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【読書】豊饒の海(一)春の雪 by 三島由紀夫


あらすじ

時は明治と大正の間、勲功華族の松枝侯爵の令息・松枝清顕(物語開始時18歳)は、貴族であることから将来が約束され何不自由ない生活を送っていたが、鬱屈を抱え、夢日記を記していた。清顕は父侯爵の意向で、本物の優雅を身につけるため、幼い頃に堂上華族の綾倉伯爵家に預けられていた。綾倉伯爵家の娘・綾倉聡子(物語開始時20歳)は美しく優雅な優れた令嬢である。そんな幼馴染の聡子は、姉弟のように育てられた特別な存在であったが、高い自尊心と繊細な想像力を持つ清顕にとって年上の聡子は、子供扱いしてくるように感じることもあり、うとましくも感じられる複雑な存在であった。聡子は清顕を恋い慕っていたが、清顕は些細なことで聡子に子供扱いされたと思い、自尊心を傷つけられ、突き放したような態度をとるようになり、二人はすれ違う。

そんな中、清顕と親友の本多繁邦は、シャムの王子で学習院に遊学しているパッタナディド殿下とクリッサダ殿下との会話の中で仏教的な輪廻転生についてが話題に上り、深く考える。

聡子は松枝侯爵主催の席で皇族の目にとまり、その子息である洞院宮治典王殿下と婚約する。清顕は、父侯爵・母侯爵夫人から聡子の縁談話について、異存はないかと最終確認を受けるが、それに対しても冷めた態度で聡子と皇族の結婚を支持する。いよいよ、治典王と聡子の婚姻の勅許が発せられると、清顕の中で聡子への恋情が高まってくる。皇族の婚約者となったことで聡子との恋が禁断と化したことから、日常生活からの脱却を夢見る清顕は、聡子とその女中・蓼科を脅迫し、逢瀬を重ねることを要求し、聡子もこれを受け入れる。親友・本多繁邦の協力もあり密会は重ねられ、聡子は清顕の子を妊娠してしまう。中絶を聡子から拒否された蓼科が自殺未遂したことにより、清顕と聡子の関係が両家に知れ渡った。聡子は大阪で堕胎をさせられ、そのまま奈良の門跡寺院「月修寺」で自ら髪を下ろし出家する。治典王との婚姻は聡子の精神疾患を理由に取り下げを願い出た。

清顕は聡子に一目会おうと月修寺に行くが門前払いで会えない。なおも清顕は聡子との面会を希望するが、聡子は拒絶する。そして、雪中で待ち続けたことが原因で肺炎をこじらせ、清顕は親友の繁邦に、「又、会ふぜ。きつと会ふ。滝の下で」と言い、転生しての再会を約束し、20歳の若さで亡くなる。

筆者要約

感想1 清顕がめんどくさすぎる

物語冒頭、聡子は清顕に「私がもし急にいなくなってしまったとしたら、清様、どうなさる?」と意味深な言葉を投げかけ、それにより清顕は言葉の意味を考え数日間悶々とする。
その後、聡子の言葉が縁談を示していると結論した清顕は、聡子の試すような発言に自尊心が傷つけられ、聡子が清顕を慕ったゆえの上記の発言であることに気づきながらも、聡子に対する復讐として「父の勧めで芸者遊びをして女性と関係を持った。女は「みだらな肉を持った小動物」にすぎないとわかった。(筆者意訳)」という内容の手紙を聡子に出す。

一方、日本に遊学に来たシャムの王子に恋人自慢をされた清顕は、想い人の一人もいないなんて馬鹿にされる、美しい恋人がいるように思われたいと考え、劇場で聡子をシャムの王子に紹介する。(そのためには上記の手紙を聡子が読んでしまうと不都合なので、聡子の女中に手紙を聡子に渡さずに破棄するように頼む)

物語中盤から終盤にかけて、聡子とすれ違っていた清顕は、皇族と聡子の結婚について両親から最終確認を受けるものの反対せず、それでいて婚姻の勅許が出て引き返せない状態になってから、脅迫をして関係を迫る。

18歳の高い自尊心を持つ繊細な青年であるとしてもめんどくさすぎる…。

感想2 本多繁邦が良いやつすぎる

そんな清顕の親友である学習院の学友・本多繁邦は、もちろん若い青年らしい未熟さがあるものの、聡明で勤勉、友達思いな本当に良いやつである。

特に物語終盤は、清顕と聡子の密会を手助けするため、車を持っている学友に貸しを作ってまで車を借り、夜通し聡子の送迎を引き受けている。また、清顕が出家した聡子に会いに行くための奈良までの旅費をためらうことなく貸している。

繁邦の協力があってこそ、最終的な結末(聡子の妊娠と出家、清顕の死)に至ったとはいえ、彼は清顕の中に自分にはないものを見出し、最大限その清顕の中にある美とその生き方を尊重しようとしたことに違いはない。

文学作品の中に見られるこのような「全くタイプが異なる親友同士」は何度見ても良いものである。

感想3 綾倉家の内情がややこしい

綾倉伯爵家の家人の人となりや人間関係は、終盤まで明かされることはなかったが、終盤に怒涛の情報量で明かされる。

綾倉伯爵家は格式は高いが、実質的な力では松枝侯爵家の方が優っている。綾倉伯爵(聡子の父)は以前、松枝侯爵(清顕の父)の何気ない発言に自尊心を傷つけられ、その優雅な復讐として、松枝侯爵が聡子の縁組をまとめた際は、聡子を処女で嫁がせるなと、蓼科(聡子の女中)に命じていた。

綾倉伯爵(聡子の父)と蓼科(聡子の女中)は過去に関係を持ったことがあり、蓼科はある意味、綾倉伯爵に一矢報いる形で、(松枝侯爵の設けた席がきっかけで)皇族と聡子の縁談がまとまったタイミングで、清顕と聡子の密会を手助けしていた。

それにより、蓼科は綾倉伯爵の命令を忠実に実行した上で、綾倉伯爵を窮地に追い込むという状況を作り上げた。

この物語を蓼科視点で語らせたらさらにドロドロした人間ドラマになりそうである。


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