新しい置き場

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青空の下を歩くなら春ねむりを聞くといいよ。

目当てにしていた日陰の切り株は外国人観光客家族に取られていて、直射日光を背に小さい方の切り株に座っている。 1月から10月までは、ぐちゃぐちゃに悶えながら成否は問わず人間をやる時間だった。今月から(恐らく)年明けまでは、ひたすら忍耐だ。 なにをやってもいい、ほんとうになにをしてもいいから、ニーゼロニーゴー(2025年のこと)に滑り込めば勝ち。あ、殺人以外ね。殺人はだめ。ひとり生きるためにひとり殺すの、総量変わんなくて意味ないから。じゃあこっちが死んだ方が早いから。 あー、

    • ブルーライトパレード

      その命は勇敢だ。少なくとも死にたいと思った回数、あなたは生きる方を選んだのだから。 なんだかTwitter、Xだったか、でそんな言葉がバズっていた。 それはフォロー数の少ないこのタイムラインにも(正確には“フォロー中”の方ではなく“おすすめ”の方。良い加減こちら側のタイムラインは見たくないのだが、UIの仕様上どうしてもスクロールしてしまうのだった)流れてきて、ミーアキャットはしばしスマホをいじる指を止めた。 彼は、自分の24歳の夏を思い出していた。 ミーアキャットはその

      • ラッコの人生は、

         ラッコの人生は、ほとんどが悲しいと寂しいでできていて、楽しいとか嬉しいとかが訪れることはほんとうに稀だった。  だだっ広い海に馬鹿みたいに浮かびながらラッコが泣いているとき、家族はラッコと一緒に泣いた。恋人は優しくお腹の毛を撫でた。友達は黙って美味しい貝をとってきて、一緒に食べてくれた。そして、みんなは口を揃えて言った。  あなたに、何をしてあげたらいいの?  ラッコにとってそれほど難しい質問はなく、いつもへへ、と不自然な笑みを浮かべた。ラッコはただ、青い空と対峙する度に涙

        • さよならベイベー②

          さっき見た夢には、働いてるバーのお客さんが出てきた。彼は悪い奴らに追われていて、裏稼業とかそっち系の、殺人を厭わない怖い人たち。私は何故か彼と別れ、出会ったことのない彼の友人と新宿の街を逃げ回っていた。夢の中の私は走っても人の五分の一くらいのスピードしか出ないのですぐに捕まって、殺されかけながら、やばい、仕事に間に合わないぞと思ったところで目が覚めた。まだ遅刻の時間じゃなかった。 あなたへの恋を失ってから、私は再び世界と恋に落ちた。夕方の月や、軽い雑談や、アナリティクスや、

          さよならベイベー

          元カレの歯ブラシ捨てられない問題。 光栄だ、人類が長らく挑んできた壮大な問題に、私も参加させてもらえる日が来るなんて。 (というか、なぜ私は特に共通価値に代わりもしないのに身を削ってこんな文章を書いているのだろう。そもそも個人の惚れた腫れたなんてのは文章にしたところでつまらないに決まってる。意味がわからないな) もし仮に、もし本当に仮にだけど、今後持ち主がこの部屋を訪れたとしてももう使えないくらい、歯ブラシは埃をかぶっている。 私は今日も、元カレからの別れの言葉をお守

          さよならベイベー

          俳句沼/俳句は難しくないよの話

          俳句が好きだ。とてもおもしろい。愛おしい。頬ずりしたくなる。 出会いは大学の授業だ。俳句論とかじゃなくて、がっつり句会をやるものを受けていた。毎週、2、3の俳句を持ち寄り点数をつけ感想を言って最後に作者名を発表する。先生は現役の俳人で、ホワイトボードとかプリントとかテストとかレポートとかそんなまどろっこしい片仮名は存在しなく、真に句会をすることがその授業の(そして単位の)すべてだった。そんなストロングスタイルの空間になんかおもろそうという理由だけでひとり飛び込んでしまった私は

          俳句沼/俳句は難しくないよの話

          ちょっくら

          悲しいときはひたすらに悲しくて、あんまり言葉が出てこない。 煙草が吸える喫茶店にいる。さっき恋人にその旨をふざけた言い方で伝えたので、予測変換には「喫茶店にいるます」と出てくる。そんなことはよくて。 頭上には埃を被ったライトがある。広くて丸いテーブルを、ヘッドホンをつけ首を小さく振りながらリズムを取っているイカした髪型ボーイと、大きなスマホに大きなキーホルダーをつけた大きめ帽子ガールと囲むように座っている。なんだか手汗が止まらない。店内の温度調節は上々だ。目の前にはコーヒー

          ちょっくら

          すきぴとの心中をやめにした話

          言葉という得体の知れないものに命を賭して肉薄したい。近頃の私は、その欲求で死にそうになっていた。 こんなに愛しているのに、どうして私の書く文章はつまらないの?悪い大人にひっかかったヒロインの顔をして鼻を啜りながら、許さないんだから、とハンカチを握りしめる。狭窄した視野が捉えたのは凡庸で極端な単語だった。 私、言葉と心中したい。それを生涯の目標としたい。 この間、生まれてからの時間のほとんどで敬愛している作家さんの、未読だった本を読んだ。お花屋さんに憧れる女の子の話と、亡く

          すきぴとの心中をやめにした話

          ガンガン流れるMUSIC

          今日から1週間ちょっと恋人に会えない。 恋人だって、うける。 この先、天変地異が起きないに限った話だけど、1ヶ月前に、24年の人生で初めてまともに恋人ができた。天変地異とはその甚大さに関係なく簡単に起こるので、未だに恐々としている。 私の恋人はまともなので、1ヶ月記念に驚く私に、「1ヶ月なんてそりゃ続くやろ」と言った。私はやべーやつなので、こいつやべーな、と思った。 30日だ。30日間。31日間かもしれない、そこはよくわからない。よくわからない日数間、私たちは恋人という

          ガンガン流れるMUSIC

          ごらん

          ごらん、あれが 私を騙した馬鹿もその新しい恋人も幸せにならないなら、いらない、いらないと喚く赤子の涙の中で、 神様、許されるのならどうか私を不正解にしてくださいと縋りつき懇願している君の瞳で、 勝手に決めつけられて震える心の片隅で、 愛も勇気もうざったかった人が潰した蝿の最後の血雫で、 敵対せずに手を取り合うことがどれほどの奇跡かまだ知らなかった少女の爪の先で、 奪えなかった音楽のメゾフォルテの曲線で、 喘ぐことと、乾くことしかできなかった剥離性口唇炎の細胞で、

          ごらん

          たぶん、祈るほど

          前のアカウントのやつをお引っ越し。  実家が幾つかあって、父のいる離島の方の家では、大晦日の昼と夜は“お祈り”をしてからご飯を食べるのがルールだった。父は真言宗の僧侶なのだ。とはいえいわゆる立派な寺院ではなく、子供部屋の隣と、玄関を入ってすぐの仏間に仏様がいるだけの普通の民家に住んでいた。そこにご飯の乗った御膳をお供えし、父が20分ほど何やら唱えたり指を曲げたりして、私たちは後ろでひたすら手を合わせる、それから仏様の御下がりを頂く、というシステムだ。  私は仏教徒ではないけ

          たぶん、祈るほど

          おういつ

          *前のアカウントで書いたものをお引っ越し  待ち合わせ。ドトール。壁沿いの席に座ると、正面のカウンターに女の子。イヤホンを耳に、真剣な表情でテキストを読んでいる。ケーキセットをトレイに乗せた女性がその横を通りがかり、机上の鞄に体をぶつけた。ピタゴラ式にコーヒーが倒され、水浸しになる。女性はそれに気付かず着席し、いただきますをする。女の子の信じられないという顔。暫し放心のあと、スマホや文房具を雑に救出し、時間をかけてうんざりしてから、レジへ向かう。布巾を借りてきて、目の前でケ

          おういつ

          拝啓 前時代おじさん

          *前のアカウントで書いたやつのお引っ越し ドラマあるある今から言うよ。  「若手女優演じる新入社員の主人公が、ニヤついた中年の男の上司に酷いことを言われる」。ジェンダーとか育休とか、現代社会が持っていてアップデートしなければならない、不平等で独善的な旧式の価値観のこと。そんな偏見を叩きつけられ、ひとり涙を呑む女の子。このニヤついた男の上司は、大抵、登場から30分くらいあとに、ドラマツルギーを乗り越えた女の子に圧倒されて終わる。  私は彼のことをこっそり、「前時代おじさん」

          拝啓 前時代おじさん