2021年1月の記事一覧
詩:『羽のない時代に』
あの人はいつも先に行ってしまうから嫌い。
さよならも言わないの。……嫌い。
あなたの背中、ずっと見てきた。
あまりにも優美に進むものだから、
羽が生えているのだと思っていたわ。
でもね、羽は幻だったの。
だって人は空を飛べないもの。
空は、見上げるものなのよ。
同じ地平にいたのね、あなたも。私も。
進み続けたら、いつか追いつけるかしら。
その時はあなたの背中、引っ叩くね。
今に見ててよ。
詩:『吊り下がる夢』
地面のない世界で
とても無力な私の足。
電気信号を発して
気ままに命じれば、
どこへだって
連れて行ってくれた。
当たり前を気にしないことを
永遠と呼ぶのは都合が良過ぎた。
今更よね。後悔したって。
今更よね。後悔したって。
これが夢で良かったと思うのは、
きっと目覚めた後なのよ。
詩:『舌先に乗る遺物』
好き嫌いなんてないの。
出されたものは綺麗に食べる。
手のかからない子ねって褒められたわ。
あなたは好き嫌いが多かった。
ネバネバしたもの、甘いもの、きのこ類、
なーんにも食べられない。
一度無理やり口に入れてみたら、
汚らしく吐き出して怒ったわね。
そうしてあなたと私が、違う人間だってわかったの。
ネバネバしたもの、甘いもの、きのこ類、
食べる度、あなたは嫌いだったって思い出す。
私は、
詩:『糸を通した裸』
後ろに回らないで
あたし見えなくなるから
くるみ割り人形のような腕
それじゃ抱きしめられないわ
心配しないで
自分で下ろせる
自分で外せる
自分で脱げる
そのままでいて
あなた型のあたしなのよ
指と指の隙間にハマって
デュエットで踊りたいの
どうせ回るなら
世界の中心は
あなたにさせて
詩:『くちびるの痕を慈しむ』
空想してばかりね、あなた。
だから、キスが下手なの。
変な癖で喰むの、すこし嫌。
食べられたいわけじゃないの。
ただ、繋がっていたいのに。
けど、
目蓋が閉じる瞬間の色気は好き。
肩から抱き寄せてくれる強さも。
それから触れた時、
鼓動の音が優しく聴こえるの。
好き。
好きだから、直してね。
変な癖、やめてよね。
記憶に残すなら、
置いていかないで。
詩:『死ぬより粗末な恋がしたい』
この身体、全部きみにあげちゃってもいいよ?
放つ言葉は乾いている。声になるのもやっと。
あげちゃってよかった。だってもう必要ないし。
抱きしめる腕の隙間から血が滲み出す。
体温か血液か。どちらのぬくもりか。
だんだん曖昧になって溶け合い出す。
ふるえてるの?泣いてるつもり?
そんなの信じない。
思考回路はいつだってニヒリスティック。
いまこの感触がたとえ心地よくて、
頬を赤らめる程、嬉しく