で、風俗画や風景画、静物画なんかは格下。けれど、オランダでは格下ジャンルこそ好まれていた事。
女性は歴史画家になりたくても、必須修行『男性の裸体像デッサン』が問題視されていた故に日常的な主題しか選択出来ず。頑張って歴史画家になれても、神話画の王道とも言える“英雄的な”主題が選べなくて、描きたい絵が描けなかった事。
都市部のブルジョワジーのために、農村や農民は現実とは異なる姿で描かれたエンターテインメント作品となっていた事。
などなど時代背景や、画家達が置かれていた環境は非常に興味を唆られた。
勿論、有名画家や作品で解説しているので、周知の事柄も多々ある。が、初めて知る内容もあったので私個人としては良書だった。やっぱエロいシンボリズムは好い。学生時代に本書と出会いたかった。
ただ、画家の人生や人柄については本書よりも、壺屋めり著『ルネサンスの世渡り術』が分かりやすくて面白いなと思う。導入がマンガなのでイメージし易いでしょうし。
まあ「両方読む」のが一番ですけども。
『人騒がせな名画たち』→『ルネサンスの世渡り術』→『人騒がせな名画たち』で戻ると、一度ではピンとこなかった点が、頭と心にすとんと落ちるのでお薦め。
(了)