ヅケマ黑澤明
前回、映画の話に力を入れたいと書いた。ということで日本映画が誇る至宝の映画監督を妄想しながら、鮪を料理した記録。
鮪刺身 1柵
アボガド 1個
葱 1本
三つ葉 半把
摺り胡麻 たっぷり
醤油 大匙2
味醂 大匙2
酒 大匙2
柚子胡椒 お好みで
明治四十三年(1910)四男四女の末っ子として東京に誕生した黑澤明。
父は厳格だったが、よく家族を連れて映画に行っていたという。それが将来への布石になった?
泣き虫のいじめられっ子だった黒澤だが、担任の教師に絵を褒められたことから自信を持ち、成績も向上。級長も務めた。
絵好きが高じて中学卒業後、画家を目指す。
プロレタリアアートな絵。その関連からか日本共産党の下部組織の連絡員も務めた。
徴兵検査を受けたが徴兵免除になったのは、アカと見做されたからか?
兄達の早世により黑澤家の跡取りとなったが、画家としての行き詰まりから就職すべしと新聞記事で見たP.C.L映画製作所の助監督募集に応募。子供の頃に父とよく映画を観た経験から興味を抱いた?
この會社は東宝の前身であり、ここから映画に關わり始めた。
山本嘉次郎に師事し、昭和十八年(1943)に『姿三四郎』で監督デビュー。昭和二十一年(1946)運命の出会い。
撮影所で黑澤は女優の高峰秀子に呼び止められた。
「態度が乱暴だけどすごい男が面接に来ている」
東宝ニューフェイスの面接会場に行くと、若い男が荒れ狂っていた。
「生け捕られた猛獣が暴れているような姿を見て、僕は暫く立ち竦んだ」と自伝に黑澤は記している。
面接試験の課題で暴れる演技をしていたらしいのですが、この男が三船敏郎。補欠合格となった三船敏郎を黑澤は『酔いどれ天使』に起用。
黑澤が生涯に撮った映画は三十本。半分以上の十六本に三船は出演。
『七人の侍』『椿三十郎』『用心棒』等々。正に黄金の組み合わせ。
映画というものに黑澤が与えた影響は大きい。
『羅生門』では同じ出来事を多くの人物の視点から描き出した。
つまり事件は一つなのに關わる人や見ていた人によってまるで違った様相を呈する。
『七人の侍』ではクライマックスの戰闘場面を八台のカメラで撮影。
話も絵も多面的に撮っている。
ブレない芯があるストーリーとリアリティある演出。これこそが黑澤映画のダイナミズムを生んだと思います。
『天国と地獄』では民家の二階が邪魔だから撤去してくれと黑澤は言い出して、撮影が終わったら建て直すからとスタッフは持主を説得して実現。
『蜘蛛巣城』では至近距離から何本もの矢が三船演じる鷲津目掛けて飛んでくる。この場面では実際に弓道の達人に矢を射らせた。
『七人の侍』ではイメージ通りの老婆がいないということで、老人ホームから素人の老婆を連れて來た。
リアリティ追及は行き過ぎることも多々。
老人っぽく見せるために歯を全部抜いてくれと俳優に要求したとか。
『七人の侍』に新人だった仲代達也がエキストラ出演。ただ歩くだけなのに半日近く、何度も撮り直し。
『影武者』では当初、勝新太郎が主役でしたが降板。無茶な要求でもあった?
無茶ぶりの多さから『天皇』等と陰口されることもあったようですが、妥協しない姿勢が歴史的な映画の数々を生んだ。
カンヌ、ヴェネツィア、ベルリン、アカデミーと数々の映画賞受賞。國際的評価も高く、スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスにも影響を与えた。
スターウォーズに登場するR2D2、C3POというロボットは黑澤の『隠し砦の三悪人』に登場する農民がモデル。
『七人の侍』はアメリカで『荒野の七人』としてリメイク。
『用心棒』は『荒野の用心棒』としてリメイクされ、マカロニウエスタンの名作となった。
という具合に世界でも注目された黒澤は日米合作の『トラ!トラ!トラ!』の日本パートの監督を引き受ける。ところが演出方法の違いや重要な役に演技経験のない者を起用したことを不満とした黑澤とハリウッドとの意見の相違から事実上の解任。
黑澤はカラー時代になってから失速したと評した人がいましたが、私の見方は違う。
白黑とカラーで撮り方を変えている。
白黑時代の方が「動」でカラー時代は「静」
『七人の侍』クライマックスの戰闘場面、人工的に雨を降らせて撮影。この雨には墨汁が混ざっていた。これで雨の激しさを表現。
『椿三十郎』のラストシーン、凄まじい血しぶき。これは白黑だから出来ることでカラーだと生々し過ぎる。
『影武者』では隆大介が信長を演じたが、最後近くには白い着物に緑の肩衣という姿で登場。有名な肖像画そのまま。
長篠の戰いの場面、次々と武田騎馬軍団が倒れていく場面も動きがあるのに絵巻物を見ている風。
『夢』の狐の嫁入り場面も絵を思わせる。
カラー時代になってから、画家時代の感性が蘇った?
アボガド、鮪、三つ葉と葱、摺り胡麻をかけて柚子胡椒。
醤油と味醂の甘辛い汁と共に頂く鮪と野菜。胡麻の香ばしさと柚子胡椒の辛さもよく合う。
アボガドと鮪って相性がいい。黑澤と三船みたい。
タンパク質とタウリン豊富を鮪、鐡分も頂ける。
アボガドに含まれるカリウムは余分な塩分を排出してくれる。
三つ葉からは食物繊維とβカロチン。
抗酸化食品の胡麻たっぷりと栄養面も素晴らしい。
黑澤は牛肉が好きだった。
牛肉もいいけれど鮪も負けていないご馳走になる。
記事中に書いただけではなく、黑澤映画は國内外を問わず何度もリメイクされている。
ブルース・ウイリス主演の『ラストマン・スタンディング』は『用心棒』のリメイク。
最近では『生きる』がイギリスでリメイク。
『椿三十郎』は織田裕二主演。
『隠し砦の三悪人』は阿部寛や長澤まさみ出演でそれぞれリメイク。
それだけ時代を超えた普遍性を持ったテーマやストーリーを内包しているということ。
日本どころか世界映画の巨匠、黑澤明を妄想しながら、ヅケマ黑澤明をご馳走様でした。