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水を編む(寺地はるな)あんたの人生は失敗やったの?という言葉
裁縫が好きな息子の清澄について、母さつ子は息子には『普通の男の子』のように生きて欲しいと思っている。裁縫が好きなことをよく思ってはいない。目立つことを良しとしない。『普通』がいい。そして裁縫や刺繍で成功するのはごく一部の人だけ。あの子にそんな才能はない、と言う
清澄の祖母の文枝(さつ子の母)は「誰にでも失敗する権利はある」という。彼は芯があるから大丈夫だとも。そして、あんたにあの子の才能を見抜く目があるというのか?とさつ子に問いかける。
子供には失敗してほしくないと主張するさつ子にさらに祖母は問いかける。あんたの人生は失敗やったの?と。
なかなか痛烈な一言である、と思った。
とあることをきっかけに、普通の高校生なら当たり前のこと、と母さつ子が発した言葉。おとなしかった清澄が初めて反発する。お母さんが言う普通の範囲に収まってたらそれでええんか。
登場人物それぞれが様々な思いを抱えている。
「女の子に学はいらない」。というような言葉を聞くたびに、わだかまりを飲み込んできた祖母。
手作りこそが愛情のしるしであるという言葉に違和感を感じ続け反発してきた母のさつ子。
刺繍や縫い物などの裁縫が大好きで、母からはそれをよく思われず、同級生からからかわれる息子の清澄。
可愛いもの女の子らしいものが嫌いで、かわいいと言われることすら嫌いな娘の水青。
卓越したデザインや服作りの才能があり、善人でありながらも家庭というものに全く不向きだった父の全。
自分は家庭というものにはそぐわないと考え結婚も子供を持つことも選ばなかった父の友人、黒田さん。彼は全を雇って支え続けている裁縫工場の社長さんでもある。黒田さんは清澄の支えにもなっていて、清澄を見守るもう一人の父のような存在なのだが、内面に葛藤を抱えている。
「男の子ならスポーツをしたりして爽やかで、それなりのところに就職をして家庭を持つ。女の子なら可愛く愛嬌があるのがのが大事で適度な年齢で結婚して子供を産む」みたいな『普通』から外れた人たちの集まりであるとも言えるのだが、たいていがそうなのではないか。そもそもこのような枠組みは一体誰が作り出したのか。自然に作り出されたものなのかね。
そして程度の差こそあれど、この登場人物の祖母のように、何かそういうことを聞くたびに、のどや胸の辺りになんともいえぬ「かたまり」のようなものを感じながら生きている人々というのは多くいるのではないかなと思う。器用な人ならあるいは上手に擬態しながら波に乗っているのでしょうか?
序盤、いわゆる『爽やかで人懐っこくさつ子のいう普通の男の子』のうちの1人が、清澄の刺繍をからかうどころか『凄い』と称賛する場面がある。彼とは友人になっていくのだが、このことも清澄が自分の道をはっきり見出すきっかけになっているように少し感じられたな。どうせからかわれる、どうせわかってくれない、というところからの脱皮である。同じことは水青にも起こる。伝える努力をせずに自分をわかってほしいというのは違うと思う、と婚約者から言われるのである。
こちらの本は第9回河合隼雄物語賞を受賞されているそうだ。書店員の方々からの評判もすこぶるよかったらしい。
中学生くらいから読めるのではないか、と思うが、大人の方々も是非読んでいただきたいと思った。
手にとる人、響く人というのはすでに柔軟な方だと思う。一番読むべき層の人は読まないんでしょうね、まったくよぉ。
もう一回リンクのせとこ
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