『夢の都合』
夢の悲鳴が 街に響いた。
ふいに呼び止められる。
「君、ちょっといいかな?
ここで何を……?」
職夢質問的な何かだろうか。
「まさか君、“夢”を追いかけたりしてないだろうね?」
「……?」
「ああ、君だね。ちょっと当局まで来てもらうよ」
「あ、いや、僕は……夢なんか持ってませんし、追いかけたりしてません」
「いいからいいから、最初はみんなそういうんだよ。
ここのところ夢からの相談が多くてね。
しつこく付きまとわれてるって。
イヤな事件も多いし、起きてしまってからだと
叩かれるのうちらだからさ。ね」
「でも……」
「任意同行がイヤなら、公夢執行妨害でもいいんだよ?
ね、いいから来なさい」
「はぁ……」
■■■
そこは当局と呼ばれたビルの一室。
階数はわからなかったけど、眺めからしてかなり高い。
「君たちみたいなのがいるからさ、
俺たちなんか休む暇もないよ」と、その人は言った。
「みんな夢に憧れて、断られても断られても追いかけて
この街までやってきて、しまいには、ほら……見てみなよ。
この街は夢の腐乱死体ですっかり“夢びたし”だよ」
見降ろした街のあちこちに
夢の死骸が散乱しているのが見えた。
「夢なんか持つなって教わらなかった?
夢教育を受けてるはずでしょ。非夢三原則。
『夢をもたず、つくらず、持ち込ませず』
持つなら来るな。持ったら追うな。
持ったところで、無理、無茶、無駄」
「……」
「だいたいさ、君たち、夢の都合とか気持ち
考えたことあるの?」
「夢の、都合……?」
「そうだよ。いつもいつも自分の都合ばかりでさ、
一方通行にもほどがあるんじゃないか?
毎日毎日、いつか必ず! いや今度こそ!
って追いかけて、追い回して。
夢だって、そりゃあ逃げ出したくもなるでしょ」
「……」
「とにかく、これ以上、この街を果てない夢で汚染しないように。
ね。わかったら、きれいさっぱりあきらめて、家に帰りなさい」
「……はい」
「今日は初犯だから注意だけにしておくけども、
もし、自分でももてあましてるなら、いい夢処理場を紹介するから。
処分していきなさい。ね」
「……大丈夫です。帰ります」
――その日、僕は、夢を殺した。
街に、夢の腐乱死体がひとつ増えた。