【読書】豊饒の海(一)春の雪 by 三島由紀夫
あらすじ
感想1 清顕がめんどくさすぎる
物語冒頭、聡子は清顕に「私がもし急にいなくなってしまったとしたら、清様、どうなさる?」と意味深な言葉を投げかけ、それにより清顕は言葉の意味を考え数日間悶々とする。
その後、聡子の言葉が縁談を示していると結論した清顕は、聡子の試すような発言に自尊心が傷つけられ、聡子が清顕を慕ったゆえの上記の発言であることに気づきながらも、聡子に対する復讐として「父の勧めで芸者遊びをして女性と関係を持った。女は「みだらな肉を持った小動物」にすぎないとわかった。(筆者意訳)」という内容の手紙を聡子に出す。
一方、日本に遊学に来たシャムの王子に恋人自慢をされた清顕は、想い人の一人もいないなんて馬鹿にされる、美しい恋人がいるように思われたいと考え、劇場で聡子をシャムの王子に紹介する。(そのためには上記の手紙を聡子が読んでしまうと不都合なので、聡子の女中に手紙を聡子に渡さずに破棄するように頼む)
物語中盤から終盤にかけて、聡子とすれ違っていた清顕は、皇族と聡子の結婚について両親から最終確認を受けるものの反対せず、それでいて婚姻の勅許が出て引き返せない状態になってから、脅迫をして関係を迫る。
18歳の高い自尊心を持つ繊細な青年であるとしてもめんどくさすぎる…。
感想2 本多繁邦が良いやつすぎる
そんな清顕の親友である学習院の学友・本多繁邦は、もちろん若い青年らしい未熟さがあるものの、聡明で勤勉、友達思いな本当に良いやつである。
特に物語終盤は、清顕と聡子の密会を手助けするため、車を持っている学友に貸しを作ってまで車を借り、夜通し聡子の送迎を引き受けている。また、清顕が出家した聡子に会いに行くための奈良までの旅費をためらうことなく貸している。
繁邦の協力があってこそ、最終的な結末(聡子の妊娠と出家、清顕の死)に至ったとはいえ、彼は清顕の中に自分にはないものを見出し、最大限その清顕の中にある美とその生き方を尊重しようとしたことに違いはない。
文学作品の中に見られるこのような「全くタイプが異なる親友同士」は何度見ても良いものである。
感想3 綾倉家の内情がややこしい
綾倉伯爵家の家人の人となりや人間関係は、終盤まで明かされることはなかったが、終盤に怒涛の情報量で明かされる。
綾倉伯爵家は格式は高いが、実質的な力では松枝侯爵家の方が優っている。綾倉伯爵(聡子の父)は以前、松枝侯爵(清顕の父)の何気ない発言に自尊心を傷つけられ、その優雅な復讐として、松枝侯爵が聡子の縁組をまとめた際は、聡子を処女で嫁がせるなと、蓼科(聡子の女中)に命じていた。
綾倉伯爵(聡子の父)と蓼科(聡子の女中)は過去に関係を持ったことがあり、蓼科はある意味、綾倉伯爵に一矢報いる形で、(松枝侯爵の設けた席がきっかけで)皇族と聡子の縁談がまとまったタイミングで、清顕と聡子の密会を手助けしていた。
それにより、蓼科は綾倉伯爵の命令を忠実に実行した上で、綾倉伯爵を窮地に追い込むという状況を作り上げた。
この物語を蓼科視点で語らせたらさらにドロドロした人間ドラマになりそうである。