ごらん
ごらん、あれが
私を騙した馬鹿もその新しい恋人も幸せにならないなら、いらない、いらないと喚く赤子の涙の中で、
神様、許されるのならどうか私を不正解にしてくださいと縋りつき懇願している君の瞳で、
勝手に決めつけられて震える心の片隅で、
愛も勇気もうざったかった人が潰した蝿の最後の血雫で、
敵対せずに手を取り合うことがどれほどの奇跡かまだ知らなかった少女の爪の先で、
奪えなかった音楽のメゾフォルテの曲線で、
喘ぐことと、乾くことしかできなかった剥離性口唇炎の細胞で、
旧友の会釈を無視した血の池地獄のほとりで、
優しくできたことなんて一度もなかったとビルの8階で可哀想な人が見つめる雲の影で、
殺してくれと唱え続けた老人のまつ毛で、
ゆれる、月のかたちだよ